第557話 ダイン雑貨屋
夕方に館に帰ってきた。
ダインさんや何人かの商会がラザニア村の人間側が住むほうに店を構えている、らしい。
オレは巨人側が住むほうを往来しているので、そちら側にいくのは初めてだった。
マーダたちとは館の前で別れ、一人で向かってみた。
道はよく整備されており、ラザニア村の柵を横目に向かっていると、馬車が一台やってきた。
輸送を目的にした馬車で、御者台には体格のよい男が三人、並んで座っていた。
恐らく巨人用に買っている布とかだろう。たまにホームに布の山が入っているのを見るよ。
あちらはオレを知らないようで、帽子を上げて挨拶してきた。なので、オレも軽く手を挙げて応え、ご苦労様と返した。
通りすぎるのを見送り、先を進んだ。
「おー。意外と発展してんな」
真新しさはあるが、四軒の家が建っており、村の者らしき男女やギルドの家族(主に女性)が買い物をしている姿が見て取れた。
「あ、マスター、こんにちは」
ほへーと見ていたら、ドワーフの子供に挨拶されてしまった。
「あ、ああ。こんにちは。買い物か?」
「うん。苗を買いにきたの」
苗? 畑に植えるヤツか?
「そうか。ダインさんの店はわかるか?」
「ダインさんの雑貨屋ならそこだよ」
へー。雑貨屋として商売してるんだ。他はなんの店をやってんだろうな?
ドワーフの子供に案内してもらい、ダインさんの店に入った。
細々としたものが並んでおり、雑貨屋に恥じぬ商品が売られていた。
「あ、旦那様! タカト様がいらっしゃいました!」
店員らしき若い女性がオレに気がつき、店の奥に向かって叫んだ。
しばらくして汗を流すダインさんが出てきた。忙しかったかな?
「いらっしゃいませ。こんな姿で申し訳ありません」
「いえ、突然すみませんでした。ちょっと状況を、と思ってきただけです」
「はい。あと二日もあれば用意が整います」
「それはよかった。今回はダインさんだけなんですか?」
また他の商会が便乗しようとしてんのかな?
「今回はわたしだけです。あのときはロースランのことがあって流通が滞っていましたが、今は順調に流れています。大きいところは冒険者を雇って出発していますよ」
「あそこは常に見張ってないとダメなところですね」
昔から大変なところだったみたいだが、魔物が巣くったり現れたりする地形なんだろう。ゴブリンも集まってくるみたいだしな。
「それができたらいいんですがね。なかなか上手くいかないところです」
「そうなんですか? 今、巨人にお願いしてセフティーブレットの支部的な場所を築こうとしているんですよね」
「ど、どう言うことですか? 詳しく教えてください!」
と、ダインさんが迫ってきた。
「わ、わかりました」
奥に連れていかれ、なんか麦茶のようなお茶を出された。うん。麦茶だわ。
麦茶を飲みながらミランド峠にいったこと、灰熊やゴブリンが現れたこと、巨人に協力を求め、街の巨人が依頼を受けたことを話した。
「……タカトさんは商人か領主になったほうがいいですよ……」
「オレは誰かの下で与えられた仕事をコツコツとやっていくのが好きなんですがね」
こんな明日をも知れず、毎日とかストレスと戦う仕事とかゴメンである。転職できるものなら今日にでもゴブリン駆除なんて辞めてやるよ。
「まあ、タカトさんらしいですが、わたしも一枚噛ませてもらえませんか? セフティーブレットが仕切ってくれるのなら安全な地となるはず。なら、今のうちから動くべきです」
「あちらに回せる人はいるんですか?」
行商から店持ちになったばかり。従業員なんてそんなにいないのでは?
「問題ありません。アシッカから帰ってきてからすぐ人を集めて商売を教えてあります。まあ、最初はわたしが出向いて準備しますよ」
用意周到な人だ。オレも見習わんといかんな。
「それならダインさんが巨人に依頼して、ダインさんから報酬を渡してください。ちなみにオレはワイン五本で雇いました」
「ワインですか。タカトさんにしかできない報酬ですね。わたしは、金で払います。巨人も金がないと暮らしていけませんから」
「巨人を雇うって、いくらくらいかかるものなんです? そもそも、オレが雇ってよかったものなんですかね?」
なんか人間が管理しているとかロミーから聞いたような気がする。
「城からの仕事の他に個人で請け負うこともあるので問題ないかと思いますよ。報酬はかなり高めですね。巨人は手先が器用で力もありますからね。巨人一人でも一日銀貨五枚はかかると思います」
銀貨五枚ね。大体日当五万円ってところか? まあ、一日で家を建てちゃうような種族だしな、まあ、妥当だろうよ。ワイン五本で雇ったオレのほうが悪徳だな。
「ダインさん的には大丈夫なんですか?」
「このくらい安いものですよ。巨人を雇うのはいろいろ大変ですからね」
即決されたけど?
「タカトさんにもお礼金は出させてもらいます」
「別についでなんだから構いませんよ」
オレがなにかしたわけじゃないし。
「いえ、これはもらってください。今後、タカトさんを通して頼む者が出てくるでしょう。断るときの理由に使えますよ」
そう言うものか。まあ、いろいろ言われるのは面倒だし、ダインさんの忠告は聞いておくとしよう。
「わかりました。お礼はダインさんが決めてください。オレにはわからんので。まあ、現物でも構いませんよ。次回、巨人の報酬に使うんで」
腐らないものなら倉庫に入れておけばいいしな。
「わかりました。シエイラさんと相談します」
「ええ。そうしてください」
帰ったら仕事増やしてごめんなさいと謝っておこう。うん。
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