第496話 兄弟
ミロイド砦に戻ったら、隊長さんにドワーフの集団が近づいていることを伝えた。
「……またか……」
またか?
「結構昔からあることなんですか?」
その辺のこと、ロズから聞いてないや。
「ああ。マガルスク王国ではドワーフを家畜扱いしているようでな、毎年のように逃げてくるんだよ。逃げてきたってこっちで生きられるわけでもないのにな……」
コラウスにはエルフも巨人もいるからか種族差別はそれほど酷くはない。恐らく、貧富の差の問題が酷くて種族差別までいってないだけだろうよ。
「生きて辿り着いたドワーフはどうなったのです?」
その問いに、隊長さんは首を横に振るだけだった。つまり、そう言うことか。酷い時代だよ……。
「コラウスとしては好きにしろ、って感じですか?」
「悪さをしなければな」
人も未熟。法も未熟。そもそも世界が不完全。神はクソ。まあ、完全な世界と言うのも息苦しい世界だと思うが、なにもかもがクソすぎて絶望しかないよ。
とは言え、絶望に負けて死を選ぶほど往生際はよくない。足掻いて足掻いて足掻き切ってやる。しぶとく生き抜いてやる。時代に飲み込まれてたまるか、だ。
「悪さをしたらそちらの判断で処分してください。ただ、行儀よくしていたらオレに任せてもらえますか?」
「ミシャード様からあんたが関わってきたらすべて任せろと厳命されているよ。あと、協力するようにともな」
まったく、恐ろしい領主代理様だよ……。
隊長さんに話を通したらルスルさんにもドワーフが逃げてきたことを伝えた。
「また引き込もうとお考えで?」
この人も話がわかると言うか、先見があると言うか、こちらの考えなどお見通しって感じだよ……。
「数は力ですから」
「そこに種族は関係ありませんか?」
「種族も国も身分も関係ありません。オレの力となるならすべからく取り入れます」
弱いオレに力を選んでいる余裕はない。誰も使ってない力があるならオレが使わしてもらう。その精神だ。
「ハァー。あなたらしい考えです。ギルドにはわたしから伝えておきましょう。で、ドワーフをどう使うおつもりで?」
「ミロイド砦をドワーフの町にしてここを守らせます」
ラザニア村に連れてって開拓に従事してもらいたいところだが、魔王軍やマガルスク王国から侵略を受けたときの盾となってもらい、平時はゴブリン駆除に勤しんでもらう、ってことを語った。
「それは国が考えることですよ」
「いえ。領主代理が考えることですよ」
コラウスを仕切るのは領主代理。なら、町を管轄するのも領主代理。一団体のオレがどうこうすることじゃないさ。
「オレはただ、そうなるように下地を敷くだけです」
そして、後ろ盾となり、ドワーフの力を利用させてもらう。キブ&テイク。手を差し伸べてやるんだからそれに見合った働きをしてもらうさ。
タイミングよく職員たちも帰ってきたのでドワーフの集団がやってきたことを伝えた。
「百人規模ですか。それはマガルスク王国になにかあった感じですね」
言われてみれば確かに。数人、十数人なら逃げ出せないこともないだろうが、百人規模となれば目立って仕方がない。そうしなければならない事態が起こったってことだ。
「魔王軍に攻められたか?」
「それだったらマガルスク王国の民も逃げてくるはずです。恐らく、天候不良でドワーフを放り出した、じゃないですかね? 殺すのも手間なら片付けるのも手間ですしね」
この時代はそういうことまでやるんだ。地獄だな。
「そうなると、もっといるかもしれんな」
百や二百捨てたところろで食糧難なら焼け石に水。千単位になっているんじゃないか?
「助けにいきますか?」
「いや、それはロズたちにやらせる。オレたちにそこまでやる余裕はないからな」
セフティーブレットの一員なら助けにもいくが、そうでなければドワーフたちでやってもらう。
「ただ、支援はする。ドワーフと繋がりを持つためにな」
「そう言えば、ロズたちはマガルスク王国に向かう準備をしていましたね。まずは呼んだほうがいいのでは? そのほうが話が早いでしょう」
「それもそうだな。アザド、ここを任せる。オレはロズを連れてくる」
「わかりました。お任せください」
ルスルさんにもお願いしてブラックリンでホームに入り、ミサロにダストシュートしてもらった。
感じられる気配が増えたことで識別が困難になったが、ドワーフの住居はわかっている。そちらのほうを探ればロズたちの気配がわかった。まだ出発してはいないようだ。
住居にいくと、皆で集まって食事中だった。
「マッシュ。お前に弟はいるか?」
単刀直入にマッシュに弟のことを尋ねた。
「は、はい。ラッシュって弟がいました」
「そのラッシュがミロイド砦の近くまできている。仲間百人ほど引き連れて。何人かオレとこい。あ、女も一人いると助かるな。四人だ。決めたら館の前にこい!」
「おれ、マッシュ、ミズニ、ロレアだ。いくぞ!」
リーダーたるロズが即決してオレに続いて館に向かった。
館の前からホームに入り、パイオニア四号を出してきた。
「乗れ! マルスの町までいっきに走るぞ!」
もう暗くなってきたが、プランデットをかければ昼と変わらない。六十から七十キロで駆け抜けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます