第402話 疲れた

 予定通り、朝の十時に出発した。


 先頭はオレ。プランデットを使いこなせる者が道案内しないと迷い──はしないけど、センサー役のオレが前に立ったほうがいいからだ。ローダーが現れたら真っ先に感知できるのはオレとイチゴだけなのだ。


 エルフもプランデットはかけているが、まだ使いこなせていない。なら、先頭にオレ。最後尾にイチゴを立たせたほうが安全だ。


 それに、サイルスさんやカインゼルさんがいる。この布陣で襲われても難なく返り討ちにしてやれるだろうよ。


「タカト。ゴブリン以外の反応はあるか?」


「いえ、ありません」


「ロースランは壊滅か?」


「いえ、メスらしき個体がいなかったので隠れているんだと思いますよ」


 地底湖の奥にいた幼体はすべて殺したが、あそこはロースランにとっての城。上位種の住み処。下位のヤツらは洞窟の外に巣くっているはずだ。生き残ったメスはそちらに逃げたんだと思うな。


「ゴブリンが狩れていいが、ロースランまでいるとなると厄介だな」


「そうですね。アシッカにもロースランは出ました。おそらく、地上に通じる穴がどこかにあるんだと思いますよ」


 ゴブリンが地上に出れたんだからロースランだって出られる穴があっても不思議じゃない。いや、あるとみたほうがいいだろう。地上に戻ったら伯爵と話し合わないとな。


 僅か数キロなので一時間ちょっとで湖を囲むような林に到着した。


「ライゴ、マッシュ、切り開いてくれ」


 マチェット持ちの二人。枝を払うには適した二人だ。


 もちろん、二人だけにはやらせない。太い木はオレらで切り倒し、三メートル幅の道を築いていった。


「イチゴ。この切り株を砕いてくれ。パイオニアを走らせるから」


 ヒートアックスを取り寄せてイチゴに渡した。


「ラー」


 受け取ったイチゴは柔らかい土を耕すように切り株を砕いていった。


 十三時くらいに昼休憩に入り、一時間半くらい休んだら再開。十六時前には開通させることができた。


「ちょっと早いですが、今日は終わって明日の朝からやるとしましょう」


「そうだな。ここに野営するのか?」


「いえ、一キロほど戻ります。ローダーが現れたら大変ですからね」


 ゴブリンも巣くっているし、一キロ戻ったところのタワマンに入って野営したほうがいいだろうよ。


「そうだな。ここでは隠れる場所がないか」


 ロースランくらいなら林の中に隠れられるが、十メートルもあるローダーでは簡単に狙われる。あんな鎌で斬られたらここら辺の木など意味もないわ。


 少し休んだら一キロほど戻り、扉が破られたタワマンに入った。


 建物にはロードン処理されているが、家具や生活用品は完全に崩れており、使えそうなものはなにもない。二階に上がり、一室を今日の宿とする。


 ゴミと化したものを外に払い出し、埃が落ち着いたらホームからキャンプ用品を運び出した。


「タカト。マンダリンを出してくれ。練習したい」


「飽きませんね」


「思い切り飛びたいからな。時間があれば練習だ」


「マスター。わたしも乗りたいです」


「おれも乗りたいです」


「おれも!」


 なんかマンダリンはエルフに突き刺さるものがあるのか、全員が乗りたいと騒ぎ始めた。いや、明日のために休めよ。


「わかったよ。ただ、ホームにはないからあるところに取りにいくぞ」


 マンダリンは五台しか運び出さなかったし、ブラックリンはオレ以外のはすべてホームから出した。乗るんならランダーズに取りにいかないとならないのだ。


 ブラックリンを出してランダーズに。ラックの二段に収まっているマンダリンに跨がりホームに。


「またなの?」


 ちょうど玄関にいたミサロにジト目を向けられてしまった。


「こ、これはマイセンズにいるエルフに乗せるためのものだからすぐ出すよ」


 そう説明して外に。二台入れたらタワマンに戻った。


「まずは一人ずつ練習。残りはプランデットで学習だ」


 まずはマンダリンの仕組みと操縦法を教える。


 一通り教えたらマイズに乗らせ、残りはプランデットとマンダリンの連動法を教えた。


「タカト。夕食ができたぞ」


 と、サイルスさんがやってきた。


「すみません。すっかり任せてしまって」


「構わんさ。野営の準備は慣れてるからな」


 まったく、優秀な人だよ。魔法戦士としてもギルドマスターとしてもリーダーとしても、な。


 一旦、中止してタワマンの中に。サイルスさんたちが用意した夕食をいただいた。


 食休みもそこそこにカインゼルさんもマイズたちも外にいってしまった。


「そんなにいいものなのか?」


 理解できないとばかりにサイルスさんが訊いてくる。


「カインゼルさんはともかく、昔のエルフが乗っていたものですからね。なんか血が求めるんじゃないですかね」


 よー知らんけど。


「オレもいきます。サイルスさんたちは休んでください。イチゴ。周囲の警戒を頼むぞ」


「ラー」


 二十四時間休まず動けるイチゴがいるって本当に頼もしいよ。


 外に出て続きを再開。二十三時まで続け、さすがに明日に疲労が残ると中止させた。


「夜中に乗ろうとするなよ。カインゼルさんもですよ」


 まだやりたいと目で訴えてくるのを無視してタワマンに戻して休ませた。ハァー。大したことしてないのに疲れたよ……。

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