第499話 謎仕様

 朝、マルスの町に向けて出発する。


 雨が降りそうな空模様だが、運がいいことに降ることもなくマルスの町に到着できた。


 まずは冒険者ギルド支部へ。タイミングよくシエイラもいたので部屋を借りて状況を説明した。


「いつもながら急展開ですね」


 まったくだ。ゴブリン駆除するために連れてこられた凡人だってのによ。


「少年少女たちへの指揮は三人に任せる。五日ほど続けたらここで解散してもいいし、館で解散しでも構わない」


 一応、金貨を三枚渡しておく。


「シエイラ。まずは館に帰るぞ」


 指揮権を年長者のタズに与え、支部長に挨拶したらオレとシエイラはラザニア村に帰った。


 館に到着。パイオニア四号をホームに戻すと、ミリエルが玄関にいた。


「ご苦労さん。ビシャたちはどうだ?」


「山黒の斥候を撃退して、今はカンザニアに向かっています」


「まあ、ビシャなら山黒くらい問題ないな」


 攻略法さえわかれば山黒など怖くはない。ビシャの素早さなら難なく倒せるだろうさ。


「あと、シエイラが特別駆除員となった。ホームに入れるようになったからよろしくな」


「はい。シエイラなら問題ありません」


「……シエイラとそんなに仲よかったっけ……?」


 絡んでいる光景が思い出せないんだが。


「仲がよいかはわかりませんが、いろいろお世話にはなっていますよ」


 つまり、深く訊いてはならぬってことね。了解了解。


「部屋を増やしてシエイラに使ってもらうな」


 ミリエルとラダリオンは相部屋で、ミサロは中央ルームに置いてあるマッサージチェアで。オレも中央ルームのマットレスで眠っている。さすがに同じマットレスで、とはいかないのだからシエイラの部屋を増やしたほうがいいだろう。なにが? とは問わないように。


「はい。いきなり同居生活では大変でしょうからね」


 異論を出さないのがなんか怖いが、下手に突っ込むのも悪手なような気もする。落ち着いたときに食事をしながら友好を深めるとしよう……。


 邪魔しちゃ悪いと、すぐに外に出る。


 館に入ると、ライゴとガドーがいて、オレを見るなら駆け寄ってきた。


「旦那、どうなりました?」


 まあまあと二人を落ち着かせて、食堂で状況を教えた。


「不安なら出向いてみるといいんじゃないか?」


 ゴブリン駆除もそう急ぐこともない。不安で手がつけられないのならミロイド砦にいっても構わないさ。


「いえ。カインゼルさんから旦那の側には誰か残しておけって言われているんで」


 カインゼルさんも心配性だな。まあ、オレの不運を知ってれば残しておきたいだろうけど。


「暮らしが落ち着くまで時間がかかる。あちらはロズたちに任せてお前たちはしっかり稼いでおけ。なにか、報酬のすべて使った感じだった。なければお前たちの報酬を使うことになるんだから今のうちに稼いでおけ」


 ここにいるなら食事の心配はない。装備も弾も支給している。まるまる報酬となるのだから一生懸命稼げ、だ。


「……わかりました……」


 がんばれと二人の背中を叩いて激励し、シエイラと一緒にオレの部屋に向かった。


 なぜかホームに入れるドアをオレの部屋に作った謎。なぜシエイラの部屋じゃないんだよ。


「ん? なんか部屋が大きくなってないか?」


 六畳くらいの広さだったのに、九畳くらいの広さになっており、ベッドもセミダブルくらいにデカくなっていた。


「わたしとタカトの部屋、ってことじゃない?」


 夫婦か! って心の中で突っ込んでおく。まあ、駆除員になった時点でもう家族。守るべき存在なんだからなんでもいいわ。


「三人はまだ子供なんだから自重しろよ」


「ここでは十五歳過ぎたら大人よ」


「オレの世界では二十歳以下は子供なんだよ」


 その認識を覆すことは未だにできないでいるし、覆そうとも思っていない。未成年に手を出すヤツは4ねばいいと思う。


「この部屋はシエイラに譲るよ」


「一緒で構わないわ。三人とホームで暮らしているのとなにも変わらないでしょう」


 いやまあ、そう言われたらそうなんだけどさ……。


「わたしは、三人のようにはできない。けど、あなたを受け止めることはできる。不安になったり怖くなったらわたしが癒してあげるわ」


 オレを抱き締めるシエイラ。情けなくもありがたい言葉であった。


「……ありがとうな……」


 こればっかりは三人には頼れないし、頼ろうとも思わない。三人がどう思うと守る対象なんだからな。

 

 シエイラの温もりをたっぷり感じたら、シエイラにホームのドアを開けさせた。


 そのドアはシエイラ専用らしく、オレが入ろうとしたら弾かれてしまった。どんな仕様だよ?


 仕方がないので普通にホームに入ると、部屋と繋ぐドアはなく、シエイラだけが立っていた。


「シエイラ、どう出るかわかるか?」


「? このドアを使えば出れますよ」


 シエイラが指差す方向にはなにもない。外を見張るミリエルに確認してもらうが、オレと同様、ドアは見えていないそうだ。


「完全にシエイラ専用ってわけか。ドアから出れれば作戦の幅が広がったのに」


 どんな基準があるんだ? 考えてのことか、適当なのか、まったく読めねーよ。畜生が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る