第500話 尊敬に値する

「……ここが、セフティーホームなんですね……」


 興味深げに眺めるシエイラ。無理もないわな。


「ここは、玄関とガレージだな」


 玄関部は約二十畳くらいで、パイオニアとトレーラーが入る広さにはしてある。


 出入りしていれば覚えるだろうが、なにも説明しないのも無責任と、ガレージから案内していった。


 天井クレーンの操作は後々。まあ、ミサロやミリエルが知っているので無理に覚えることもないか。


「ドアからの出入りとなるとパイオニアやマンダリンを出すのは無理か」


「パイオニアならともかくマンダリンは運転できませんよ」


 それもそうだ。


 ガレージが終われば中央ルームに移動する。


「オレたちはここを中央ルームと呼んでいる。オレはそこで寝て、ラダリオンとミリエルはあそこの部屋だ。ミサロは三時間くらいしか眠らないから適当な場所で眠っているよ」


 ここでも興味深げに眺めているので、落ち着くまで待つとする。


「あら、きてたのね」


 トイレからバケツを持って出てきたミサロ。どうやら掃除をしていたようだ。


「これからよろしくね」


「ええ。よろしく。タカト。女が四人になるし、トイレを増やしていいかしら?」


「わかった。ガレージに一つと中央ルームに一つ作るよ」


 ガレージに一つ欲しかったし、部屋から中央ルームにくるより近いだろうからな。


「そうなるとシエイラの部屋が作れなくなるか」


 トイレ二つなら七十パーオフシールを使えば百五十万円くらいで収まるはずだが、部屋となると四畳くらいになりそうだ。


「わたしは館の部屋で構いませんよ。トイレとお風呂が使えれば」


「すまんな。もっと稼いだら部屋を作るよ」


 トイレを作ったら一千万円を切ってしまう。なにがあるかわからないのだから、もっと稼いでからにするとしよう。


 ……てか、一千万円を越えるとなにかと出費がかさむよな。なんかの呪いにかかっているんだろうか……?


「わたしは、あの部屋で充分ですよ」


 トイレや風呂を教え、あとはミサロに任せた。女同士で話すこともあるだろうと思ってな。


 ホームから出たら車庫に出していたウルヴァリンに乗り込み、城へ向かった。逃げたのではないのであしからず。


 城までいっきに走り抜け、いつもの門から第二城壁街へ。さらに城に入る門に向かうと、顔パスで中に入れられた。それでいいのか?


 どんな方法で伝達しているかわからないが、駐車場(仮)にウルヴァリンを停めたら執事のミシドさんが現れた。


「領主代理と面会したいのですが、大丈夫ですか?」


「はい。あ、そのままで構いません。では、こちらへ」


 腰のベルトを外そうとしたら止められ案内された。


 多少は待つかと思ったらそのまま領主代理の執務室へ。本当に大丈夫なの? 少しは警戒したほうがいいんじゃないの?


「ミロ。少し休憩だ。サイを呼んできてくれ」


 領主代理が席から立ち上がると、棚からワインを取り、コップに注ぎながらソファーに座った。自由か。


 オレも座れと勧められたので一礼して向かいのソファーに座った。


「また問題か?」


「マガルスク王国からドワーフが大量にやってきました」


「またか。あの国にも困ったものだ。うちはごみ捨て場ではないのに」


 領主代理にも伝わるくらいよくあることなんだ。


「なにか大きな事態が起きたのでしょう。約三百人のドワーフがやってきました。恐らく、さらに増えると思います」


「……もう侵略を受けているのと同じだな……」


「オレもそう思います。ですが、考え方次第で危機も好機に変わります。マガルスク王国はドワーフを捨てたのではなく、コラウスに兵士を与えてくれたんですよ」


「それはさすがに都合がよくないか?」


「オレにとっては都合がいいですね。ゴブリン駆除請負員を増員できて、あちら方面からくるゴブリンを任せられます。さらにマガルスク王国から軍を出されたらドワーフが防いでくれます」


 コラウスとしても旨味はある。ゴブリンが流れてこなければ農作物への被害も抑えられるし、住む許可を与えたら軍事費をドワーフに任せられることもできる。


「すべてがすべて上手くいくとは言えませんが、コラウスの防衛を考えたらドワーフを受け入れたほうがいいとオレは思います」


 それは領主代理の力ともなる。


「オレはあなたの決断を支持します」


 それはつまり、セフティーブレットが領主代理の味方になるということ。必要なら武力となって動くということだ。


「随分と思い切ったな」


「思い切るに相応しい人がいましたからね。オレの未来を賭けたまでです」


 他にも相応しい人はいるかもしれない。だが、こうして出会ったのは領主代理だ。なら、選択肢が間違いなかったと力を貸すまでだ。


「お前のそのおもいっきりが恐ろしいよ」


「それを知って笑顔を崩さないあなたも恐ろしいですけどね」


 オレの思惑を知って尚、怯みを見せないとか心臓、鋼かな? サイルスさん、よくこんな人と結婚したよな。尊敬に値するよ。


「まあ、いいだろう。タカトの提案を受け入れようじゃないか。考えていることを最初から聞かせてもらおうか」


 缶ビールを取り寄せ、喉を潤してから領主代理に考えていることを語り出した。


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 毎日投稿で500話(日)か。読んでもらえたから続けられました。ありがとうございます。

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