第503話 道女(修道女士)
昼飯が終わればインスタントココアを淹れてやった。
「落ち着いたら街を案内してくれ」
なんかそんな依頼を出していたような記憶がある。いろいろありすぎて正解な依頼がなんだったのか忘れましたけど。
「任せて! どこになにがあるかがんばって覚えたから!」
オートマップとデジカメ二つ、そして、メモ帳を取り寄せた。
デジカメは年長の子に渡して使い方を教え、冒険者ギルド周辺を写させてた。
「この大通りはサミア通りって言うんだよ」
「へー。名前なんてあったんだ」
まあ、ないこともないだろうが、思いの外、道に名前がついており、裏道にも正式じゃないが通名がついていたのには驚いたよ。
「屋台が結構あるんだな」
まずはサミア通りを時計回りに歩いていると、道の左右に屋台がたくさん並んでいた。
「ここは職人街だからね、見習いや職人が買いにくるんだよ」
言われてみれば煤っぽい臭いや汗臭さが充満しているよ。
「よし。いろんな屋台から銅貨一枚分のものを買ってこい。買い物をしたことあるヤツはいるか?」
年長者が四人手を挙げた。
「なら、小さい子を連れて買い物の仕方を教えろ。皆が覚えたらたくさんの屋台を回れるからな」
四人に銅貨を一枚ずつ渡して買い物にいかせた。
戻ってきたらデジカメに収め、メモ帳になんの商品かを書いていく。
「買ったものは食っていいぞ」
オレも謎の串肉を食って味を確かめた。塩が効いてないな。
他のもと続けたが、子供の胃ではそうたくさんは買えない。四回が精々だった。
「仕方がない。この辺に靴屋はあるか?」
「それならミドの靴屋があるよ」
六歳くらいの子が知っているようなのでそのミドの靴屋に向かった。
ミドの靴屋と言うのは城壁側にあり、小さな店がズラリと並んでいた。
「ミシンド城壁通りだよ」
辺境なクセにデカい街だとは思っていたが、それ以上に大きな街だと理解できた。こんな場所が他にもあるってことだからな。
……五万人くらいかと思ってたが、七万人くらいいそうだな……。
それだけいて人手不足とか、社会(政治)体制が未熟ってことだろう。そこで死んでいく者は救われないな。
「ここだよ!」
ミドの靴屋は左右と同じで小さな店だ。革で編んだような靴が店先に釣り下げられていた。
店の中も小さく、靴で埋め尽くされている。奥が作業場なのかな?
「いらっしゃい。どんなものをお探しだい?」
主なのか、四十代の男が空いているところで革を編んでいた。
「この子たちに合う靴を見繕ってください」
「おじさん!?」
驚く子供たちを黙らせ、店主と話を進めた。
靴は安いもので銅貨五枚。高いもので大銅貨一枚だった。
下町の店っぽいので靴の質は悪いが、これがこの辺では普通の値段とか。高級なのはサミア通り沿いにあるそうだ。
子供たち十二人で大銅貨一枚で収まった。約三千円で買えるわけだ。
ただ、子供たちの反応や店主の喜ぶ姿を見ると、価値は三千円ではなく三万円近くになる感じっぽいな。
銅貨一枚も百円くらいの感覚でいたが、千円くらいの価値がありそうだ。
「この近くに子供の服を売る店はありますか?」
靴の値段はなんとなくわかった。次は服を調べるとしよう。
「お客さん。あまり孤児を身綺麗にすると人攫いに合うよ」
上客だからか、店主が忠告してくれた。
「人攫い、よくあることなんですか?」
「よくはないが、噂はよく聞くよ」
「そうなのか?」
子供たちにも訊いてみた。
「うん。あたしたちのところは冒険者ギルドが近くにあるから拐われることは少ないけど、他の孤児院ではよくあるって道女さまが言ってた」
「孤児院、他にもあるんだ」
まあ、これだけの都市。教会や孤児院が一つのわけないか。
「人攫い、か」
そう言えば、ビシャたちも拐われたんだっけ。うちの者に手を出すとか万死に値するな。
「お前たち。大きな仕事を受ける気はないか? 受けてくれるなら一人銀貨一枚やろう。もちろん、断っても構わない。お前たちをエサに人攫いを退治しようってんだからな」
元の世界なら社会的に抹殺されそうだが、異世界では抹殺されることもない。まあ、顰蹙は買いそうだが、それは許容内だ。こちらには領主代理がついているんだから恐れるな、だ。
「やる! 銀貨一枚分の仕事をさせて!」
「わかった。あ、ここら辺を仕切る、なに一家だっけ?」
「マルティーヌ一家だよ」
「じゃあ、そのマルティーヌ一家にオレが人攫いの一味を潰すと伝えてくれ」
関わりがあるならマルティーヌ一家も潰す。嫌なら今のうちに手を引け、だ。
「わ、わかった。皆、おじさんが人攫いを潰すってことを伝えるんだよ」
「終わったら冒険者ギルドの横にこい。今日の報酬を払うから」
「わかった! 皆、いくよ!」
靴屋から飛び出していく子供たち。なんと言うか逞しいことだ。
「あ、服屋はどこです?」
呆れる店主に尋ねた。うるさくして申し訳ありませんね。
「店を出て左に向かえばあるよ」
「ありがとうございます」
店主に礼を言い、服屋に向かった。お、あれか。ドワーフに合う服があるかな?
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