第504話 マルティーヌ一家

 服屋で買い占めたら手持ちの金がなくなってしまった。服、たっけーな!


 孤児の子供が着ているようなボロ着でも銅貨二枚とかぼったくりすぎだろう。マシな服なんて大銅貨二枚とか下町でこれかよ。もしかして、コラウスって物価高? ミヤマラン……でも高かったな。金貨で五、六十着しか買えなかったし……。


「冒険者ギルドで魔石でも売るか」


 すべてを山崎さんに渡しているわけじゃない。青い魔石は教会が欲しがり、手頃な魔石は人気があると言うので残してある。


 ハンバーガー丘(カランデ平原)で集めたゴブリンの魔石をホームから持ってきて冒険者ギルドに向かった。


 夕方に近くなっているから、街で仕事をしている冒険者が報告と報酬をもらっている光景が見えた。


 買取りカウンター的な場所で魔石を出すと、金貨六枚に化けた。


「……なにかあったんですか……?」


 魔石の適正値段なんて未だに知らないが、確実に高額で買取りされたとわかった。


「情報は回ってきてないが、王都の教会が買い集めているようだ。まだあるなら買い取るぞ」


「いえ、これで終わりです」


 なにがあったかわからないが、これ以上売るのは不味い。買い占めている理由があるならこちらも備える必要があるってことだ。ロースランの魔石を残しておいてよかったぜ。


「また集めたら売りにきますよ」


「そうしてくれ。コラウスで青い魔石を売ろうとするヤツはあまりいないからな」


「青い魔石を持つゴブリンはたくさんいるんですけどね」


「なかなか上手くいかないもんだよ」


 まったくですと返して冒険者ギルドをあとにした。


「あ、おじさん!」


 隣の広場にくると、幼年組(五、六歳)が戻っていた。近場を言い渡されたのかな?


「ご苦労さん。他はまだか?」


「うん! 一家に言いにいくってさ!」


 直接いったんかい。そこら辺を歩いている手下に言うのかと思ってたよ。


「そうか。じゃあ、帰ってくるまで甘いものでも飲んでろ」


 缶のミルクココアを取り寄せ、封を切って幼年組に渡した。


「美味しい!」


「そうか。なら、仕事をお願いしたら飲ませてやるよ」


 今回の報酬にMIL○でもつけてやるか。栄養が足りてない子供には○ILOだろう。アレには子供の頃、よくお世話になったしな。


 オレも缶コーヒーを飲んで一息ついていると、年長組がその筋とわかる男三人を連れて帰ってきた。


 ……あの顔によく声をかけられるよな……。


 泣く子もさらに泣くような顔と雰囲気なのに笑えているとか、ここの子供、どんだけ豪胆なんだよ?


「おじさん! マルティーヌ一家の偉い人だよ!」


 偉い人? 年齢から言って若頭的な存在か?


 立ち上がってマルティーヌ一家の三人と対峙した。


 ここに連れてこれる前なら完全にビビって逃げ出していたことだろうが、バケモノばかりと対峙してたから凶悪な面してんなーってくらいにしか感じないよ。


「マルティーヌ一家の場長を任されているロンガだ。あんたがタカトさんかい?」


 反社会的の人間なのに随分と礼儀正しいこと。


「ああ。ゴブリン駆除ギルドセフティーブレットのマスター、一ノ瀬孝人だ。タカトと呼んでもらって構わない。文句でも言いにきたのかい?」


 縄張りで好き勝手してくれるじゃねーか、とかだったら素直に謝罪させていただきます。


「いや、そんなことしないよ。いろんなところがあんたについてんだからな」


「耳が早いことだ」


「そうでなきゃここでは生きられないよ」


 反社会的勢力だからこそ力関係は大事、ってことかな?


「タカトさんに会いにきたのは挨拶だ。マルティーヌ一家はタカトさんや子供たちには手を出さねー。なにかあるなら協力させてもらう」


「随分と下手に出るな。子供たちの話からしてかなり大きな一家だと思うんだが」


「確かにコラウスでは大きい一家だ。だが、絶対的な立場にはいないし、そう力があるわけじゃない。領主に睨まれたらおしまいだ」


 まあ、あの領主代理が袖の下を寛容する性格じゃない。敵は徹底的に潰す派だ。反社会勢力がなにかしたら容赦なく断じる光景がありありと見えるよ……。


「いろいろ大変なようで」


「おれらは街でしか生きられない小悪党なんでな」


 街の中で生きるために特化した集団。魔物が闊歩する世界ではなんの役にも立たない。謂わば、檻の中でしか生きられない飼い慣らされた獣ってことだろうよ。


「で、オレになにをして欲しいと?」


「ウワサで聞いた。おれたちを使って街道整備をしようとしていると。タカトさんが知恵を出したともな」


 本当に耳が早いな。いや、もう動き出したということか?


「ああ。コラウスから海までの道を整備する。そのためには人が必要であり、人を纏める組織が必要だ。これは、領主代理、マイヤー男爵、アシッカ伯爵の認をいただいた。いや、商人たちも乗り気だ。いずれ教会も協力する方向に動くだろう」


 オレが知恵を出したと言うのならそうだろう。動くのはこの地にいるものだろうけど。


「動くのなら早くから動くことを勧める。この勝負、人を集めた者が勝者だ」


 魔石を売った金貨が入った革袋を男に向かって放り投げた。


「いち早く挨拶に動いた人に伝えてくれ。その義理は受け取ったとな。それはそのお返しだ」


 マルティーヌ一家に金貨六枚がどれほどの価値になるからわからない。が、少なくはない金額だ。こちらの本気を見せるには安くないはずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る