第505話 ミレンダ(徴税人)

 革袋の中を見た男が驚いた。


 ってことは、金貨六枚はそれだけの価値があったということだ。それはなにより──だけど、また魔石を売らないといかんな……。


「使い道はそちらの好きにして構わないと上に伝えてくれ」


「……あ、ああ。わかった」


「それと、人攫いと繋がりがあるなら早々に切ることだ。巻き込まれたくなければな」


 人攫いのほうを取ると言うならそれで構わない。反社会的な一家はいるみたいだしな。


「うちはあいつらとの繋がりはない。ただ、あいつらの後ろに大きい存在がいるぞ」


「なら、その大きい存在も潰すまでだ」


 のさばらせたらコラウスにとっても害悪になる。表立って攻撃されるならまだしも裏から攻撃されるのは面倒でしかない。テロ活動される前にコラウスにいる人攫いは全滅させる。


「オレに協力しろとは言わない。邪魔だけはするな」


 いくらバックに大物がいようとコラウスで活動するヤツは多くないはずだ。もしいたら領主代理の耳に入っているはず。どうこうすることはできなくとも情報だけは集める人だからな。


「いや、協力させてくれ。マルティーヌ一家はタカトさんと敵対しないと証明するためにもな」


「オレが死ねば不利になるぞ」


 まあ、死ぬ気はないけどな。


「潰す手段があるんだろう?」


「もちろん」


 でなければ一人で街なんか歩けないよ。ちゃんとイチゴに護衛してもらっています。


「それならマルティーヌ一家はタカトさんにつく」


「あんたが勝手に決めていいのか?」


「おれはこんな顔だが、交渉のすべてを任されている。重要なことならおれが判断して決めろと親分に言われている」


 いや、信頼されすぎだろう。一家の今後を決めることだぞ。このロンガって男何者なんだよ!? かなり上位者じゃないと無理だろう! それとも場長ってそれだけの地位なのか? マルティーヌ一家がわからなくなってきたよ!


「もし、信じられないと言うなら一家にきてくれ。親分から言ってもらう。その際は、何人連れてきても構わない。もちろん、武器持参でな」


 普通、こちらに出向くとなるんだが、きてくれってことは自分たちの身をオレに晒すってことなんだろうか? 


「明日、昼前にここにきてくれ。仲間に報告しないといけないんでな」


「わかった」


 そう答えると、三人は去っていった。


 人混みに消えたらプランデットをかけてイチゴに連絡。三人のあとを追うように伝えた。


 護衛でついているイチゴを離すとミリエルに怒られそうだが、冒険者ギルドの横で騒ぎを起こすバカはいないだろう。仮にいたとして狙撃でもない限り、対応できるさ。


「お前たち。ご苦労さんな」


 プランデットを外して子供たちに振り返った。


「報酬だが、金じゃなく別のもので渡すな。銀貨一枚渡しても大人に奪われるかもしれないしな」


 前に隠すところがあると言っていたが、十二人ともなれば大金だ。持っているとわかれば殺してでも奪いにくるだろうよ。


「別なものって?」


「お前たちをセフティーブレットの一員とする」


 ゴブリン駆除請負員に資格はいらず義務もない。さらにペナルティーもない。だが、利点はある。


 請負員となれば十五日縛りが関係なくなる。駆除員が買ったものでも請負員が触り続けたら消えることはないのだ。


 大丈夫か? とは思うが、今の段階で不利益は起きてないのだから構わないだろう。


 ちなみにこの世界の者に銃を模倣されるんじゃないかって心配はまるでしてない。


 いくら銃の見本があるからってそう簡単に真似ができるほど銃は単純な構造じゃない。工程がいくつあると思ってんだよ。なんの知識もないところからバネを作れとか、職人発狂するぞ。それに、銃を作る金はどこから引っ張ってくるんだよ? 金貨百枚出したって作れんぞ。必要な道具を作るだけでその年の国家予算が消えるわ。


 物好きが作るかもしれない恐れがあるが、どんな大天才でも個人でやろうとしたら数十年はかかるだろう。仮にそれが成功したとして、銃の有用性を理解できるヤツはいるか? 元の世界だって銃の有用性を理解するまで数百年はかかってんだぞ。魔法がある世界なら銃を作るより魔法を使える者を集めたほうが早いだろう。


 まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。子供たちを請負員にする最大の利点は気配がわかるってこと。子供たちが拐われても位置がわかるってことだ。


 子供たちを囮に、なんて悪どいことはしたくないが、これは万が一の保険だ。この先どうなるかわからないんだからな。

 

 とりあえず請負員カードを配り、全員の名前を告げさせた。


「ミレンダって名前だったんだな」


 初めて知る徴税人の名前。いや、もっと早く訊けよ! って突っ込みはいらないんで黙ってくださいね。


 他のヤツは後々覚えていこう。さすがに全員は覚えられんよ。


「よし。これでお前たちはセフティーブレットの一員だ。今度から仕事をしてもらった報酬は現物で渡すな」


 今日の報酬たるディナーロールを三袋と瓶詰めのジャムを五つ渡した。


「今日はこれで終わりだ。また街の様子を探ってくれ」


「わかった! おじさん、またね~!」


 教会に走っていく子供たちを見送り、また冒険者ギルドに魔石を売りに向かった。

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