第501話 一蓮托生

 やはり、酔い潰れて城に泊まることになった。


 ……巨人になれる指輪をするんだった……。


 後悔先に立たず。てか、学習しろって話だな。あの酒豪と酒を飲むってことはよ……。


 ベッドから起き上がり、ホームに入った。


 玄関にミリエルはおらず、ラダリオンだけじゃなくミサロもいなかった。なぜいないかはあとにしてシャワーを浴び、水を大量に飲んだ。


 それで一息でき、新しいインナーシャツに着込み、紺色のジャージに着替えた。


 武器は一切つけずに外に出た。


 昨日わかったことだが、領主代理の前で下手な武装は余計に危険だ。


 あの人は武闘派だ。常に命の危機に備え、覚悟を決めている。そんな人の前で武器所持とか、一瞬の誤りで殺されかねない。それなら武器を持たないことで多少なりとも警戒を緩めてくれる。


 まあ、あの人に素手で勝てるわけもないが、今のオレには魔法がある。魔力増幅の腕輪がなくても逃げ出す時間を稼げるはずだ。


 ベッドの上でヘタっていると、侍従的な人がきて朝食を告げた。


 案内されて食堂にいくと、昨日の酔いはどこへやら。いつもの凛とした領主代理とサイルスさんがいた。


 ……領主代理の肝臓、どうなってんだろうな……?


「おはようございます」


「おはよう。随分と楽そうな服だな?」


「ええ。楽なので部屋着にしてます。そう高いものじゃないので買ってみるとよろしいですよ」


 サイルスさんの稼ぎなら問題ないはずだ。


「そうしよう」


 それ以上の会話なく、朝食が終わるとすぐに食堂を出ていってしまった。


「忙しそうですね」


 残ったサイルスさんに声をかけた。


「お前が持ち込んできたことがそれだけのことなんだよ」


 まったくもってごもっとも。忙しくなるしかない事案でしたね。


「さらに忙しくなる前に兵士を増やしておいたほうがいいですよ。雑兵くらいなら食事支給で雇えるでしょうしね」


「謀反と思われかねないな」


「その誤解を解くのが領主の役目。もし、帰ってきたら病気にしたらいいんですよ」


 そういうの、時代劇で観たよ。


「……お前もミシャも過激で参るよ……」


 領主代理もその方法を考えていたわけだ。思い切りがあっておしっこチビりそうだ。


「実に頼もしいじゃないですか。ゴブリン駆除員を辞められるなら領主代理の下で働きたいですよ」


 清掃員でもいいから城で働いて小さな幸せを求めたいぜ。


「タカトを組織にいれたらさらに忙しくなりそうだな」


「可もなく不可もなく、邪魔にならない働きをする自信はありますよ」


「そんな組織にしてしまいそうだから長としてタカトをいれたくないんだよ。お前にはそれを成し得てしまう能力があるんだからな」


 オレとしては働きやすい環境を整えようとしているだけなんだけどな。


「まあ、兵士のことはおれも増やしたいとは思っていた。雑兵ならそう難しくないかもしれないな。刈り入れのときに集める要領で構わないばすだ」


「もしくは災害が起きて人手が欲しかったや山狩りするのに必要だったってのもいいかもしれませんね。コラウスには百人二百人隠せる場所が結構ありますからね」


「よく言い訳を考えつくものだ」


「嫌な上司はどこにでもいますからね」


 言い訳を駆使して生き残るのも会社員の必須。できないと組織から弾き出されるだけだ。


「領主代理はもっと手駒を集めるべきですね。すべてを一人でやろうとすると、次に立つ者が挫けますよ。商人から。冒険者ギルドから。教会から。兵士からと、集めたほうがいいですよ」


「ミシャの下で働くのはかなり大変だぞ。配下になってくれる者がいるかどうか……」


 まあ、わからないではない。性格がアレな人だからな。


「なら、ルスルさんを推しますよ」


「ルスル? マルス支部のルスルか?」


「ええ。あの人なら領主代理の圧にも負けないでしょうよ」


 ルスルさん。売る形になってごめんなさい。


「まあ、確かにあいつならミシャの圧にも堪えそうな性格はしているな。だが、ミシャの下につくか?」


「領主代理の補佐官として、いくつかの権限と身分を与えたら受けると思いますよ」


 あの人は本心を語らないが、行動から考えは透けてくる。裏で動き稼ぐタイプだ。領主代理の陰で上手く立ち回るだろうよ。


「商人に伝手はないのでわかりませんが、財務官にならないかと誘えば喜んでなる人はいるでしょうよ。城に教会を建ててコラウスの法事関係を任せればいいと思います」


 それでコラウスにある大きな組織を味方にできるだろうよ。


「セフティーブレットは外から協力しますよ。うちには、巨人にエルフ。そして、ドワーフがいますからね」


 コラウスでは身分は低くても戦力としてみればちょっとした国の軍隊並みにはある。千や二千の軍隊なら余裕で相手できるだろうさ。


「……まったく、頼もしい限りだよ……」


 天を仰ぐサイルスさん。ほんと、なんでこんな常識人が領主代理と恋に落ちたものだ。


「そう言ってもらえて光栄です。オレもコラウスを故郷だと思ってますからね。協力できることがあったら遠慮なく言ってください。全力で応えさせていただきますから」


 未来のために一蓮托生となりましょう、だ。フフ。

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