第506話 ジョゼット・マルティーヌ

「イチノセ。ミシニーが街に入りました」


 上空から周辺を見張るイチゴから連絡が入る。


 イチゴの能力が凄まじいのがよくわかる。昔のエルフはこんなのと戦っていたと考えたら滅びるのも納得だよ。


 しばらくしてフードを深く被ったミシニーが現れた。


 ……街ではエルフってことを隠す必要があるのかな……?


「悪いな。呼び出したりして」


 どこかに消えたミシニーを頼るつもりはなかったのだが、今日のことをシエイラに話したら職員を動員してミシニーに連絡を取ったのだよ。


「構わないさ。タカトを一人にするほうが危険だからな」


 誰がいたってオレの人生は危険に満ちているのは気のせいでしょうか?


「ハイハイ。ミシニーは、マルティーヌ一家を知っているか?」


「名前だけはな。なにをしているかまではわからん」


 冒険者が反社会的組織と関わらないか。オレは関わっちゃったけどな!


「上空にイチゴがいるが、なにかあれば頼むよ」


 オレも家屋内戦闘を想定して今日はMP9装備にしてきたが、戦闘はミシニーが上なので任せることにする。


「了解」


「イチノセ。二方向からマルティーヌ一家の者がやってきます」


 二方向から? なんか意味あるのか?


 しばらくして番長のロンガと初顔の男が現れた。もう一つのほうは現れないか。護衛か監視か、まあ、イチゴとミシニーがいるんだから問題ないだろう。


「待たせて申し訳ない」


 この人は顔で損しているよな。いや、顔が厳ついから向いているのか?


「構いませんよ。早め早めに動く質なので。さあ、いきましょうか」


「……もしかして、死滅の魔女か……?」


「ああ。敵も味方も殺すと言われた死滅の魔女さ。タカトの護衛でついていく。よろしく頼む」


 死滅の魔女と呼ばれるのを嫌っていたのに、グロゴール、いや、ロースランとの戦いからすっかり死滅の魔女に誇りを持ってしまったミシニー。誇りに持つのはいいが、脅しに使うなよな、まったく……。


「わ、わかった。では」


 と、マルティーヌ一家の住み処に案内してもらった。


 まあ、場所はイチゴが調べてくれ、オートマップでも確認済み。マルティーヌ一家の住み処は第二城壁沿いにあるのは知っている。


 さすがに道順までは覚えられなかったが、おおよその場所はわかっている。イチゴのナビがあれば迷うことなく逃げられるさ。


「ここだ」


 空撮で見た感じでは一軒家かと思ったが、小さな家が集まって、改築に改築を重ねた感じの家になっていた。


 一家の人間だろう、ガラの悪そうなのが家の前にたむろしていた。


「客人だ。よく見張っておけ」


 ロンガが声をかけると、たむろしていた男たちが頷き、家を囲むように散っていった。


「厳重だな」


「他の一家もタカトさんのことは耳に入っているからな。あまり邪魔をされたくない」


「フフ。有名人だな、オレは」


「誰も狩らないゴブリンを狩り、馬を繋いでないのに走る荷車に乗る。有名にならないほうがどうかしている」


 まったくもってごもっとも。ウルヴァリンで走ってたら見てくださいって言っているようなものですね。 


 家──集合住宅に入り、二階だか三階の豪華な部屋に通された。


「親分を呼んでくる」


 ちゃんとお茶を出していくところが徹底している。なんで反社会的的組織に属してんだろうな? 顔が厳ついってそんなに不利なんだろうか?


 なんかよくわからないお茶を飲んでいると、アイパッチをした四十くらいの女が入ってきた。


 ……まさかの女親分とは思わなかったよ……。


「わざわざきてもらって申し訳ない。ジョゼット・マルティーヌだ」


 さすが親分。オレやミシニーを見ても一切怯むこともない。覚悟を持った目でこちらを見てきた。


「ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのマスターの一ノ瀬孝人だ」


「やっと顔が見れたよ。舐めてかかると痛い目に遭うぞって顔だ」


 どんな顔だよ? オレは優しそうですねってよく言われるぞ。


「そちらも敵対したら恐ろしい目に遭うぞって顔だ」


 顔でなく雰囲気からそう感じたんだけどな。


「ふふ。わたしはちゃんと相手を見て決めているさ。お前さんのように目的のためなら強大な敵ですら倒すとか言わんよ」


「賢い生き方ができて羨ましい。オレは相手すら選べませんよ」


 すべてのものがオレの将来を脅かしてくる。ゴブリン駆除より味方作りに時間と労力を割かれているわ。


「少なくともマルティーヌ一家はお前さんの敵にはならない。その証拠として人攫いの情報をすべて出そう」


 と、羊皮紙の束をテーブルに置いた。


「ミシニー。確かめてくれ」


 こちらの文字で書かれたものなんて読めないのでミシニーに読んでもらいます。


「……捕らわれている者の中に獣人が何人かいるそうだ……」


「人攫いの人数は?」


「人攫いは十八人。鉄印の冒険者が十四人。雑用とかは二十数人。隠れ家は三ヶ所。ミスリムの町にも一つある。ミヒャル商会が関連しているようだ」


「獣人が捕らわれている場所は?」


「倉庫街だ。ミヒャル商会が借りた倉庫にいると書いてある」


「じゃあ、まずはそこを攻める。マルティーヌ一家には捕らえられた者の回収を頼む。一つ一つ潰していく」


「任されよう。他には?」


「なるべく殺すが、もし取り残しがいたら殺してくれ。領主代理から許可は得ているからマルティーヌ一家が処される心配はない」


 これは領主代理から人攫い組織を壊滅させる依頼を受けた形にしてもらい、その証として書状を書いてもらった。各所にも通達してもらうようお願いもしている。


「これは合法であり、協力してくれたマルティーヌ一家には褒美として下請け業務団体としてくれるそうだ」


 人攫いのことは考えてなかったが、下請け業務団体の構想は話してある。協力してくれた褒美としてマルティーヌ一家を引き立てることに変えたのだ。


「……敵にしないで本当によかったよ……」


「だったらロンガを褒めてやるといい。この場を作ったのはロンガだからな」


 今回の立役者はロンガだ。よかったと思えるなら褒めてやってやれ、だ。

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