第558話 ウェルカム

 次の日、ミランド峠に出ていたミリエルから巨人がきたと、ミサロを通じてオレに報告がきた。


「随分と早いこと」


「陽が昇る前に街を出たみたいよ」


 時刻は八時過ぎ。どんだけ張り切ってんだよ?


「わかった。いってみるよ」


 パイオニア一号のオイルとタイヤの交換をしたかったのだが、また今度にするか。今のところ二号と五号は残っている。一号が使えなくても問題はないさ。


 ちなみに三号はミランド峠に。四号はメビたちが使っております。


 ホームに入り、待っていたミリエルにダストシュート移動してもらった。


「ん? なんだ?」


 巨人が十人くらいいるように見えるのは気のせい……ではないな。十一人いたよ……。


 あれ? 五人とか言ってなかったっけ? オレ、なんか聞き間違いしていたか?


「すまない。どうしてもと迫られて断れなかったんだ」


「まあ、きたなら構わないよ。それなら仕事をしてもらうまでだ」


 人数が増えるのはいつものこと。増水したときに備えて堤防を造ってもらって山の上に待避所を築いてもらうとしよう。どうせ報酬はワイン払いなんだからな。


「親方的な立場のヤツは誰だい?」


 巨人が視線を飛ばし合い、アゴ髭しかない男に集まった。


「マッゴでいいだろう。若頭だしな」


 他も推薦するのでマッゴって男になった。


「オレは孝人だ。よろしく頼むよ。若頭って、なにかの集団か組織なのかい?」


「おれらは橋職人組でロルダン一家だ。マッゴ・ロルダン。次期当主、って立場だ。よろしく頼む」


 なるほど。それで若頭か。


「橋職人って、家も建てられるのか?」


「まあ、さすがに本職には負けるが、豪邸を建てるんじゃなければおれらでも問題ない。建てるのは人間の家だからな」


 確かに豪邸を建てるわけでもないし、ライフラインが充実した家は求めちゃいない。丈夫に造ってくれたら構わないか。


「オレは素人だから任せるよ。なるべく頑丈に造ってくれ。いいものができたら報酬を上乗せするからさ」


「ああ、わかった。期待以上のものを建ててやるよ。報酬は頼むぜ」


 職人気質がありそうだから丸投げしても安心だろう。


「それと、オレの知り合いもここに店を構えたいそうだから受けてくれると助かる。一日銀貨五枚で頼みたいそうだ」


「銀貨五枚か。どうだ?」


 他の巨人に尋ねた。


「もし、他に望みがあるなら銀貨五枚で売ってやるぞ。甘い菓子とか嫁さんや子供に喜ばれるんじゃないか?」


 どうも個人的なアルバイトみたいな感じできたっぽい。なら、金より物のほうがいいんじゃないかと思って言ってみた。


「ただ、オレが出したものは触らないと十五日で消えてしまう。それを踏まえて考えてくれよ」


「……ウワサで聞いたんだが、あんたは人間が使う道具をおれらが使える大きさにできるって本当か?」


「まあ、できると言えばできるが、なんの対価もなくできるわけじゃない。魔力的なものを消費するし、限界もある。精々、オレが持てるくらいのものだな」


 重装備のまま巨人になるとたくさんのエネルギーを消費する。それはつまり、装備にもエネルギーが持っていかれるってこと。その辺も考えないと巨人でいられる時間は少なくなるだろうよ。


「それは食料、塩や砂糖でもできるのか?」


「まあ、できるとは思うぞ。てか、砂糖なんてあったんだ」


「量は少ないが、たまに手に入る」


 その言い方だと砂糖は貴重なもの。いくら稼いでいる巨人でも少量しか回ってこないだろうよ。


「つまり、塩や砂糖を大きくしてくれと?」


「ああ。やってもらえるか?」


「時間が空いたときにあんたらのところにいく、でいいかい? オレはこれからライダンド伯爵領にいかなくちゃならんからな」


「それで構わない」


「それをダインって商人にも伝えてくれ。ここに店を出したい商人だ。値段交渉してくれ。重さで金額を決めるからさ」


 どうするかはシエイラと相談しよう。オレじゃ安く引き受けそうだからな。


「わかった。そうしよう。じゃあ、始めるか」


「あ、ラザニア村から連れてきたダンは別なことさせるな」


 職人の中に素人を入れるのも酷だろう。それなら別のことをやってもらうとしよう。


「ミリエル。ここを頼む。ダンを連れて周辺を探ってくるから」


「イチゴは連れてってくださいね」


 うん。どうやらゴブリン駆除から外したのを根に持っているようだ。次はちゃんと誘うから許してちょうだいな。


「ダン。付き合ってくれ。あとお前、ゴブリン駆除請負員になれ。樵ならゴブリンと遭遇することもあるだろうからな。ショットガンを渡すから」


「本当か!? おれ、請負員になりたかったんだよな!」


「そうなのか? なりたいなら言ってくれたらよかったのに」


 セフティーブレットはいつだってウェルカムだぞ。


「村としてはあまり請負員になって出ていかれると困るからな。タカトから望まれない限り請負員になることは禁止されてんだよ」


 いつの間にそんな決まりができてたんだよ。まあ、わからないではないがよ。


「ミリエル。ホームにショットガンってあったっけ?」


 ベネリM4はすべてなくなっていたのは確認したが。


「KSGなら四丁ほどガレージにあったと思います」


 在庫管理はミサロに任せているが、ミリエルもたまに自主的にやっているんだよ。


 KSGを思い浮かべて取り寄せた。


「ミリエル、頼む」


 巨人になれる指輪はミリエルがしているので。


 わかりましたとKSGをつかんで巨人に。あまり食ってなかったのか、可愛いお腹の虫さんが鳴いた。


 うん。聞こえなかったことにしよう。


 弾を入れてもらっている間にホームからイチゴを連れてきて、なにか言われる前に周辺の探索にでかけた。

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