第53話 ラダリオンは銃がお好き

 夕方近くになってやっとラザニア村へ帰ってこれた。ったく、街から遠いんだよ! 


 十キロちょいくらいの道のりだったけど、山を歩いたときより疲れた。冒険者ギルドや教会のことがあったから余計に疲れたぜ。


 帰ってきたことを報告するのも億劫なので村には入らず、裏の家に向かったら明かりが点いていた。ラダリオンか?


「てか、家が変わってね!?」


 家を出たときは小屋だったのに、帰ってきたら石造りに変わっていた。


 ラダリオンが入れるドアとオレが入れるドアが二つあり、暖炉らしき煙突まで造られていた。


 オレ用のドアから入るとそこは玄関で、左側に上への階段が。そして、ロミーさんと誰かの声が壁の向こうから聞こえる。


 階段を上がるとまたドアが。無駄に芸が細かいな。と言うか、巨人の手で人間サイズの蝶番とか作るのも取りつけるのもどうやってんだ? 意味わかんねーわ。


 ドアを開けると居間のような部屋が現れた。


「あら、帰ってきたようだね」


 ロミーさんの声に振り向けば、巨人用の空間で女将さん連中とラダリオンがお茶をしていた。


「オレたちがいない間になにがどうなってるんです?」


「あんたから借りた道具があまりにもよくてね、仕事が進んだからあんたらの家を造り直したんだよ。まあ、居心地よくてあたしらの溜まり場にさせてもらってるけどね」


「そ、そうですか。まあ、好きに使ってください。オレらほとんどいませんしね。ごゆっくりどうぞ」


 奥様のお茶会に混ざる勇気はオレにない。オレのプライベート空間だろう部屋に入り、セフティーホームへと帰った。


 まずはシャワーを浴びて街でついた臭いを洗い流し、さっぱりしたらビールを一杯。くぅ~、しみるぅ~!


 さらにもう一缶開けて飲んでたらラダリオンが帰ってきた。


「ロミーさんたちは?」


「夕飯だから帰った」


 あ、夕方だったしな。いつまでもおしゃべりしてらんないか。


「ラダリオンも風呂に入ってこい。ちょっと早いがオレらも夕飯にしようか」


「うん。今日はいっぱい歩いたからいっぱい食べたい」


「じゃあ、デカ盛りシリーズにするか。ハンバーグでいいか?」


「うん。ジョッキパフェも」


 ジョッキパフェとはビールジョッキにパフェを盛ったヤツで、デカ盛りシリーズの一つだ。軽く二キロあったりする。


 夕飯を済ませてから今日の報告会。まずはラダリオンのことから聞いて、オレのことを話した。


 ラダリオンがどこまで理解しているかわからないが、街の概略図を書いたり冒険者ギルドの内部を書いたりと、これもコミュニケーションだと教えた。


「明日はゴルグと話してからまた冒険者ギルドへ向かうよ。ラダリオンは村周辺のゴブリンを駆除してくれ」


「ロミーさんが紅茶が欲しいって。あと、裁縫針とかも」


 裁縫か~。ハサミと針くらいでいいのか? 糸や生地は十五日縛りがあるしな。


「わかった。銃の手入れしてからタブレットで探してみるか」


 ベネリM4とLスナイパーをパーツクリーナーで煤を流し落とし、ウエスで拭いて乾いたら機構部に万能潤滑油556を振りかけておく。


 ラダリオンも酷使しただろうベネリM4を掃除し棚にかけた。


「弾は結構使うか?」


「うん。ここら辺のゴブリン、ちょこまかしてなかなか当たらない」


「やはり食うもの食ってるゴブリンは面倒だな」


 この辺は材木用に植林でもしたのか、杉のような木が短い間隔で生えている。長物を振り回すには苦だろうよ。


「なら、SCAR−Lを使うか? サプレッサーとスコープがついてるから動き回らず狙い撃ちできるしな。弾も買って十日くらい過ぎてるし、使ってくれたほうが助かるしな」


 買ったもの一つ一つ触るの結構手間なんだよな。ラダリオンも貸し出し品を触る必要もあるし。


「うん。あれ、使ってみたかった」


 なにか嬉しそうなラダリオン。ん? あれ? 銃がお好きですか?


「いくつか種類の違う銃を買っておくから好みのを見つけるといい」


「うん。いろいろ使ってみる」


 銃の掃除が終わればタブレットをつかんで買い物を始めた。


「この際だから冷蔵庫をもう一台買っておくか」


「冷凍庫も欲しい」


 ラダリオンが横にきて冷凍庫をねだってきた。珍しいこと。


「買ったものは古いのから食べていくんだからな」


 まあ、そんな心配する胃じゃないけど、注意だけはしておく。オレでは管理できないし。


 中央ルームを一回り大きくして冷蔵庫と冷凍庫を買い、その中に入れるものをラダリオンにせがまれるままに買っていった。金があるって歯止めが効かなくなるな。


 常備菓子も買い、整理もラダリオンに任せる。食べ物にかける記憶力とやる気は無限大だからな。


 安いワインもいくつか買い、ウイスキーも買っちゃってみた。


 基本、オレはビール派でワインも飲むが、ウイスキーも嫌いじゃない。まあ、そこまで給料がよくなかったからそんなに頻繁に飲むものじゃないし、千円以下のものにしてたが、飲めるのなら飲みたい派である。


 戦争映画で観た、スキットルでウイスキーを飲むってちょっと憧れていたんだよな。


 もちろん、仕事中に酔うほど飲むつもりはないが、ちょっとした休憩で一口飲むくらいは許されるはずだ。


 三千円くらいのスキットルを三つ買い、安めのウイスキーを買って移した。残りは飲み干しました。


 ロミーさんたちが飲む紅茶──レモンティーとミルクティーの粉缶を二缶ずつ買っておく。あ、スティックコーヒーも買っておくか。


 ガン雑誌からスコープやサプレッサーつきの写真をタブレットに収め、五種類くらい買った。


「このAPC9ってのいいな。街の中ならこう言うのがいいかも」


 グロックだけじゃ不安だし、サブマシンガンを持っておくべきだろう。アサルトライフルより高くないし。


 ストックが折り畳みで、サプレッサーとドットサイトがついたやつにする。あと、落ちないようスリングも買っておくか。


 一度つけてみて具合を確かめ、明日の用意に取りかかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る