第495話 首長

 ゴブリン駆除は順調だった。いや、順調すぎてルスルさんが二日目の午前中でギブアップしてしまった。


 まあ、午前中で百八十匹は過酷か。休み休みやっていたとは言え、それ以外は移動、止め、また移動の繰り返し。内勤だったルスルさんの体力ではこれが限界だろうよ。オレもちょっと疲れたしな。


 昼を長く休んでミロイド砦に戻った。


「まずは休んでください」


 ホームから厚手のマットを出してルスルさんを寝かせた。


「申し訳ありません。これほど鈍っているとは思いませんでしたよ」


「まあ、若いときのようにはいきませんよ」


 三十過ぎたら老いを感じるもの。まあ、オレは肉体が三段階アップしているからまだマシだけど。


 ルスルさんを寝かしたらオレは一人でゴブリン駆除に出かけた。


 今からだとそう遠くにいけないので、ブラックリンを出してきてマガルスク王国方面に飛んだ。


 十キロほど飛ぶと、ゴブリンが固まっている気配を感じた。


「大規模な群れだな」


 ざっと五百匹はいるな。また王が率いている群れか? 王、立ちすぎ問題だよ。


「いや、もしかして王ではなく首長とか族長みたいなものか?」


 そもそも千匹くらいで王は言いすぎだよな。王と呼ぶなら万はいないとしっくりこない。これからは千匹単位の群れなら首長と呼ぶとしよう。


 ゴブリンどもは空に意識を向けてないので難なく接近。ブラックリンの榴弾を降らせてやった。


 威力はグレネードランチャーくらいだが、密集しているところに降らせたから百匹近く駆除できた。


 パニックに陥るゴブリンども。だが、騒ぐだけで逃げようとはしない。いつもなら四方八方に逃げ出すんだがな?


 まあ、逃げないでいてくれるのなら好都合。ダメ女神製手榴弾、マルダートを間隔を開けて投げ放ってやった。


 三十秒後。エゲつない爆発が次々と起こっていく。


「絶対、個人で携行する武器じゃないよな」


 一発がRPG−7五発分くらいの威力がある。ドローンにつけて飛ばせば完全にミサイルだよ。いや、ミサイルの威力がどれほどのものか知らんけど。


「山火事になるかな?」


 まあ、二日前に土砂降りの雨が降ったし、大丈夫だろう(結構他人事)。


「今ので五百匹は逝ったな」


 いっきに二百五十万円が入った。まずまずの成果だろう。一匹二匹で一喜一憂していた頃が懐かしいよ。


 水を集めて火が出ているところに向けて放ち、鎮火したら降りてみた。


「……どれが首長かわからんな……」

 

 魔石を、と思ったんだが、爆発が凄かったせいで肉片やら炭化した塊やらでよくわからん。魔石は諦めるしかないか。


 まだ暗くなるまで時間があるので、風前の灯なゴブリンをグロックで撃ち殺していった。


「久しぶりに使うと指が痛いわ」


 百回も引き金を引いてたら指や腕が痛くなってきた。てか、そもそもマルダートで瀕死にしたんだからそのまま死んでも報酬になるじゃねーか。アホ、オレ。


 なんかどっと疲れ、ブラックリンに座りながら缶コーヒーを飲んで一息ついた。


 そろそろ帰ろうとしたとき、首にかけていたプランデットの動体反応音がした。


 すぐにMINIMIを取り寄せ、プランデットをかけた。


 ……かなりの数がいるな……。


 斥候かなにかわからんが、五つの反応が近くにあり、百近い反応が二百メートル後方にあった。


 動体反応からしてゴブリンより大きく、人間より小さい。ドワーフくらいのサイズだった。


 ん? ドワーフ? 


「こちらに戦闘の意思はない! お前たちはマガルスク王国から逃げてきたドワーフか?」


 MINIMIを下ろし、ブラックリンの座席の上に立った。


 しばらく待っていると、泥まみれで髭もじゃな男が出てきた。


「オレはタカト。縁あってあんたらの同胞を仲間にしている集団の長だ。ロズ、ライゴ、マッシュ、ガドー。この名に聞き覚えはあるか?」


 他のドワーフは知りません。ごめんなさい。


「マッシュだと!?」


 お、どうやらマッシュの知り合いのようだ。


「剣を二本持って戦うのを得意としている」


「マッシュだ! おれの兄貴だ!」


 ってことは弟か。まったく弟感はないけど。


「マッシュたちは元気だ。オレの下で不自由なく暮らしている。今はマガルスク王国にいく準備をしている」


 兄の生存を知って泣き崩れる弟。仲のよい兄弟のようだ。


 二リットルの水とディナーロールを大量に取り寄せ、泣き崩れる弟の前に置いた。


「泣くのはあとにして後ろにいる同胞に食わしてやれ。赤ん坊がいるなら乳もある。体力がある者はこれを使え」


 マチェットを十本と斧を五本、取り寄せた。


 他の四人も出てきてマチェットや斧をつかみ、仲間のところに走っていった。


 なかなか荒んだ環境にいたようだ。食料よりまず自分たちを守る武器を手に入れたよ。


 しばらくしてマチェットや斧を持った男たちがやってきた。


「食料を持ってってやれ。水は白いところを捻れば開くから」


 無言で水やディナーロールを抱え、また仲間のところに駆けていった。


「これは、マッシュたちへの義理だ。これ以上の施しはしない。欲しいなら対価をもらう」


 人助けをするほど酔狂ではない。対価を出すなら別だがな。


「東に進めばオレたちが拠点とする砦がある」


 ミロイド砦があるほうを指差した。


「これはオマケだ」


 百円ライターを出し、やり方を見せてマッシュの弟に放り投げた。


「今後どうするか、仲間たちとよく話し合っておけ。働きたいと言うならオレが雇ってやる」


 そう言ってブラックリンに跨がり、ミロイド砦へ帰った。

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