第51話 受付のシエイラ
冒険者ギルドの建物はすぐにわかった。ちなみに塔は教会でした。
「意外と立派だな」
古臭くはあるが建物は石組でしっかりと造られており、二階建てが多い中、三階建てだった。
出入口は開け放たれており、武器を持つ男たち──いや、なにやら一般人も出入りしているな。オープンなところなのか?
しばらく見ていると、一般人は依頼人で、戦いをしない仕事へと連れていくんだとわかった。
「冒険者ギルドってより日雇い屋が主って感じか?」
入って大丈夫だと判断して冒険者ギルドに入ると、なかなか広く、思いの外混雑していた。
「さて、どこだ?」
ゴルグから冒険者ギルドには買取りしてくれるところがあり、魔石も買い取ってくれると言うのでやってきたのだ。
この世界の言葉をわかるようにしてくれても文字までわかるようにはしてくれなかったダメ女神。本当に雑な仕事しかしないヤツだよ。
どこかなと見回していると、二メートルくらいある武装した厳つい男が布袋の下を赤黒くなったものを担いで入ってきて、とあるカウンターに持っていった。
「アルズライズだ。依頼のオーグの首と魔石だ」
これはまたタイミングのいいこと。じゃあ、あそこが買取りしてるところだな。
しかし、単独でオーグを狩ったのか? まあ、単独で狩ってもなんら不思議ではない体格と威圧感を持ってはいるが、単独で狩るとかバケモノだろう。銃を持ってるオレでも倒せるかわからんサイズだったぞ。
「豪鬼のアルズライズだぜ」
「またオーグ狩りか。バケモノだよな」
やはりオーグを単独で狩るのはバケモノじゃないと無理のようだ。これからもラダリオンに露払いしてもらおうっと。
オレはしがないゴブリン駆除員。他を駆除しても一円にもならないんだから無駄なプライドなどゴブリンに食わせればいいさ。
しかし、オーグの首を室内で出すとか衛生観念まるでなしだな。この世界の人間は抵抗力、どんだけだよ。カウンターが綺麗になるまで待ってようっと。
オーグの首と魔石は革袋二つ分になった。いくらかになったかまではわからないが、オーグの魔石は金貨二、三枚になるそうだから銀貨で支払われたみたいだな。金貨じゃ使い勝手が悪いし。
豪鬼と呼ばれたアルズライズが出ていき、カウンターが掃除されるのを待ってから向かった。
「すまない。初めての利用だが、ここは買取りできるところだろうか?」
そこにいたのは初老の男で、右目に片眼鏡をしていた。
「外国人か?」
「ああ。今はラザニア村で厄介になっている。タカトと言う」
探るような目でオレを上から下へと見下ろした。
「不味いものが見えたら隣の教会でお祈りしてもらうといい」
もしダメ女神の影でも見えたらオレがフ○ックと言ってましたと伝えておいてくださいな。
「不味いものでも憑いてるのか?」
「そうかもな。平和に暮らしているところを無理矢理戦場に放り出されたからな」
「それで、なにを売りにきた」
サラッと流されて話を戻されてしまった。スルー力高いこと。
リュックサックからタオルに包んだオーグの魔石をカウンターに置いた。
「……またオーグの魔石か。どうした?」
「狩る以外の方法があるなら是非とも知りたいところだ」
あんなバケモノから奪い取るとかは止めてくれよ。殺される未来しか見えないからさ。
「まあ、冗談はさておき、オーグはオレの相棒が狩ったものだ」
「そいつはどうした? なぜこない?」
「ここまで巨人が入っていいなら今度連れてくるよ。但し、苦情はそちらが受けもってくれ」
まあ、ラダリオンがくるわけもないが、オレもこんなぶっきらぼうなヤツと話すのはおもしろくない。大人の対応は相手が子供のときにやるもの。礼儀知らずの大人に使うものではない。とオレは思ってます。
「巨人が相棒か」
「ああ。頼もしい相棒──いや、もう家族だな」
もういるのが当たり前になったら家族だろう、それは。
「そうか。巨人と仲良くやれているならそれでいい。オーグの魔石は傷や小さくなければ金貨二枚だ。支払いは銀貨になる」
「じゃあ、それで」
価値を知らないのだから任せるしかない。仮にぼったくれるなら次からは利用しないだけだ。
「冒険者か?」
「いや、ゴブリン駆除員だ。もし、ゴブリン情報とかあるなら売って欲しい。どこにどれだけの数がいるか、どんなゴブリンがいるかな」
「もしかして、ミシニーが言っていた男か?」
「ミシニーはコレールの町にいるんじゃないのか?」
ここがコレールの町かと思ったら辺境伯が治める町の一つらしい。ラザニア村からは反対の方向にあるそうだ。ちなみにここはコラウスの街、地元民からは街と呼ばれているそうだ。
「拠点にしているのはコレールの町だが、ミシニーは高位冒険者だから大きい仕事があるときはきてもらっている」
やはり強い冒険者だったか。よかった、紳士的対応をしてて。
「そうか。ここにきたら会えると思ったが、コレールの町にいったほうが早いかもな」
「相手は高位冒険者だ。いっても会えると限らんぞ」
売れっ子ってことか。まあ、どうしても会いたいってわけじゃないし、会えるときに会えればいっか。
「ゴブリン駆除の依頼は常に出ている。ギルドに入るか?」
「いや、オレはゴブリン駆除専門だから他の依頼を押しつけられても困る。ギルドに入る気はないよ」
「なら、準冒険者として登録しておけ。準冒険者は技術もない者がなる日雇いの者に便宜を図るものだ。ゴブリンを追い払うこともやる。一匹倒して左耳を切り落としてくれば小銅貨一枚と交換する」
「ゴブリン退治は儲からないと聞いてたが、確かに小銅貨一枚ではやる気が出ないな」
「辺境伯様から出る補助金にも限りがあるから仕方がない。お前さんがゴブリンを狩ってくれるなら冒険者ギルドとしても便宜を図らせてもらうよ。あまり多くなると職員が駆り出されるからな」
「それなら準冒険者になっておくか」
組織に入るのは面倒だが、冒険者ギルドがバックにいてくれるなら駆除しやすくなる。人の領域で駆除するならゴブリンを処理してもらいたいからな。
……あえてゴブリンの処理は考えないようにしてました……。
「それは助かる。シエイラ! きてくれ!」
と、シエイラさんとやらを呼ぶと、三十歳くらいのグラマラスな女がやってきた。随分と色っぽい女だこと。
興味がないと言えば嘘になるが、だからと言って好みかと言われたらそうでもない。オレはほどよくがストライクなのだ。
「ミシニーから報告があった男だ。準冒険者として登録してくれ。あとは任せる。金はそっちに持っていく」
そう言うと席を外す片眼鏡さん。しょうがないと、シエイラの前に立った。
「どうも。ゴブリン駆除を生業としているタカトです」
「わたしは受付を担当しているシエイラ。これからあなたの窓口となるからよろしくね」
握手文化はないのに、なぜか両手を握られた。これは……あれか? 色仕掛け担当なのか? 残念ながらオレは魔法使いじゃないから引っかからないぜ。
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