第561話 ゴッズ(蜥蜴人間)

 何事もなく夜は更け、そして、何事もなく朝を迎えた。


 一応、イチゴに見張りに立たせたが、オレはパイオニアに乗っていただけであり、眠らせてもらってたので夜番を任せてもらったのだ。


 皆が起きてきたらホームに入ってシャワーを浴び、新しい下着とMP9装備に着替えた。


 巨人になれる指輪を嵌めて朝食ビュッフェを買った。ミサロが館のほうで仕事があると言うのでな。


 昔のラダリオンでも完食できなかった量だが、巨人になれる指輪をして食べたら完食しそうな勢いだ。職員やダインさんたちに持っていかなくちゃならないんだからこの辺で止めておこう。


 大皿に料理を移し、外に運び出した。


「セフティーブレットに入ってなにがいいって、旅先でも美味いものが食えることですね」


「いいものすぎて他で食えなくなったのが困りものだがな」


 職員たちの士気を高められるなら食事くらい安いものだ。


 食後のコーヒーを飲んだら出発準備を始め、用意が整ったら出発した。


「ミリエル。あとは頼むな。なにかあれば呼ぶんで定期的にホームに入ってくれな」


 ラダリオンも雷牙も忙しそうで、なかなかホームに入ってこない。いざとなればミリエルに頼るしかないのだ。生き物相手ならミリエルが最凶だからな。


「わかりました。絶対、呼んでくださいね」


「も、もちろんだよ。じゃあ」


 ミリエルさんったらまだ根に持っているようです。これは、次呼ばなかったら大変なことになりそうだわ……。


 笑顔のミリエルに見送られてオレたちも出発。馬車の後ろについた。


 時速五キロくらいなので眠気が襲ってきた。


「あとは頼む。なんかあったら起こしてくれ」


 そう言って眠りにつき、目覚めたら森の中だった。


 時刻は十一時過ぎ。四時間くらいは眠れたか。ふぁ~~っ!


「状況は?」


「特に問題はありません。先ほど狼を見ましたが、すぐに森の中に消えました」


 プランデットをかけて動体センサーで辺りを探ると、三時方向に三メートルくらいのが反応があった。


「三時方向、距離百メートルのところに体長約三メートルの二足歩行する生き物がいる。尻尾か? なんかケツの辺りから伸びているな? 右手にこん棒らしき武器を持っている。こちらと同じ速さで並走しているな」


 ロースランやオーグではない。初めての反応だ。なんだ?


「恐らくゴッズです! 一匹ならはぐれです」


 連れてきた職員の中で一番戦闘の経験があり、偵察もこなしていたローガが荷台から飛び降りた。


「笛を吹いてダインさんたちに伝えろ! ダリ、ついてこい! 残りは馬車を守れ!」


 オレもパイオニア五号から降り、MP9にマガジンを差して弾を装填した。


「オレは牽制。ダリは援護。ローガが攻撃だ」


 MP9とスコーピオンを持つオレらではあの体格に致命傷は与えられないが、MINIMIを持っている。一匹なら充分だろう。


「タカトさん!」


「こちらは大丈夫です! 先を進んでください!」


 守りながらの戦闘は危険だ。てか、そんなのオレには無理。そこまで戦闘慣れしてないわ。


「ゴッズがこちらの動きに気づいた。一時からくるぞ!」


 不意打ちを狙っていたのだろう。だが、こちらが気づいたことで自棄になったんだろう。そりゃ、はぐれになるわけだ。群れの中でも協調性がなかったんだろうよ。


「距離、三十。ローガ、撃て!」


 考えもなしに突っ込んでくる。なら、正面から撃ってやるまでだ。


「了解!」


 MINIMIから5.56㎜弾が吐き出され、ゴッズに襲いかかった。


 鱗に覆われているわけじゃないようで、筋肉に食い込んでいる。が、なかなか倒れない。


「撃ち方止め! 弾倉を交換しろ!」


 百発以上は撃ったはず。ゴッズが倒れたうちに交換しておくとしよう。


 動体反応から熱反応に切り替えると、なんか熱が低い。変温動物か?


 すぐに動体反応に切り替える。こっちのほうがわかりやすい。


 さすがに何十発も食らえば致命傷となっており、ピクピクと痙攣を起こしている。


「血は赤いんだな」


 青い血っぽい面構えなのによ。


「こんな魔物もいるんだな。水辺に住んでそうな体なのに」


 沼地で繁栄してそうな感じだぞ。


「ええ。ゴッズは湖や沼地に生息する魔物です。ライダンド伯爵領とマガルスク王国の間にあるカノロ湖に住んでいます。カノロ湖が盾になってマガルスク王国から流れてくる者はいません」


 なんでライダンド伯爵領に流れていかないのかと思ったらそれが理由か。


「ゴッズがこちらに流れてくるなんて滅多にないんですがね」


「起死回生を狙ってこっちにきたんじゃないか? はぐれかもしれないが、武器を使うだけの知能はあるからな」


 驚いたことに腰に草で編んだベルトらしきものを巻き、袋を繋いでいた。ゴブリンよりは知能が高そうだ。


「魔石はあるのか?」


「あります。水の魔石です」


 水の魔石、あるんだ! 海にいかないとない話だったのに。


「ただ、こういったはぐれから取れるので市場にはなかなか出てきませんね。まあ、出ても不人気なので他所に流れていきますが」


 なるほど。水魔法は希少ってことか。


 しかし、瀕死だってのになかなか事切れないな。どんだけ生命力が高いんだよ。これだとバトルライフルじゃないと苦戦しそうだ。


 時間がもったいないので血を吸い出して止めを刺してやった。

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