第52話 オレとの約束

 シエイラに連れられて二階へ。個室での面談か? なんてワクワクドキドキしてたら役員室っぽいところまで連れてこられた。


「ここは?」 


「ギルドマスターの部屋よ」


「なぜ?」


 そっとシエイラから離れ、ポンチョの下のグロックに手をかけた。


「すまない。そう言う騙し討ちをするようなことをする者とは話はできない。帰らせてもらう」


 念のためにとスタングレネードを一つ持ってきてよかった。一瞬の隙をついて外までは逃げられるはずだ。


「ちょっ、いや、待って! 騙し討ちなんてしないわよ!」


 慌てた様子のシエイラ。女だからと油断はしない。女だって強いヤツは強いからな。


「説明を求めなかったこちらも悪いが、そちらもなんの説明もしなかった。準冒険者に登録するだけでギルドマスターの部屋になど連れていくわけがないだろう」


 そう言いながら少しずつ下がっていく。


「ごめんなさい! 説明しなかったのは謝るわ! こちらに悪意はないの。ただ、ミシニーからの報告を受けていたからギルドマスターに会ってもらおうとしただけよ! 神に誓ってあなたを騙し討ちなんてしないわ」


「生憎、神は信じてない」


 特にあのダメ女神だけに助けも祈りもしてやるか。罵詈雑言ならくれてやるがな。


「なにを騒いでる?」


 と、ギルドマスターの部屋から筋肉隆々なハゲオヤジが出てきた。うん、確実に勝てない相手です。


「マスター。あの人がミシニーが言ってた男性です。こちらに悪意はないと説いてください」


 ホルスターからグロックを抜いた。階段までもう少しだ。


「はぁー。ミシニーからちゃんと対応しろと言われていただろう。すまない。うちの職員が無礼を働いた。ギルドマスターとして誠心誠意謝罪する。その手のものを戻してくれないだろうか? この通りだ」


 と、頭を下げるギルドマスター。そこまでされたらグロックを戻すしかないだろう。


「左手のも戻して欲しいが、いきなり信じろと言うのも無茶な話だ。そのままでいいから話をしよう」


 まったく、この世界、バケモノが多すぎ。透視能力でも持ってんのかよ。


 グロックをホルスターに戻し、スタングレネードはそのままに警戒を解いた。でも、油断しすぎてスタングレネードを落とさないようにしようっと。


「こちらにきてくれ」


 ギルドマスターの部屋に入り、隣の談話室的なところへと通された。


「なにか飲むかね?」


「いりません。ここのは口に合いませんので」


 毒の心配をするより味の心配をしなくちゃならない飲み物とかいらんわ。


「そうか。口に合わないといろいろ大変だろう?」


「まあ、そうですね」


 ミシニーがどこまでしゃべってるかわからんが、オレから教える必要もない。濁して答えておく。


「準冒険者を証明するものはこの木札だが、職員用の鉄札を渡しておく。もちろん、職員のように扱うことはしない。ゴブリン退治は本当に苦労している。進んでやってくれるなら願ったりだ。だが、問題を起こされても困るから職員代行とさせてもらいたい」


「それを文字にして、こちらが納得したら了承します」


 あとでゴルグや村長に読んでもらおう。了承はそれからだ。


「用心深いんだな」


「初対面で口約束を信じるほど素直じゃないだけです」


 約束するときはちゃんと書面に残すこと。一度、彼女に裏切られたオレとの約束だぜ。


「わかった。書面にしよう」


 すぐにペンとインクを持ち出し、羊皮紙? みたいなのに文を書き出した。


「これでどうだ?」


「こちらの文字は知らないので、持ち帰って検討してから答えを出します」


「商人だったのか?」


「しがない工房の一作業員でしたよ」


 リーダーにはなったことがあるが、部署異動で一作業員に戻ってました。


「それと、魔石の代金だ。もし、またオーグを狩ったなら魔石を持ってきてくれ。オーグの魔石は王都で人気でいつでも不足してるんでな」


「わかりました。もう二つあるので次回、持ってきますよ」


「ああ。そうしてくれると助かる。次回きたらシエイラに声をかけてくれ」


 わかりましたと席を立ち、一礼して談話室的な部屋をあとにした。


「タカトさん。先ほどは失礼しました」


 階段までくると、シエイラさんが駆けてきて謝った。根は真面目なのかな?


「いえ、こちらこそ失礼しました。何分、初めてのところ。無駄に力が入って威圧してしまいました。仕事関係になったらよろしくお願いします」


 オレも素直に謝っておく。人間関係がギスギスしてたら仕事が嫌になるからな。


「お詫びとお近づきにこれをどうぞ」


 カーゴパンツのポケットから袋入りの飴玉をつかんでシエイラさんの手に渡した。


「飴です。休憩にでも食べてください」


 この世界に飴はあるそうだからお近づきのものとしては手頃だろう。巨人の子供らは取り合いになって大変だったけど。


「では、失礼します」


 階段で別れ、スタングレネードをポーチに戻した。


 外に出て深いため息を一つ。まったく、秩序があるんだかないんだかわからないところで立ち回るのは疲れるぜ。


 さて。ラザニア村に向かうにはどちらから向かえばいいんだと悩んでいたら、教会の前で寄付の呼びかけをしていた。


「寄付するヤツいるのか?」


 人の往来は多いが、寄付するヤツはまるでなし。神、まるで人気ねーWW。


 そんな人気ない神を信仰するヤツなど知ったこっちゃないが、オレ、募金してるところを素通りできる勇気がないのです。


 人の罪悪感をついてくる卑怯な方法だとわかっている。大人がやらせてることもわかってる。だが、わかっていてもオレの良心を責めたてるのだ。


 クソと神を罵りながらも銀貨一枚を出して木箱へと入れてやる。


「おじさん、ありがとう!」


「偽善だ。感謝などいらないよ」


 そう吐き捨てる。


 だが、まだオレは知らない。ここを通る度に寄付することに成ることを……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る