第197話 扱い難い女
十一時くらいにミリエルとビシャがパイオニア二号で戻ってきた。
「ゴルグが作った檻に入ったか?」
「はい。戻るまでにもう二つ作ってくれるそうですよ」
「仕事が早い男でなによりだ」
トレーラーに眠らせたゴブリンを放り込み、メビも乗せて戻ってもらった。
「ミシニー、ラダリオン、少し早いが昼にしようか」
昼飯を摂り、少し休んだら街へ出発進行。道にも慣れ、土地勘も出てきたので街まですんなり走られた。
「人の往来が少ないな」
畑に多くの人がいたから当然なんだろうが、わかるくらいに減ってるて口にするくらいには驚きである。
「街からも刈り取りにいくからな。鉄印の冒険者も刈り取りの依頼を受けたりするよ」
麦が主要産業だとそういうことが起こるんだな……。
冒険者ギルドに到着。昼過ぎとは言え、ここも明らかに人が少ない。中に入ってもがらんとしていて、職員たちが暇をもて余している感じだった。
オレに気がついた女性職員が動いた。
わかっていたので対策はしてある。ドーナツはラダリオンに見せるように持たせてある。よし、ラダリオン。オレを守ってくれ! あとでお前だけに有名店のケーキを買ってやるから。
「…………」
非難の目を向けてくるが、ため息一つ吐いて女性職員の盾になってくれた。やだ、カッコイイ!
「タカトさん。ようこそいらっしゃいました。女の子を盾にするのは情けないですよ」
「恥の一つで心の平穏を買えるなら安いものです」
変なプライドなど今のオレには必要ない。みっともなかろうが生き抜ければそれでいいのだ。
「ふふ。相変わらずですね」
オレを知るほど付き合い長くないだろう。それともオレはわかりやすいのか?
「ギルドマスターはいますか? ちょっと話したいことがあるもので」
「はい。こちらへどうぞ」
「ラダリオン。パイオニアで待っててくれ」
女性職員に囲まれているラダリオンに声をかけてシエイラのあとに続いた。
二階にいくのかと思いきや、正面から出て隣の大きな建物へと入った。なんなの、ここ?
「総合会館です。コラウスにあるギルドが入っています」
商工会議所みたいなものか? まあ、商工会議所はなにしてるとこ? なんて問われても説明はできないけど。
文化が遅れているかと思えば発展してたりとなんか世界観が変だよな? もしかして、ダメ女神が別の世界から人を送り込んでるせいか?
二階へと上がり、いくつかある部屋のドアをノックし、返事を待たずにドアを開けた。
中はなかなか広く、八人くらい机仕事していたが、ギルドマスターはいなかった。
「ギルドマスターなら会議してるよ」
この中で年長と思われる男性がそう告げた。
「長くなりそうですか?」
「いや、定例会議だからそろそろ戻ってくるんじゃないか?」
って言ってたらギルドマスターが戻ってきた。
「タカトか。例の件か?」
「それとゴブリンのことで少しお話があります」
「わかった。シエイラ。部屋を借りてきてくれ」
ってことで三階にある、応接室的な部屋にやってきた──わけだが、知らない男性が二人、追加された。誰よ?
「商業ギルドマスターのミヤルと第三城壁街を纏めるマルド男爵だ。お前の顔が見たいそうなので同席させた」
オレは見たくなかったです。って言えたらどんなに楽か。内心を顔には出さずに一礼しておいた。
「まあ、お前のやることはミヤルと男爵には知っておいてもらったほうがいいだろう。コラウスで活動していくならな」
確かにそうではあるが、オレは小規模に活動……は、できませんね。いろいろやっちゃったし……。
席につき、シエイラがお茶を淹れてくれた。
「お前のところで働く者だが、六人ほど働きたいと手を挙げた」
「じゃあ、その六人を雇います。いつからこれそうですか?」
「顔合わせしなくていいのか?」
「ギルドマスターが選んだなら必要ありませんよ」
選んでもらう立場にはなったことはあるが、選ぶ立場に立ったことはない。そもそもギルド運営なんてやったことがないんだから経験者に丸投げしたほうが確かだ。
「だ、そうだ。シエイラ。よろしく頼むぞ」
ん? なぜにシエイラ?
「冒険者ギルドを辞めてタカトさんのところでお世話になりますね」
「シエイラならギルドを任せられる。オレの代理を何度もしたこともあるからな」
ギルドマスターか領主代理の息のかかった者を選ぶだろうとは思ってたが、まさか、シエイラをぶち込んでくるとは夢にも思わなかった。いや、代理を任せるほどの人材を抜けさせていいの?
「こいつは優秀だが、扱い難いが先にくる女だ。ギルドに残しておくのも面倒にしかならん。お前のところで使ってやってくれ」
それ、厄介払いとかじゃないですよね?
「お前も素直なようで頑固だからな、シエイラを上手く扱えるさ」
そんな信頼、迷惑でしかないんですけど。あと、オレ、大きな力には逆らわず波に乗って流される性格ですよ。
「まあ、ゴブリン駆除なんて信用もないところにきてくれるんですから歓迎しますよ」
海のものとも山のものともわからず、将来性があるかもわからない。オレが死んだら即終了なんてところにきてくれるんだから贅沢は言ってられない。使えるものは使って生き抜いてやるまでだ。
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