第200話 凡人ナメんな!

「タカトさん。起きてください」


 少し休んだつもりががっつり眠ってしまったようで、ミリエルに強く揺すられて目が覚めた。


「す、すまん。領主代理がきたのか?」


「はい。館の食堂に通してお酒とツマミを出しておきました」


 じゃあ、三十分前くらいにきたんじゃないか。クソ貴族なら打ち首になってるぞ。ここに打ち首制度があるかは知らんけど。


「すぐいくと伝えてくれ」


 先にシャワーを浴びててよかった。面倒だとあとにしてたら汗臭いまま迎えているところだぜ。


「あ、武器は置いていけ。いざとなればミリエルはホームに戻れ。玄関に用意しておくから」


 オレはアポートウォッチがあるが、なるべくなら使わないようにしたい。バレるまでは奥の手としたいからな。


 なるべく戦闘色のない服を着て、隠し武器はベルトのプッシュナイフだけにする。まったくないってのも奥の手を持っていると勘づかれるし、持っているなと、警戒されたほうがいいだろう。


 用意を済ませたら外に出て館に向かった。


 護衛に兵士を連れてくるだろうとは思ってたが、二十人近くも連れてきたんかい。大事になってんな!


 ……偉い人を呼ぶときは事前準備が必要なんだな。反省……。


「タカト」


 館の前には武装したカインゼルさんがいた。どうしました?


「わしは警戒に出る。ミシャード様やサイルス様と同じ食卓につくのは畏れ多いからな」


 まあ、元とは言え上司だった人ら。気まずいだろさ。オレも社長と同席しての食事などしたくないしな。


「わかりました、ビシャとメビにもさせてください。どこかの間者がいましたからね。なにかあったらオレらにもコラウスにも困りますからね」


 責任なんて取れない。なら、取らなくて済むように警戒しろ、だ。


「連れてきた兵士とはこちらで話し合っておく。タカトは気にせずミシャード様の相手をしろ」


「オレも偉い人の相手なんてしたくないんですけどね」


 ただただ胃が痛くなるだけだ。


「まあ、お前はもうセフティーブレットのギルドマスターだ。しっかりやれ」


 あ、オレ、ギルドマスターになったんだ。気づかんかったよ……。


「なんとかやってみます」


 オレは死にたくないし、仲間を死なせたくもない。気合い入れて、やれだ。


 ミリエルが采配してくれたのか、LEDランタンが館に配置されており、食堂はポータブルバッテリーによってルームにいるくらいは明るくなっていた。


 ……発電機も出しておくんだったな……。


「お迎えもせずすみませんでした」


「なに、構わないよ。美味い酒と美味い料理を楽しんでいたからな」


「それはよかったです。たくさん用意したのでお楽しみください」


 オレも席につき、料理に手を伸ばした。


 執事だか侍従だかわからないミシドさんから過度な接待は無用だと言われてある。とは言え、失礼があってはならないと、この場にはミリエルだけを同席させ、ラダリオンは巨人たちのほうにいてもらっている。


「味は濃くないですか? 濃い場合は薄目のを出しますんで、遠慮なく言ってください」


 料理は居酒屋のもの。ここの人には濃いはずだ。じゃあ、なんで出したかと言えば、前回、領主代理がハイボールを気に入ってた様子だから濃い目の料理にしたのだ。


「ああ。わたしは充分満足だ。特にこの野菜に肉を巻いて焼いたものが美味い。ハイボールによく合う」


 領主代理はアスパラベーコン巻きがお好きか。


「おれはこの鶏肉が好きだ。サイダーによく合う」


 似てるんだか似てないんだかわからん夫婦だよ。


「あ、そうだ。ミリエル。ミシドさんたちの食事は用意したか?」


「はい。別室に用意しました」


 細かい打ち合わせをしなかったからお付きの人たちの食事まで考えがいかなかった。後々のためにメイドとか雇っておくべきだな。領主代理、なんかちょくちょくきそうな予感がする。


「ありがとな。ミリエルがいてくれて助かったよ」


 オレじゃ細かいこどで目が向けられない。ほんと、ミリエル様々だわ。


「いえ、お力になれたらよかったです」


 なにかミリエルなしでは生きられなくなりそうだ。もっとしっかりしないといかんな。


「そう言えば、ミシニーはどうした?」


「出かけました。自分には似合わない場所だからって」


 逃げたな。いてくれるだけでも心強いのに。領主代理の注意が分散するって意味で。


「あいつは気ままなところがあるからな。タカトは上手く手綱を握っているよ」


 ギルドマスターからも心配されるミシニー。どんだけだよ?


「ゴブリン狩りなど手間でしかないと思っていたが、毎日こんな料理と酒が飲めるなら毎日のように狩りたいよ」


「それが許される立場なら喜ばしいことです。ゴブリン駆除員は短命ですから」


 最長五年とかやる気を失わせてくれるぜ。せめて最低十年だったらやる気も増すのによ。


「短命、なのか?」


「やってみてよくわかりましたよ。これは早死にするって」


「ゴブリン狩りだろう?」


「そうですね。ゴブリンだけを駆除できてたなら早死にすることもないでしょう。けど、それだけしていればいいってわけじゃありませんでした。高々ゴブリンを駆除するだけの男がこうして領主代理と食卓を囲んでいるんですからね」


 力を示せば示すほど厄介なヤツに目をつけられ、厄介な事を押しつけらる。どんなにがんばろうとこっちは凡人。限界突破したら死ぬんだよ! 覚醒したりしねーんだよ。凡人ナメんな!


「凡人にできることはゴブリン請負員を増やして身を守ることだけですよ」


 もちろん、やれることは他にもあるし、生き残るための布石は用意していく。だが今は偉い人を請負員とすることだ。


「ゴブリンの捕獲はこれからもやっていきますが、美味い料理を食べ、美味い酒を飲みたいのなら冒険者に捕獲を頼んでください」


 贅沢は敵と言うが、今のオレからしたら贅沢は武器だ。人にやる気を起こさせるための、な。


「……お前は自分で言うほど凡人ではないと思うがな……」


「オレは凡人ですよ。どこまでいってもね」


 凡人には凡人なりの戦い方がある。格好悪くても生にしがみついて生き抜いてやるさ!

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