第494話 ミロイド砦支部

 やっと一巡したので少年少女たちに自分でやらせ、職員を稼がせるためにミロイド砦に向かった。


 あ、シエイラは戻したよ。山歩きをする体力も技術もないんでな。代わりと言ってはなんだが、ルスルさんが同行しています。


 マルスの町からミロイド砦までは約半日。二十キロあるかないかだろう。


「前にミロイド砦にきたヤツ、いるっけ?」


「おれとバルサはきました」


 ちなみに答えたのはアザド。バルサとともに元冒険者で四十を過ぎている。ナイダ、ルース、タズの三人は事務として冒険者ギルドに入ったそうだ。


「あー、いたな」


 まだ名前は覚えていなかったが、戦っていたメンバーは忘れてなかったよ。


 あのときからミロイド砦の改修をしているようで、穴が空いていた場所が塞がれていたり、周りが綺麗に整備されていた。


「見張りが立っていますね」


「兵士が駐在するようになったんですかね?」


「領主代理の命令で去年から駐在していますよ」


 あの領主代理は本気になると迅速に動く人だよ。あと、そう言うことは事前に教えて欲しかったです。まあ、見たほうが早いと思ったんだろうがよ。


 砦の門も直っており、冒険者らしき男が立っていた。門番か?


「ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットの者だ。ミロイド砦に入れるかい?」


「ああ。セフティーブレットの者は入れるよう言われているよ。おーい! 隊長きてくれー!」


 隊長? が、ミロイド砦を仕切っているのか?


 やってきたのは四十くらいの男で、まあ、体格はいいかな? って感じだった。カインゼルさんのような凄味はない。


「ああ、あんたか。ミシャード様から命令を受けているよ。ゴブリン狩りにきたのか?」


「はい。今日と明日、お世話になります。あ、これ、皆さんで飲んでください」


 段ボールに入ったワインを取り寄せて隊長さんに渡した。


「悪いな。ここは飲まないとやってられんのでな」


「まあ、なにもないところですからね。酔い潰れないていどに飲んでください。また差し入れしますんで」


 左遷された様子はないみたいだし、隊長さんとは仲良くしていくとしよう。


 見張りにはあとで差し入れするとして、ミロイド砦にいる人を集めてもらって昼を一緒に食うことにした。


 ミロイド砦にいる兵士は五人。臨時に雇った冒険者は十三人。計十七人が駐在しているようだ。


 他に依頼できた冒険者が何組かいて、そう寂れた感じはしない。往来が頻繁にあるってことだろう。


「セフティーブレットからも一人出すか? こちらのほうがゴブリン多いし」


 ざっと察知しただけで三百はいそうな感じだ。


「それなら、おれとバルサで残りますよ。もう歳だからと事務方になりましたが、銃があるならまだ現役でやれます」


「ええ。ミロイド砦周辺ならよくわかっていますからね」


 四十代コンビが声を挙げた。


「でしたら冒険者ギルドも一枚噛ませてください。炭鉱が縮小してきたので冒険者ギルドに流れてきているのです。ここに仕事が増えるならこちらとしても助かります」


 つまり、ミロイド砦を発展させるということか。


 魔王軍の動きやマガルスク王国の動きもある。どうなるかわからないのならミロイド砦を強化しておくほうがいいだろう。


「引退した冒険者を雇うことは可能か? 二人が出るなら留守を守る者や館から荷物を運ぶ者も必要となるからな」


「それなら問題ありません。仕事を探しているヤツはたくさんいます。食事を与えるだけでも集まりますよ」


「それならサイルスさんと相談して、ミロイド砦にセフティーブレットの支部を創るとしよう」


「冒険者ギルドは出張所ですかね。さすがに支部を創るとなると大変ですから」


 細かなことはサイルスさんや冒険者ギルドの話し合いとなるが、セフティーブレットからはアザドとバルサに任せることにする。


「二人に権限を与える。金はシエイラに言って出してもらえ。アザドが支部長でバルサが副支部長だ。給料……を上げるよりゴブリンをたくさん殺させたほうがいいな」


「あはは。そうですね。請負員カードから買ってばかりで金なんて使ってませんからね」


「だな。ゴブリンで稼がせてもらったほうがやる気が出るってものですよ」


 そのやる気を出させるためにも昼飯を済ませたらさっそくゴブリン駆除を開始する。


 職員の指揮はアザドに任せ、オレはルスルさんと北方面に出た。


「オレがゴブリンの動きを止めるのでルスルさんは止めを刺してください」


「なんだか寄生仕事ですね」


 寄生プレーみたいなことあるんだ。


「資金調達ですよ。いろいろ動くとしても先立つものが必要ですからね」


 ルスルさんにいろいろ動いてもらわなくちゃならないんだから、これは寄生仕事ではない。立派な仕事である。


「口が上手いことで」


「ルスルさんには負けますよ」


 越後屋と悪代官みたいなやり取りだが、まあ、間違ってはいないので否定はしないさ。


「二時方向にゴブリンが四匹。距離四十。足を奪います」


 ウォータージェットの射程は約四、五十メートル。確実に殺すなら三十メートルだが、足を奪うくらいなら充分な距離だ。


 足を狙ってウォータージェットを放っていき、ゴブリンの足を奪ってやった。


「止めを!」


 ルスルさんに先にいかせ、援護するようにあとを追った。


 剣を抜いたルスルさんがゴブリンの首に刺していき、止めを刺していった。


 冒険者をやっていただけに殺すことに躊躇はない、か。この時代を生きる人は思い切りがいいよ。


 血を吸い出したら遠くにポイ。さらにマチェットを抜いて脚を切り落としておく。


「念入りですね」


「死体を利用されたくありませんからね。念には念を、です」


 ゾンビになってまた報酬が入るならまだしも、ならないのなら手間でしかない。脚を折る手間くらいなんでもないわ。


「次です。十二時方向。距離は百。三匹。いきます」


 これなら夕方まで百匹はいけそうだ。たくさん稼がせてやるとしようかね!

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