第559話 マンダイチの光

「ここ、いいな」


 山の頂上に立ち、理想的な立地に満足する。


 ここなら広場を一望でき、ライダンド伯爵領の草原も見て取れた。


「なにがいいんだ?」


「灯台を立てるのにだよ」


 指標があれば空で迷うこともなく、夜でもライダンド伯爵領に飛んでいけるはずだ。


「ダン。ここに人が住める塔を造ってくれ。一番上で火を焚いて、遠くからでも明かりが見えるようにする」


「マンダイチの光だな」


 マンダイチの光? なんじゃそりゃ?


「昔、遠くにいる者に光で伝えた英雄の名だよ。魔物の大群が迫っているのを教えてコラウスを救ったらしい。ここじゃ有名な物語だ」


 もしかしてそれ、昔の駆除員じゃないか? マンダイチって、なんか日本語が訛ったような感じがするし。


 コラウスに元の世界の名前が所々にある。この世界の者が出せる発想とは思えない。発想したとしても狼煙だろう。こんな山に囲まれた地では。


 灯台の形を説明し、まずはここまでの道を整えてもらうことにする。


「村での仕事もあるだろうから、マッゴたちに任せてもいいからな」


「ああ、わかった。任せろ」


 働き者の巨人でなによりだ。


「オレらはラザニア村に帰る。なにかあればミリエルと相談してくれ」


 そう言ってイチゴを連れてホームに入った。


 タイミング悪くミサロがいないので、戻ってくるまでガレージの確認をすることにした。


「なんか銃が増えたな。これ、タボールか?」


 VHS−2と悩んだブルパップのアサルトライフルだ。


「確か、X95だっけか?」


 サイトやサプレッサー、ライトがついたものが五丁にタボール7も五丁増えていた。誰が使うんだ?


 オレもたまに使うが、こんなにいらないだろう。オレ以外の予備ってことだろう。使ってたヤツ、いたっけ?


「まあ、いざってときに使うか」


 いざってときがやってくる未来しかないのが悲しいけど!


「X95。あると使ってみたくなるな」


 銃が好きになったってわけじゃないが、新しいものを使いたくなるくらいには男心はある。攻撃手段を魔法に移行しようと思ってたのに、こんなの見たら使いたくなるぜ。


 一丁つかみ取り、構えてみる。


「まあまあかな」


 慣れてないのもあるが、VHS−2とそう大差はない。一日も使ってたら慣れるだろうよ。


 VHS−2装備を着てみてX95との相性を確かめた。うん。悪くはないな。


「タカト」


 おっと。ミサロが戻ってきた。


 このままでいいやと、館にダストシュート移動してもらった。


 ダインさんの店にいくと、倉庫の前に三台の馬車が停まっており、荷物の積み込みをしていた。


「ダインさん。準備は順調のようですね」


 チェック作業しているダインさんに声をかけた。


「あ、タカトさん。はい、暗くなる前には終わります」


「そうですか。なら、明日は七時に出発ってことでいいですか?」


 七時に出れば十五時くらいには広場に到着できるはずだ。


「はい。それでお願いします」


 それ以上は邪魔になるので館に戻り、オレも明日の用意──と言ってもパイオニア二号と五号にガソリンを容れ、職員を集めて明日のミーティングをするだけ。あとは、早目に休むよう伝えて解散とする。


 オレも明日のために風呂に入ってさっぱりし、ビールを一缶だけで止めておいた。


 体力がついたからか、まだ眠くはならないので、乗馬入門書を買って学習することにした。


 のんびり読んでいると、雷牙が帰ってきた。


「お帰り。たくさん駆除できたか?」


 すっかり明るく元気な男の子になった雷牙。今日も汚れて帰ってきた。


「うん! 今日はメビに勝ったよ!」


「おー。それは凄いな。メビに勝つなんて」


 狙撃ができるだけに有利だと思うんだがな?


「へへ。勝ったと言っても一匹だけなんだけどね」


 照れ臭そうに白状した。


「それでもメビに勝つのは凄いことさ。まあ、メビのことだから次は必死になるだろうから勝つのは困難だろうけどな。どうしたら勝てるか考えに考えることだ」


 あの獣人姉妹は負けず嫌いで勝ち気だからな。年下の雷牙に負けるのをよしとはしないだろうよ。


「次も勝つ!」


「それでこそ男の子だ。でも、勝つばかり気がいって空回りするなよ」


「うん! わかった!」


 まあ、負けても腐らずがんばることだ。


「──雷牙。ほら、お風呂に入るわよ」


 と、ミサロがいつの間にか雷牙の背後に現れた。瞬間移動か!?


「じ、自分で入れるよ!」


「そう言って洗い残しがあるでしょう」


 力は雷牙のほうが強いと思うのだが、抵抗など無駄だとばかりに雷牙を風呂に連れていった。


「過保護な母親だな」


 自分の子を産んだらべったりしそうだ。十歳を過ぎたら勝手に育てでいいと思うがな。オレも結構放っておかれて育った。それでも犯罪に走ることなく健全に育ったのだから親は間違ってなかったはずだ。


 ……と言ってもオレはじいちゃん子だったけどな……。


「ただいま」


 久しぶりにラダリオンが帰ってきた。


「ご苦労様。今、雷牙とミサロが入っているからユニットバスを使え」


「そう」


 って返事したのに女風呂のほうに入っていった。雷牙と入りたいのかな?


 見た目からか、うちの女子たちは雷牙を男ではなくペットとして見てる節がある。


 雷牙には申し訳ないが、女子たちの癒しとなっておくれ。ホームの平和はお前の肩にかかっているんだ。


 女風呂を向いて合掌した。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る