第50話 刃物屋のガズ

 十三匹駆除したところで昼になったので、周囲に人がいないことを確かめてからセフティーホームへと戻った。


「ラダリオンはまだか」


 時計はまだ十一時四十九分。十二時まで移動してるみたいだな。


 今日の昼食は会社の社員食堂で出るABCのセットメニューを六人前ずつ買った。


 さすがに美味いものばかり食っていると栄養の偏りになる。なので、昼は社員食堂のメニューにすることにしたのだ。


「一食四百円で提供するんだから凄いよな」


 企業努力に感謝です。


 冷蔵庫から麦茶のペットボトルを出してたらラダリオンが戻ってきた。


「ご苦労さん。手を洗ってきな」


 ラダリオンのリンゴジュースを置き、手を洗ってきたらいただきます。ちなみにオレはBとCセットの二つだけで、残りはラダリオンのですから。


 昼食をいただき食休みしながら地図を広げてお互いの位置を確認し合う。


「オレは街に入って買い物するからラザニア村に着くのは夜になるかもしれない」


「あたしは三時には着くかも」


 周囲の状況を語り合い、一時になったら準備する。


 もう街に近いので腰回りの装備だけにして、万が一のときのためにショルダーホルスターとリュックサックにもグロックを入れておいた。


「ってか、今が夏なの忘れてた」


 装備を隠すために薄手のポンチョを被ったが、山の気温と平地の気温は全然違った。ジャケットは置いてくるんだった。


 もう人の往来も多くなったのでジャケットは脱いでリュックサックに詰め込んだ。街中の服、もうちょっと考えないとな~。


 補充した冷却スプレーてポンチョの中を冷やしながら道なりに進むと、大きな城壁が見えてきた。


「想像以上にデカいな~」


 ゴルグの話では三重の城壁で守られた街のようで、中も広いとのことだった。


「リアル進撃だな」


 ゴルグたち巨人が造っているだけに高さが七、八メートルくらいあり、遠くで巨人が補修している姿が見える。ほんと、ファンタジーだよ。


 城壁の周りは緩衝地帯になっており、なんかトゲトゲな植物が植えられていた。


「魔物が団体で襲ってくるのか?」


 ゴブリンもすぐ集団になるし、他の魔物も集団になったりするんだろう。嫌な世界だよ。


 やがて巨人でも潜れそうな門が見えてきた。


 門には一応兵士が立っているが、金を取られたりはしないようで、見張りのために立っているそうだ。


 金を払って入るのは第二城門からで、第一級市民が住むところなんだと。市民税を払えれば暮らせるが、年間金貨三枚──三十万円くらい取られるみたいだ。


 ちなみに第二城門の外、第三城壁までは無税だが、ライフラインもなく汚いそうで、村に住む者は人が暮らすところじゃないと言ってたよ。


 城門を潜ると、すえた臭いがしてきた。


 ……これはさすがにキツいな……。


 カーゴパンツのポケットからマスクを出して鼻と口を塞ぐが、臭いを遮ることはできない。が、直接この空気を吸うよりはマシだろう。


 第二城壁までは三、四百メートルはあり、煉瓦造りの家や木造の家やら無秩序に建てられており、地面はなんかぬかるんでいる。馬のフンもあちらこちらに落ちてる。これで日本みたいにジメジメした夏だったら一目散に逃げてるな。


 入ったの失敗したな~と思いながらも人の流れに乗り、適当に歩いてみた。


 露店も結構あり、商売も盛んみたいだ。


 野菜やら肉やら衣服やらいろいろ売っているが、これと言って欲しいものはなし。ショッピングも趣味じゃないので流し見で通りすぎる。


 少し疲れたのでオープンカフェ(心の中で強く念じればそう見える)でワインを頼んでみた。一瓶銅貨三枚です。


「ミシニーやゴルグが五百円のワインでも喜ぶわけだ」


 銅貨三枚が高く感じる味である。


「じいさん、やるよ」


 とても二口目にいけないので、道端にいる物乞い風のじいさんにプレゼントしてやった。


「いいのかい?」


「構わないよ。瓶は返しておいてくれ」


 ついでに地面に置いてある皿に銅貨一枚を入れてやる。オレより不幸なじいさんに幸せのお裾分けだ。


「また会ったらもうちょっとマシなワインを飲ませてやるからそれまでがんばって生きてな」


 その前にオレが死んだら爆笑もんだがな。


 じいさんに別れを告げて人の流れに乗り、露店通りを歩いていると、目当ての刃物屋を発見できた。


「見せてもらうよ」


 露店の店主は片足がなく、左目に眼帯をしていた。


「おう、見てってくれ。どれも業物、ってわけじゃないが、値段通りのもんだよ」


 見た目は厳ついが、口調は軽く口上がおもしろかった。


「木を削るようなナイフを三本。斧を一本。砥石もあれば欲しいんだが、銀貨五枚くらいのを見繕ってくれ。あ、ナイフは鞘もあると助かる」


「これは上客がきたもんだ。にいさん、外国の人かい?」


「ああ。旅から旅でどこの国だったかも忘れたがね。今は巨人の村に住まわせてもらってるよ」


「ってことはラザニア村かロースト村か」


 ロースト村って、ふざけてんな。誰がつけてんだよ?


「ラザニア村だよ。世話になってるから土産にと思ってな。大柄な男で手が大きいから柄も大きめのにしてくれ」


「なら、これとこれ、あとはこれだな。斧は扱ってないが手斧ならある。これなんてお勧めだよ」


 良し悪しなんてわからんので勧められたものを買うことにした。


「使い勝手がよかったらまた買いにくるよ。いつもここで商売してるのかい?」


「いつもってわけじゃないが、大体この付近でやってるよ。もし、気に入ったならバイルズ武具店にいってみるといい。ガズの紹介だと言えば少しは安くしてもらえるよ。そっちなら斧もあるから」


「バイルズ武具店にガズな。覚えておくよ。オレはタカト。覚えていてくれ」


「タカトな。もちろん、上客の名前は忘れたりしないよ」


 鞘に入ったナイフをリュックサックに入れ、手斧はリュックサックに紐で縛った。


「そうだ。冒険者ギルドってこの近くかい?」


「あの高い塔の側にあるよ。タカトは冒険者なのかい?」


「いや、しがないゴブリン駆除員だよ。じゃあ、またな」


 そう言って塔を目指して歩き出した。

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