第556話 ボーナス

 巨人の移動はとにかく目立つ。


 まあ、昔から巨人と共存しており、街にも巨人は住んでいるのであからさまな視線は向けられないが、身長七メートルの巨人が二人も歩いていたら振動で気づいて目を向けてきた。


「コラウスの橋がやたら頑丈に作られているわけだ」


 コレールの町近くの四メートルあるかないかの橋を、二人の巨人が補修をしていた。


 あちらもこちらに気がついたようで、作業の手を止めて手を挙げて挨拶をしてしきた。


「ラザニア村のもんかい?」


 巨人だからって皆顔見知りってわけじゃないんだな。


「ああ。ダンだ。こっちは妹のココだ。この男の依頼でミランド峠に建物を作りにいくんだよ」


 巨人二人の目がこちらに向いたので、KLX230のエンジンを止めた。


「オレはタカト。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスターだ」


 一応、オレも名乗りをあげておく。


「あんたがタカトかい。ウワサには聞いているよ」


 オレ、自分が思う以上に有名人だったりする?


「悪いウワサかい?」


「いいウワサだよ。巨人用の道具を人間用の道具と同じく売ってくれてんだからありがたい限りだよ」


 ラダリオンの腕輪もエネルギーを消費して巨大化させているからタダってことはないが、巨人になれる指輪よりは消費は少ない。ラダリオンの食べる量が少し増えるくらいだ。


「こちらに利があってやっていることさ。まあ、喜ばれているならなによりだ。ところで、ここは通れないのかい?」


「馬車でないならおれらが渡すよ」


 と言うのでKLX230とオレをつかんで川向こうに運んでくれた。


「仕事に余裕があるならミランド砦にきてくれ。報酬はワイン払いになるがな」


「何本だ?」


 あれ? 冗談で言ったらなんか本気に取られてしまった。


「一日五本かな? もちろん、巨人に合わせての五本な」


 日当にすると二千五百円だが、巨人にしたら張り切るだけの量になるみたいだよ。


「いつまでやるんだ?」


「はっきりとは決めてないが。十日くらいは見てるかな?」


 巨人の仕事は早いが、材料調達から始めるから十日くらいはかかるんじゃないか? まあ、早く終わったらまた別なことを頼めばいいさ。


「そうか。何人までいいんだ?」


「んー。宿屋的なものと馬屋、倉庫が二つ、あと用水路を造って欲しい。あとは、できてからだな」


「それなら五人もいればいいな。明日にはミランド砦にいくよ」


 ってことは、この二人がくるってことか。


「食事はこちらで用意する。持ってくるのは道具や資材くらいでいいぞ。報酬とは別に夜に酒を一本出すよ」


「ウワサ通り、気前がいい男だ」


 巨人の待遇が悪いだけじゃないか? まあ、オレの価値観が元の世界のものだから気前がいいと取られても仕方がないがよ。


「仕事次第じゃ報酬の上乗せをするよ」


 ボーナスが出る出ないは働く者に取って重要なことだ。オレだって車のローンで夏冬のボーナス五万円払いしてたし。


「そう急ぎでもない。無理しないできてくれ」


 そう告げてミランド砦に向かった。


 それからなんの問題もなく昼前に到着できた。やはり巨人の歩幅だと速いな。


 隊商の往来もないようで、広場は元通りになっており、集まってきた冒険者 たちもいなくなっていた。


「ありがとな。なにか問題はあったか?」


「平和なものでしたよ」


 オレは歩くとトラブルに当たるのに、ミリエルだと平和だとか、よかったと思う反面、やりきれない思いもあった。いや、なにかあってもマーダたちやロイズたちが解決しそうだけどな。


「ダン。抜いた木を片付けてくれ」


 さすがに太い木はそのままにしてある。マーダたちも一日でどうこうできる量じゃないしな。


「ココは自分たちの寝床を作ってくれ。ミリエル。必要なものを渡してくれ」


 巨人になれる指輪をミリエルに渡した。


 これのいいところは誰にでも使えることであり、装着者の意思とは関係なしに持ち物を巨大化してくれ、手から離したものは小さくならないってことだ。


 まあ、空薬莢もデカいままとかデメリットもあるが、そこはケースバイケース。巨人になるときは考えて行動しましょうってことだ。


 誰にでも使えるってことは交代で栄養剤も飲めると言うこと。リレー形式で対応できるってことだ。重武装した五人の巨人から波状攻撃を受けたらグロゴールでもタコ殴りにできるだろうよ。


「わかりました。ココ、よろしくね」


「ん? ミリエル、ココのこと知っているのか?」


 なんかフランクに話しかけているけど。


「よくお茶しに離れにきてましたよ」


 そうなの!? まったく記憶にございませんよ!


「まあ、タカトさんはすぐ逃げてましたからね……」


「奥様連中の中に自ら入っていく男はいないよ」


 いるんならそいつはバカか勇者かのどちらかだ。オレは真っ当な精神を持っているから速やかに逃げさせていただきます。 


「まあ、お茶する仲ならココの相手は頼むよ」


 巨人とは言え、年頃の娘とどう接していいかわからん。若い娘は若い娘に任せる。って、なんかオヤジクセーな、オレ。まだ三十一歳なのによ。


「マーダ。ニャーダ族は一旦帰れ。ロイズたちは悪いが、もうしばらく残ってくれ。オレも戻るんで」


 ダインさんの状況も知っておきたい。ここはミリエルに任せるとしよう。

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