第497話 女神セフティー

 マルスの町に着いたらパイオニア四号を仕舞い、ブラックリンを出してくる。


 あとはピストン輸送だ。歩いて半日の距離も飛べは十分もかからない。あ、乗り心地は考えないものとします。


 さすがに疲れたが、まだ倒れられない。ロズたちの荷物と食料を運び出した。


 二十二時までかかり、さすがに無理とマットを敷いて気絶するように眠りについた。


 朝になって目覚めたら、ロズたちがいなくなっていた。やはり我慢できずにいってしまったか……。


 そんな予感はしていた。もしかしたら家族か仲間がいるかもしれないんだからな、じっとなんてしてらんないだろうよ。


「……マスター……」


「なにも言わなくていい。悪いが、今日は待機しててくれ。オレはホームにいってくるよ」


 職員も止めただろうが、ロズたちはそれを振り切ったんだろう。いくなと厳命しなかったオレの責任。職員に責任を押しつけたりはしないよ。


 ホームに入り、熱いシャワーで体を目覚めさせた。


 湯上がりに一杯──は、さすがにできないのでスポーツ飲料で我慢。あービール飲みてー!


「タカト。魔王と戦う者からマナックと充填されたバッテリーが届いたわよ。あと、薬を譲って欲しいとあったから回復薬小を一瓶渡しておいたわ」


 あ、そういやボックスロッカーで繋がったんだっけな。すっかり忘れてたよ。


「了解。山崎さんには生き抜いてもらわないといかんからな」


 勇者が死んで魔王と戦う者までいなくなったらオレの負担はどれだけだってなる。考えるだけで胃が痛くなるわ。


「その代金としてこれが入ってたわ」


 長袖のインナーシャツとレギンスを渡された。あと、メモ用紙も。


「大型魔物でも引き裂けず、どんな鋭い剣でも斬り裂けない。衝撃拡散発散、耐火、対電、発汗エトセトラ。なんだ、このてんこ盛りなインナーシャツは?」


 あ! 万能なインナーシャツを造れる部屋を拡張したのか。なんかそういうホームもいいな。銃と弾薬を造れる部屋とか欲しいよ。


「五着もくれたのか。また魔石を渡してラダリオンたちのも造ってもらうか」


 戦闘職なラダリオンには是非とも欲しいものだ。グロゴールにも特攻しちゃう性格だからな。


 試しに着てみると、伸縮性があるのでいい感じにフィットしてくれた。


 フォークで腕を刺してみたら衝撃がシャツ全体に広がっていき、どこかに消えてしまった。はぁ?


 おもいっきり刺しても同じで、当たったって感覚しかなかった。


 ……これ、お助けアイテムより優れたものじゃないか……?

 

「てか、山崎さんって何者なんだ?」


 魔王と戦うとか、なんか特別な力を持った人なのか? 自衛官や格闘技経験者とかなら万能インナーシャツとかの発想にはならないだろう。銃とか攻撃的なにかを先に求めるはずだ。


「いや、それはあとだ。ミサロ。食べやすい料理を作っておいてくれ。あ、回復薬小ってまだあるか?」


「一瓶あるわ。回復薬中と大も一瓶ずつね」


 結構職員や請負員に飲ましたからな。そんなものか。


 まあ、ミリエルがいるから回復薬の出番はないのだから惜しみなく使っておこう。どうせまた出てくるんだろうからな。

 

 食事をしたら軽装備で外に出た。待機になるだろうからな。


 砦はこれと言った変化はなし。ゴブリンの気配もちらほらとあるていど。静かなものだった。


 することもないんで職員に文字を教わりながら過ごしていると、昼前に角笛? の音が響き渡った。


「ドワーフの一団だ!」


 きたか。夕方くらいになるかと思ったが、ロズが急がせたかな?


 オレもマガルスク王国側の門にいき、やってくるドワーフの集団を眺めた。


「三百人はいるか?」


「そうですね。そのくらいはいそうです」


 多くても動体反応では百人くらいだったのに、集合したのか三倍以上に増えていた。


「これは、難民を他国に押しつけたのと同じだな」


 もう宣戦布告されたのと同じだろう。下手したら戦争になるぞ。


 三百人以上の集団は、砦の前までやってきた。


「……旦那、すまない……」


 先頭に立つロズたちが地面に両膝をついて謝ってきた。


「別に怒っちゃいないよ。お前たちは仲間であって部下ではない。なにかするのにオレの許可なんていらないさ」


 多少の上下関係はあるが、自由意思に任せてある。自分たちの稼ぎで家族や仲間を救うなら好きにしたらいい、だ。


「ただ、この国にはこの国の決まりがある。それはオレにどうにもできないことだ。上の命令には従わざるを得ない。それはわかるな?」


「……はい……」


「だがまあ、オレはコラウス辺境伯の領主代理と繋がりがあり、お互い利を共有する仲でもある。オレが利を示せば領主代理も受け入れてくれるだろう。それだけの利を領主代理に与えてきたからな」


 金、武力、安全。これを放り出せる統治者がいるなら見てみたいものだ。


「領主代理に、ミロイド砦周辺をドワーフに任せるよう進言しようと思う。もちろん、これには思惑がある。コラウスはドワーフに盾となってもらう。マガルスク王国からの侵略が起こったとき、剣を取ってもらう。その見返りとしてここに住む許可を与えてもらうんだ」


「……か、可能なんですか……?」


「可能にするかはお前たちの選択次第だ。奴隷として生きるか。自らの意志で戦う戦士となるか。オレは、仲間の選択を尊重する」


 ヒートアックスを取り寄せ、刃を地面に突き刺した。


「これがなんなのかお前らにはわかるよな?」


 ダメ女神製であるが、神具であることに違いはない。それをドワーフに与えると、オレたちには女神がついていると言っているのだ。


「自らの意志で戦う戦士を選びます!」


 そう叫び、ヒートアックスつかんで掲げた。


「女神セフティーに栄光あれ!」


 ロズがそう叫ぶと、ヒートアックスが強い輝きを放った。


 まったく、ノリのいいダメ女神だよ……。

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