第498話 どっちもどっち

「タカトさんは、いい扇動者になれそうですね」


 あとをロズに任せて砦の中に引っ込むと、ルスルさんかからかうように語りかけてきた。


「やる気を出させただけですよ」


「フフ。物は言いようです。ですが、あなたが女神の使徒なのがよくわかりましたよ。あんな奇跡を見せられたらドワーフはあなたと女神を信仰するでしょう」


「神なんて信じないに越したことはありませんよ。少なくともオレは神などクソったれと思っています」


 神など利用する道具でしかない。まあ、あっちも地上に生きる命など使い捨てだと思っているだろうがな。


「タカトさん!」


 と、ドワーフの女が走ってきた。ロズの嫁で……ミズニ、だっけか? あと、恐ろしいことにロズもミズニも二十五歳という驚愕。旦那って呼ぶなって言ったら年上なんだから旦那と呼ばせてくれと言われたんだよ。


 ……ミズニはともかく、ロズはどう見ても四十代だぞ……。


「どうした?」


「申し訳ありません。薬をいただけないでしょうか? 手持ちの薬がもうなくて」


「あ、忘れていた。ほら、回復薬小だ。自由に使え」


 ダンプポーチに入れてた回復薬小の瓶を渡した。


「こ、これ、女神様の薬じゃないですか!?」


 あ、市販の薬を求めていたんだ。


「手を貸すのはそれが最後だ。助かりたければ自分たちの力で解決しろ。オレが守るのは請負員たちだ」


 種族は関係ない。優先すべきはオレの代わりにゴブリンを駆除してくれる人材だ。そこを絶対に譲らないぞ。


「稼ぎがないなら稼げ。そこらかしこに金の成る実が落ちているぞ」


 暗に説得して請負員にしろと言っているのだ。


「わ、わかりました。ロズに言ってみます」


 理解してくれてなによりだ。


 走り去っていくミズニを見送ったらP90とマガジン、弾を取り寄せた。


 職員にはスコーピオンを支給して統一させたからP90って使わなくなったんだよな。オレもメインはVHS−2。大型魔物はタボール7。巨大魔物はリンクスを使っているし。


 念のために残してあるが、十五丁もあると場所を取るんだよ。マガジンだって百本近くあり、弾も二千発くらいある。もう使わないのならドワーフに譲っても構わないだろう。


 職員たちとP90を整備していると、マッシュに連れられて数十人の男たちがやってきた。


「旦那。こいつらを請負員としてください。説明はしておきました」


「わかった。請負員としよう」


 マッシュが説明したのならオレから話すことはない。請負員カードを発行して二十八人の男たちを請負員とした。


「まず初めに、オレは一ノ瀬孝人。お前たちを束ねる者だ」


 奴隷として生きてきたのなら難しいこと言っても理解が追いつかないだろうからな。


「マッシュ。P90の扱いは覚えているな?」


 二刀流ではあるが、弾込めや扱い方は教えてきた。一斉射のときはマッシュたちにもやらせたからな。


「はい。覚えています」


「すべてのP90をお前たちにやる。使い潰しても構わないからこれでゴブリンを駆除し、同胞を守れ」


「ありがとうございます!」


「アザド、バルサ。手伝ってやれ」


 ここを任せる二人なら信頼関係を築いておく必要がある。年齢的にも経験的にも二人ならやってくれるだろう。


「わかりました」


「まあ、その前に食事としよう。新たな請負員を祝ってな」


 同胞の手前、そう豪華なものは出せないが、ミサロが作ってくれたシチューとディナーロールを持ってきて食わせた。


「そんなにガッついて胃は大丈夫なのか? まだまだあるから落ち着いて食え」


 これまで大したものを食ってないんだから胃がびっくりするぞ。


「おれたちの胃は丈夫なんで大丈夫ですよ。ってまあ、おれたちはいいものを食いすぎて弱くなっちゃいましたがね」


「確かに。マレセノーラの料理も物足りなくて部屋で買って食ってましたからね」


 あまり食べないな~って思ったら口に合わなかったんかい。


「舌が贅沢になるのも考えものだな」


 まったくと、皆で笑い合った。


「明日、オレたちはミロイド砦を発つ。このことを領主代理に伝えなくちゃならないしな。しばらくはアザド指揮で頼む。必要ならドワーフから職員を募れ。ルスルさん。マルスの町の食料事情ってどんなものかわかりますか? 余裕があればこちらに回したいんですけど」


「豆なら回せるかと思いますよ。去年はゴブリンの被害が少なかったので。知り合いの商人に声をかけておきましょう」


「ありがとうございます。報酬は如何ほどでしょうか?」


「報酬はいりません。わたしの知り合いなので」


 つまり、独占しようというわけか。エゲつないことを考える。


「……怖い方だ……」


「間髪で見破るあなたのほうが怖いですよ」


「どっちもどっちですよ」


 って、アザドにシメられてしまった。


「ま、まあ、ルスルさんにお任せします、いいように進めてください。ルスルさんのことは領主代理に伝えておきますから」


「ちゃんと睨まれないようお願いしますよ」


「オレが言った人物は調べる人ですからね。遅かれ早かれですよ」


 あの人なら絶対やる。オレを理解するためにもな。


「とんでもない人に関わったものです」


「オレはコラウスにきてから常にそう思ってましたよ」


 無能な者と関わるのも辛いが、有能な人と関わるのも辛いものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る