第502話 正しき世界

 酔いも消えてくれたので城をお暇させてもらった。


「サイルスさんは、しばらく城にいるんですか?」


 ラザニア村を管理? をする役目を任されましたよね。


「ああ。今は城への出入りが激しいからな。ミシャを守る役目をやっているよ」


「そうですか。護衛も選んでおかないとですね」


「これ以上、仕事を増やすようなこと言わんでくれ。やることが多すぎて追いつかんよ」


「そうですね。一つ一つ片付けていくしかありませんね」


 ではと、ウルヴァリンに乗り込んで城を出た。


 第二、第三の門を出たら冒険者ギルドへ向かった。街にきたときはギルドマスターに挨拶しておかないといかんからな。


 ギルドの横にウルヴァリンを停めて降りたら徴税人軍団に囲まれてしまった。


 ……なんてお約束だ……?


「お前らは暇なのか?」


 そんなことあるなら働けよ。


「昨日、おじちゃんを見たから待ってたの!」


 あーまあ、ウルヴァリンで走っていたら嫌でも目立つか。皆振り向いていたしな。


「ちょっと冒険者ギルドにいってくるから見張っててくれ」


 飴を取り寄せて徴税人の代表に渡した。


「任せて! 皆、見張るよ!」


 なんだかリーダー的な立場になっている徴税人の少女。マナナとは違ったタイプだな。


 時刻も十時前なので冒険者の姿はなく、街で仕事を探しているような感じの者らがちらほらといるだけだった。


「セフティーブレットです。ギルドマスターとの面会をお願いします」


 もう顔を覚えられたので、女性職員がすぐに出てきてギルドマスターの執務室へと案内された。


「皆さんで食べてください」


 いつものようにドーナツを差し入れ。ありがとうございますと満面の笑みを浮かべて去っていった。いや、オレがきたこと伝えないと!


 仕方がないので自分でノック。自分で名を告げた。


「入ってくれ」


 と言うので失礼します。


「お仕事中、すみません。いろいろ報告があったもので」


「マルスから手紙が届いたよ。ドワーフが大量に流れてきたようだな」


「はい。昨日は領主代理と今後のことを話し合ってきました」


 酒が入って所々抜けてはいるが、覚えている限りのことをギルドマスターに伝えた。


「……そうか。冒険者ギルドにどう影響する?」


「少しずつ人材不足になっていきますね。それに伴い報酬の上昇。ギルドと冒険者の立場が逆転することになるでしょう」


「ハァー。とんでもないときにギルドマスターになってしまったな」


「ちゃんと手はあります。冒険者ギルドをマイヤー男爵領、アシッカ伯爵領に移行していけばいいんでよ。これから街道が整備されていけば隊商の護衛の仕事が出てきます。それに、冒険者は毎年のように流れてきます。ギルドとしては他に流れていかないように教育していけばよろしい」


 これまでのようにはいかないが、時代は常に動いている。ここでなにもしなければ滅びるだけ。それが嫌なら変化していけ、だ。


「アシッカにもギルド職員を送ったのもこの変化を予想していたのでは?」


 そうでなければギルド職員を向かわせるなんてしないはずだ。


「さすがにこんな未来は予想などしとらんよ。昔、アシッカで活動していたことがあった。あそこが発展するなら冒険者の仕事も増えると思ったまでさ」


 なるほど。そう言うことか。やはりサイルスさんが後継と選んだだけはあるわ。


「オレは昔のアシッカは知りませんが、五年以内には発展しますよ。今年中には海までの道を繋ぎますので」


 いや、夏までは繋げたいな。久しぶりに海を楽しみたいし。


「お前さんが言うと本当にそうなりそうだ」


「時代が流れるときは本当に速いものです。乗り遅れないでください」


「ああ。がんばるとするよ」


 この人なら老害とならず、次世代にその意思を受け継いでいきそうだ。


「あ、まだ移動販売の準備はできてませんが、要望があるなら応えさせていただきますよ」


「それは助かる」


 ってことでギルドマスターの要望に応えていたら職員に勘づかれて、空いてる部屋を販売所にしていろいろと商品を売った。


 なんだとかんだと昼までかかってしまったが、無事、ミッション終了。冒険者ギルドをあとにした。


「遅くなって悪かったな。お詫びに昼をご馳走するよ。あ、孤児院で昼が出るか」


「ううん。孤児院では朝と夜しか出ないよ。昼が食べたければ自分たちで調達するしかないんだ」


 一日二食かい。育ち盛りに酷なことだ。だから皆痩せてんだな……。


「そうか」


 なんと言っていいのかわからんので、ウルヴァリンに積んであるコンテナボックスを降ろし、カセットコンロと非常食のインスタントのコーンスープを出した。


 鍋で湯を沸かしている間にディナーロールとジャム各種を取り寄せた。


「できるまでこれでも食っていろ」


 ジャムを開け、スプーンでディナーロールにつけて渡した。


「美味しい!」


「あまーい!」


 喜ぶ子供たち。大したものじゃないのにな。それだけ質素な食生活ってことなんだろう。


「ガツガツ食いすぎると次の美味いものが食えんぞ」


 沸騰したら火を消し、コーンスープの粉を鍋にぶち込んだ。


「いい匂い」


 ディナーロールを食うのを止めて鍋を囲み出した。


「ほら。熱いから離れろ」


 紙コップに注ぎ、小さい子から渡していった。


「パンをつけて食ってもいいし、そのまま飲んでもいい。好きなように食え」


 熱い! 美味しい! と騒ぎながら嬉しそうに食べる子供たち。これが正しき世界の光景だと思うよ……。

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