第560話 支部(仮)予定地
出発の日は雲一つない青空だった。
ゆとりが出たんだろうか? 空に意識を向けられるようになっているよ。去年は寒いか雨か雪しか記憶にないのによ……。
「では、出発しましょう」
一応、この集団のリーダーはオレとなり、出発の合図を下した。
何事もなくコレールの町までくると、どこかの隊商が出発する準備をしていた。
「コレールの町からならなんとかライダンドにいけるんじゃないか?」
朝六時に出ればミランド峠を越えられるんじゃないか?
「越えた先の森は狼が多く生息していて夜は危険なんですよ」
「へー。そんな理由があったのか」
ミランド峠で野営するにはちゃんとした理由があったんだ。
「峠を越えるために早く出て、広場でゆっくり休む。そして、いっきにライダンドの領都まで進む、が基本ですね。まあ、そのせいで魔物が集まってくるんでしょうけど」
「コラウスが辺境ってのがよくわかるな」
どこのルートを通ろうとしても魔物の心配をしなくちゃならない。それで滅びないコラウスが凄いのか?
天気がよく魔物も現れないので移動は平和そのもの。ゴブリンの気配も疎らだ。
そのお陰か、十四時前には広場に到着してしまった。
「……もうここまで進んでいるんですか……」
支部(仮)予定地は、すっかり均されており、薪を集めていた掘っ立て小屋が立派な小屋に変わっていた。ほんと、進んでんな!
馬車を広場に停め、馬を外したら総監督たるミリエルのところに向かった。
パイオニア三号の横にテントが張ってあり、冒険者らしき集団がいた。なんだ?
「あ、タカトさん。冒険者たちが泊めて欲しいと集まってきて、どうしましょう?」
「泊めてもなにも広場は自由に使っていいんだから許可なんて取る必要もないだろう」
まだ支部(仮)予定地のことはシエイラに頼んであるがまだ許可はもらってないので、広場は独占していない。そちらはご自由に、だ。
「ここだと食事と水の心配はありませんし、灯りもあるから魔物も寄ってきませんからね。ゆっくりしたいんでしょう」
まあ、冒険者は徒歩だ。ここまで坂道を登って野宿は辛いか。
「じゃあ、食事だけ金をもらえ。銅貨二枚くらいでいいだろう」
食事はホームから持ってきているから安く済んでいるし、そう凝ったものは出していない。巨人のはココが作っているしな。
「わかりました」
ミリエル一人では大変なので、連れてきた職員にも手伝ってもらった。
「タカトさん。お願いします」
野営の準備が終わったダインさんがやってきたので、巨人になれる指輪をミリエルからもらって巨人たちのところに向かった。
巨人の野営地は川向こうの蛇行した砂地に作ったようだ。
現地で作ったのかテーブルやら台が置かれ、トイレなのか川の上に小屋ができていた。
……巨人に現代の利器を渡したらとんでもない都市を築いてしまいそうだな……。
「ご苦労様。ここに住み着きそうな勢いだな」
台に上げてもらい、労いと冗談を口にした。
「食料がなんとかできたらそれもいいかもな」
冗談とも本気とも取れる返しをしてくる。食料がそれだけ重要ってことなんだろうよ。
「ダインさん。交渉は任せます。オレはちょっと席を外しますんで」
台から降ろしてもらったらホームに入り、巨人になれる指輪を嵌めた。
空腹具合から半分は切っている感じだろうか? 栄養剤を一つは飲めそうだな。
一つ粒飲むと空腹はなくなり、食べたい気持ちにならないので外せる装備はすべて外し、リュックサックに焼酎やワイン、日本酒なんかを詰め込んだ。
「重っ。入れすぎたな」
一人一本でも十人分を入れるとかなりの重さになる。今回は七百ミリリットルのを入れられるだけ入れたから三十キロくらいになっているよ。
リュックサックの底が抜けないよう支えながら外に出る。
巨人になると、ちょっと小腹が空いたくらいになる。もしかして、巨人になってから栄養剤を飲んだほうがいいのかな? どうなんだ?
「今日の分だ。好きなのを一本飲んでくれ。残りは明日だからな」
「おー! 一本とか豪勢だな! いつもは一杯飲めればいいからな!」
それは可哀想に。オレなら飲めないストレスで死ねそうだな。
「回し飲みで、いろいろ味を知っておけ。次から気に入っヤツを出すからよ」
ワインかエールしか知らない巨人たちだが、ラザニア村の巨人は甘めの酒を気に入っており、特に芋焼酎を好む者が多かったっけ。
「これ美味いな!」
「なんだ、果実酒か!?」
「芋から作った蒸留酒だよ。ワインより高い酒だ」
霧島や赤兎馬と言った有名どころをいくつも持ってきた。これだけあれば気に入るのが一つくらいあるだろうよ。
「あまり飲みすぎるなよ」
って、無理そうだな。明日は二日酔いで動けないコース決定だ。
「ダインさん。仕事は引き受けてくれましたか?」
「え、ええ。金貨三枚で建ててくれるそうです」
三十万円くらいで引き受けたのか。まあ、三十万円で家が一軒建てられるなら安いものか。どんな家かはわからんけど。
「一人、女性を残していくので食事や寝床をお願いできますか?」
あー。なんか女性がいるな~と思ったらこのためだったのか。
「構いませんよ。うちの職員も一人置いていきますから」
いつまでもミリエルを置いてられない。パイオニアを運転できる職員を置いておくことにしたのだ。
「酔っ払った巨人の側は危険なので戻りますか」
「そうですね」
ダインさんを台から降ろしてやり、元に戻ったら野営地に戻った。
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