第196話 口が上手い女

 二十二時にミシニーたちと交代して見張りについた。


 ビシャからメガネを借りてミリエルにつけさせ、オレはヘッドライトとVHS−2につけたライトでキャンプ地を回った。


 三時間しか仮眠できなかったから眠くて仕方がないが、ロースランのときの緊張はない。昼間あれだけ騒ぎ、ガソリンを使って焼きもした。あれで近づいてくる魔物はアホだろう。危機感がなさすぎるにもほどがある。


 とは言っても魔物にもそんなアホはいるはずだ。眠くても油断はしない。一時間毎にブラックコーヒーを飲み、朝の五時まで見張りを続けた。


 ゆっくり眠ったミシニーたちと交代。ミリエルはホームに戻し、オレはパイオニアで横になった。


 揺さぶられて起きると、すっかり明るくなっており、アポートウォッチを見たら九時になっていた。


 ……四時間だけど、ぐっすり眠れたな……。


「おはようございます。朝飯は食いましたか?」


 大きく伸びをしてからパイオニア二号でやってきたカインゼルさんに挨拶した。


「ああ。適当に摂った。顔を洗ってこい。ラダリオンたちに周辺を見回ってもらってるから」


 カインゼルさんの言葉に甘えてホームに戻り、熱いシャワーを浴び、軽く朝飯を食ってると、ミリエルが起き出した。


「もう少し寝ててもいいぞ。カインゼルさんたちがきてくれたからな」


「いえ、大丈夫です。シャワー浴びてきます」


 そう言えば、ミリエル用の風呂、脚がないときの仕様だったっけ。帰ったらリフォームしてやらんといかんな。七十パーセントオフシールを使えばそんなにかからんだろうよ。


 ミリエルに朝飯を用意してやり、装備を調えて先に外に出た。


「カインゼルさん。生け捕りしたゴブリンの中から活きのいいのを選んでください。悪いのは殺してくれて構いませんので」


 眠りの魔法が解けたようで、元気なゴブリンがキーキーと騒いでいる。また眠らせてから運ぶとしよう。


「その前にゴブリンを洗ったらどうだ? 臭いが酷いぞ」


 確かに言われてみれば、だな。狂乱してた中やってたから鼻がおかしくなってたよ。


 ラダリオンを呼び、巨人に戻ってもらったら川から水を汲んできてもらい、マキタの充電式高圧洗浄機でゴブリンを洗った。


「さすがマキタ。異世界でも神器に勝る優秀さだ」


 バッテリーをもうちょっと安くしてもらえると助かるんだが、電源の取れないところでは頼りになるヤツである。


「まさに道具は使いようだな」


 ヒートソードを地面に刺し、五百度にすればいい暖房器具になる。あ、風呂を沸かすのにも使えるな。ゴルグたちに露天風呂造ってもらうか。


「てか、二千度にしたらどんだけの放射熱になるんだ?」


 まあ、この謎の科学技術で造られたヒートソード、持ち手には熱が伝わらなくなってたりするんだよね。これで魔法の武器がダメな理由がわからんよ。


「ミリエル。ゴブリンを眠らせてくれ」


「はい。皆さん少し離れてください。近くだと無差別になってしまうので」


 基本、眠りの魔法は飛ばすタイプのもので、至近だと四方に放ってしまうそうだ。


 五メートルほど離れると、ミリエルが地面に手のひらを向けると、ゴブリンが気を失ったように眠りについてしまった。


 ゲームじゃ補助的なものだが、ここまで強力だと下手な攻撃魔法よりエゲつないな……。


「カインゼルさん。家に運んでください。ミリエル。一緒にいってパイオニアを持ってきてくれ。ビシャかメビ、どちらかミリエルの護衛を頼む」


 ジャンケンでビシャが負け、メビが残ることになった。


「カインゼルさんは檻に移したらまた戻ってきてください。生きてるヤツはすべて運びますから」


 五、六匹と思ってたが、意外と生きていたヤツがいた。もったいないから二回に分けて運べは三十匹はイケるはずだ。

 

「わかった。タカトはどうするんだ?」


「ギルドマスターに売り込みにいってきます。上手くいけば領主代理を動かせるかもしれませんし」


「……無害な顔をして策士な男だ……」


 カインゼルさんにはオレの思惑の一つを話してある。ゴブリン駆除の予算を作らせるってことを、な。


「非常時用の予算は必ずあるはず。その予算を一旦引き出せればあとは止められなくなる。そうなればゴブリン捕獲の依頼が冒険者ギルドに流れるでしょうからね」


 非常時用の予算がなくても領主代理のポケットマネーは絶対ある。酒飲みたさにゴブリンを買ってくれるはずだ。


「まだ他にも考えてそうな顔だな?」


 さすがカインゼルさん。見抜かれてるや。


「まあ、そうなったらいいな~ってくらいの考えですよ。恥ずかしいので訊かないでください」


 欲は欲を呼ぶ。欲を制するには欲を満たしてやらなくちゃならない。そうなったとき、領主代理は動かざるを得なくなるはず。ってまあ、未来がどうなるかは、今の段階ではなんとも言えんよ。


「わかった。タカトの考えを通したらよい。わしは最後までついていくさ」


 これってないくらい心強く、頼もしい言葉である。惚れてまうわ。


「では、お願いします」


 カインゼルさんたちを見送り、殺したゴブリンを片付ける。


「タカト。あいつらが出発するそうだ」


 あ、ライダンドに向かう冒険者たちがいたっけ。すっかり忘れてたわ。


「わかった。報酬を渡すよ」


 冒険者たちは五人。約束通り、一人銀貨一枚を渡した。


「ライダンドまでお気をつけて。ゴブリンを売りたいときはラザニア村まで運んできてください。生きていれば一匹銅貨五枚で買いますから」


 そのことを冒険者たちに広めてください。


「ああ、わかった。この仕事が終わったらゴブリンを捕まえて売りにいくよ」


 やる気に満ちた冒険者たちを見送った。


「ミシニー、なにか言ったのか?」


 馬車が見えなくなったらやる気を出させた張本人を見た。


「大したことは言ってないよ。中堅冒険者でも食っていくのは大変だ。だから、定期的に儲けられることを教えてやっただけさ」


 ニヤリと笑うミシニーに、オレは肩を竦めて答えた。まったく、コミュニケーション能力が高いヤツは口が上手いんだからよ。オレも惑わされないよう気をつけようっと。

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