第49話 街の手前で

 しばらくして少年たちが我を取り戻した。


「水は持っているか?」


 そう訊くと、持ってないと首を振ったのでリュックサックから二リットルのペットボトルを出し、封を切って少年らに渡した。


 回し飲みしながら二リットルを飲み干す少年たち。いきなり飲んで大丈夫なのか?


「……た、助かったよ……」


 オレの声に素早く従った戦士風の少年が口を開いた。


「そう言うときはありがとうございますって言ったほうが相手にいい印象を与えるぞ。次から助けてもらったらそう言うといい」


 説教なんて、歳を取ったからかね? 自分ではまだ若いつもりでいるのにな。まあ、肉体は老いを感じてるけど。


「あ、ありがとうございます」


「「「ありがとうございます」」」


 戦士風の少年に続き、残りの少年たちも感謝の言葉を述べた。素直な子らだ。


「どういたしまして。助けた甲斐があるってもんだ。怪我をしたヤツはいるか?」


「ダズ。殴られたところは大丈夫か?」


「スゲー痛いが、折れてはいないと思う」


 斧を持った体格のいい少年がダズらしい。


「どこを殴られたんだ?」


「腕だよ。咄嗟に腕でガードした」


 見せてもらうと赤く膨れ上がっていたので、冷却スプレーをかけてやった。


「あんた、魔法使いか?」


「魔法使いじゃなく、ゴブリン駆除員だよ。これは冷気を溜めた道具だ。やるから腕が熱を帯びたらここを押して腕にかけるといい。他のヤツは怪我はしてないな?」


「ああ。ダズが庇ってくれたから怪我はないよ」 


「それはなにより。歩けるなら道に戻るぞ。そこらかしこにゴブリンがいる。襲ってくる気配はないが、弱ってるとみたら襲ってくるからな、あいつらは」


 そう言うところはゲスな生き物なんだよな、あの害獣どもは。


「あ、そこの猪はどうする?」


 赤いゴブリンにでも伸されたろう猪を指差した。


「そうだ! 猪!」


 気づいた少年らが伸びている猪の足を縛った。生け捕りにするんだ。


 よく漫画で観るように太めの枝に猪の足を括りつけ、二人で肩に担いだ。


「アルド。先を。ダズは殿な」


 オレは担ぐ二人の右側に立って道に向かった。


「そのまま担いで戻るのか? 持てる肉を担いだほうがよくないか?」


「そうしたいが、依頼は猪一匹なんだよ。面倒でもこうして運ぶしかないんだ」


 大変なんだな、冒険者業ってのも。


 しばらくして森が途切れ、草原が現れた。


 特になにかを放牧しているわけでもなく、なにかを植えているわけでもない。緩衝地帯、って感じかな?


 体重七、八十キロくらいある猪を運ぶのは大変なようで、一キロくらい歩いたら休み、また一キロくらい歩いたら休んでいる。


 なんでオレ付き合ってんだ? って思いながらも少年たちと一緒に行動し、休んでいる間は周囲の警戒をしていた。


「な、なあ、なにか食べるもん持ってないか? あれば分けてもらいたいんだが?」


「ああ、構わんよ」


 買ったはいいもののずっと食べないでいたカロリーバーを四人にくれてやった。


「うめー!」


 と、喜ぶ少年たち。まあ、不味くはないと思うが、そこまで歓喜するほどでもない味だろう。ラダリオンも一本食べていらないって言ったものだ。


「それなら残りもやるよ」


 ここで出さないと賞味期限が切れるまで入れてそうだからな。


「いいのか? 金ないぜ」


「金なんていらんから遠慮なく食え。ただ、水はないから喉に詰まらせるなよ」


 もう手持ちの分しかない。さすがにこれまでくれてはやれんからな。


「もう少しいけば川があるから大丈夫だ」


 と、カロリーバーを食い尽くし、五分も歩いたら小川が現れた。


 少年たちは猪や荷物を置いて小川に顔を突っ込んだ。飲むのか? 煮出したりしないのか? 異世界人の腹はそんなに丈夫なのか?


 オレの心配など構わず小川の水を飲む少年たち。オレなら確実に腹を下すな。


「オレは他所からきたんでここら辺のことは知らないんだが、街まではまだあるのか?」


「猪担いでるから昼くらいには着くと思う」


 ってことは十キロあるかないかくらいか。なら、買い物しても夕方までにはラザニア村に帰れるかもしれんな。


 また歩き始めると、麦畑が現れた。


 辺境な割りに豊かな土地だな。麦畑の他にも畑があり、柵に囲われたところには水牛みたいな家畜まで飼われていた。


「ゴブリンがいるな」


 畑と畑の間にいる草むらにゴブリンが隠れていた。こんなところまで現れるとは。どこまで害になる存在なんだか。


「少年たち。ここでお別れだ。気をつけて戻れよ」


 ちょうど十字路に出たので少年たちと別れることにした。


「あ、ありがとうございました」


「ああ。挨拶と感謝はちゃんとするようにしとけ。それは大人からの信頼となるからな」


 おじさんからのお節介だ。


 少年たちから充分離れたらセフティーホームに戻り、ベネリM4からSCAR−Hに持ち換えた。


 マガジンは二本でいいだろうと、カーゴパンツの左右ポケットに入れた。


 外の様子を確かめてから出て、隠れているゴブリンの気配を探る。


「結構いるな。大丈夫なのか?」


 目では見つけられないが、草むらの中に結構な数のゴブリンが隠れている。子供を外で遊ばせてたら連れ去られるぞ。


「百メートルはあるが、まあ、二、三発も撃てば当たるだろう」


 周囲に人はなし。リュックサックを台にしてSCAR−H──Hスナイパーを乗せた。


 スコープを覗き、なんとなくピントを合わせるが、オレは見るのじゃなく、スコープ越しにゴブリンの気配を探る。


 ゴブリンの気配が形となったら引き金を引く。


「ヒット。次」


 そこには二匹いて、横で茫然とするゴブリンを撃ち抜いた。


 昼まであと三十分弱。マガジンが尽きたら終了とするか。


 場所を移動し、また草むらに隠れているゴブリンを駆除していった。

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