第48話 赤い彗星か?
人の領域でもゴブリンは大量に生息していた。
ラザニア村からちょっと山に入っただけでゴブリンの気配があちらこちらにあり、二、三匹の小集団が無数に動いていた。
あんまり多いと人に見つかるからだろうか? こちらとしては助かるが、あちらこちらに気配がありすぎて狙いが定まらないぜ。
気配に頼らず標的が見えてから狙い定めて引き金を引くようにして、十一時半までに四十二匹を駆除できた。
「まったく減った感じがしないな」
周囲にゴブリンの気配が多数あり、なんだか包囲されてる気分になる。
安全なところまで移動してセフティーホームに戻ると、ラダリオンが先に戻っていた。
「ご苦労さん。そっちはどうだ?」
「いっぱいいてすぐ弾がなくなる」
訊けば三度目の補充だそうだ。
「そっちもか。オレのほうも多くて気配に酔いそうだよ」
ギリースーツを脱ぎ、使わなかったマガジンを出して身軽になってから昼食にした。
食休みしながらお互いの位置を確認し合い、ちょっと昼寝してから用意を整えて駆除を再開する。
出るとすぐに周りにはゴブリンの気配。すぐに安全装置を外して引き金を引いた。
それから夕方までゴブリン駆除に勤しみ、一日で五十万円も稼げてしまい、ラダリオンと合わせたら約百五十万円も稼いでいた。
地道に、と言っていいかは謎だが、こうして少数を駆除していくほうが稼げるんだから嫌になる。群れを駆除するのは損でしかない、な……。
次の日も同じ数くらい駆除でき、また次の日も同じくらい。三日、四日、五日と同じくらい駆除できました。
「いや多すぎだよ! 千五百匹もいるとかアホか!」
よくこれで人間の暮らしが脅かされてなかったな。王が立ったときよりいるぞ!
「指、痛い」
半自動とは言え、一発一発引き金を引かなくちゃならない。一日二百回も引いてたら指も痛くなるわ。オレだって痛いよ。
「三日くらい休みにしようか。ラザニア村も帰ってないしな」
六日も離れてるし、貸し出し品も触っておかなくちゃならない。六日も働いたんだから数日休んだって罰は当たったりしないさ。
ってことで、明日はラザニア村へ帰るために移動に使うことにした。だって十キロ近く移動したんだもの、移動を混ぜた休日などオレは認めないから。
「ラダリオン。先に帰ってたらロミーさんに挨拶して、貸し出し品を触ってくれ。わからないときはわからないと言ってオレが帰るのを待つように言ってくれ。嫌ならセフティーホームに隠れてていいから」
ラダリオンのコミュニケーション能力は低い。ロミーさんとはなんとか話せるみたいだが、ゴルグとはしゃべれてない。無理にお願いするとさらに内向的になる。そこはラダリオンの気分に任せるさ。
「わかった。がんばる」
玄関でラダリオンの頭を撫でてやり先に外に出た。
「相変わらずいやがるな~」
千五百匹は駆除したってのに、まったく減ってる感じはしない。もしかしてゴブリンって、人のいるところに集まってくる習性なのか?
今日は移動日と決めたので、SCAR−Lは持ってきてない。とは言え、なにが起こるかわからないのでベネリM4の装備にして、人の領域に入ったらケースに入れてヨレヨレのポンチョを羽織ることにする。
コラウス辺境伯領へ続く道は大小混ぜて十三あり、ゴブリン駆除の間、二本の道を越え、なるべく道の側からセフティーホームに入ってたのですぐ道へ出れた。
街へ向かって歩いていると、ゴブリンが隠れている気配がかなりあった。
気づいてない風を装い通りすぎるが、ゴブリンが襲ってくることはない。オレに見つからないよう怯えていた。
「これは確かにゴブリンを狩るのは面倒だわな」
オレはゴブリンの気配がわかるから探す苦労はない(移動する苦労はあるけど)が、なにもわからない状況から探すなんて苦行でしかないだろうよ。
気配が鬱陶しいのでベネリM4で追い払ってやった。
何匹かは死んで、何匹かは怪我を負い、一目散に逃げていく。
弾代は稼げているので気にせず放っていき、ダンプポーチに入れた弾がなくなったらリュックサックから弾を出して補給する。
「弾ってのは意外と重いもんだ」
持ってきた百数十発を使い切ったら思いの外リュックサックが軽くなった。何百発もの弾を持ち、他の荷物も担がなくちゃならない兵士ってのはバケモノだぜ。
ダンプポーチ分になったら追い払うのを止めて先を急いだ。
三キロほど歩くと、右側から矢を生やした猪が飛び出してきた。うおっ、びっくりしたー!
慌ててベネリM4を構えたら、冒険者風の少年たちも飛び出してきた。
「足を狙え、ベズック!」
「だったら前に立つな!」
少年四人があっと言う間に木々の中にへと消えていってしまった。
「……なんなんだ……?」
しばし茫然としてたが、先ほどの少年たちの悲鳴と思われる声が上がった。
助けてやる義理はないが、若い命が間近で散られるのも目覚めが悪い。しょうがないと道を逸れ、木々の間を縫っていく。
と、棒を持った赤い肌のゴブリンがいた。新種か?
気配はそこまで教えてくれないが、オレからしたら色違いでしかない。
「お前ら、しゃがめ!」
と言って従うかと思ったら、剣を持つ少年が仲間たちに飛びついて地面に伏せさせた。お、ナイス!
即座に六発を赤い肌を持つゴブリンに食らわしてやった。
「お? 死なないとか赤い彗星か?」
鳥撃ち用のだから威力は弱いが、これで死んだゴブリンもいたのだから目の前のは上位種か特異種ってところだろう。
マチェットを左手で抜き、重症の赤い彗星の頭に振り下ろした。
「──いだっ!?」
マチェットの刃、欠けたんじゃね? ってくらい硬い頭だった。
「頭の硬さまで三倍かよ。クソ!」
赤い彗星を蹴り飛ばしてマチェットを抜いてマチェットの刃先を確認。欠けてはいなかった。ホッ。
少年たちに振り向き、大人の余裕で笑ってみせた。
「少年たち、大丈夫か?」
ただ、少年たちに余裕はなかったようで腰を抜かしていた。うんまあ、大洪水になってないだけ立派だよ。
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