第32話 エルフ

 なんて驚いている場合じゃないな。ゴブリンを駆除せねば。


 距離を三十メートルまで縮め、より多く殺せる位置に移動。P90を構えて引き金を引いた。


 五十発があっと言う間になくなり、木の陰に隠れてマガジン交換。何度もやってるから三秒後には戸惑うゴブリンどもを薙ぎ払ってやる。


 死んだのは二十匹くらい。三十メートル先からじゃそんなもんか。


 P90からベネリM4に換え、四発撃って二発補給。また四発撃って二発補給。ゴブリンどもがパニックを起こしている間に五発補給する。


 構えながら気配を探ると、散り散りに逃げ出していた。


「ったく。逃げ足の速いヤツらだよ」


 まあ、襲いかかってこられても困るけどな。まだ一対一でしか相手できないし。


 ベネリM4からマチェットに換えて瀕死のゴブリンをシメていった。


「やっぱり地道に駆除するほうが稼げるな」


 四十匹以上駆除して出費は一万五千円にも届いてない。労力だってそれほどかかってないしな。


 マチェットについた血を木で拭き取る。


「こいつも取り換え時期だな」


 ここにきたときから使い、ちゃんと砥石を使って手入れしてきたが、さすがに何百匹と斬ってると欠けもする。折れる前に新調しておこう。


 血糊が取れたら鞘に戻し、木の上にいる金髪エルフに目を向けた。


 しかし、美形なエルフだ。体は貧──スレンダーだが。


「大丈夫ですか?」

 

 言葉は通じるはずだ。ラダリオンとも普通に話せたんだからな。


「…………」


 茫然自失で反応がない。まあ、無理もない。オレなら大洪水の山崩れを起こしているだうよ。


「我を取り戻したらさっさと帰ったほうがいいですよ。これはあげますんで」


 近くの木にマチェットを振り下ろした。


「気をつけて」


 別にエルフ萌えではないし、仲良くなりたいとも思わない。そんな甘酸っぱい考えができるほどファンタジーに傾倒してないし。


 その手のアニメや漫画は読むほうだが、オタクになるほど夢中にはなってない。オレはどちらかと言えば日常系が好きだ。


「──待ってくれ!」


 ん? え? 野郎声? はぁ? 男なの?! 女顔じゃん!


 エルフ萌えではないが、なんか騙された気分。そして、前言撤回。エルフに甘酸っぱい考えをしてました!


 木を下りてきた金髪エルフ野郎。身軽だこと。


「た、助かった。感謝する」


「気にしなくていいですよ。オレは孝人。ゴブリン駆除を生業としてます」


 勇者とか望んではいないが、もうちょっと格好いい肩書きは欲しいと思う。でも、ゴブリンなスレイヤーは名乗りたくないです。悲惨な人生になりそうだから……。


「わたしはミシニー。冒険者だ」


 やっぱり冒険者か。顔だけ見れば美女なんだがな……。


「一人ですか?」


「いや、仲間五人できたが、大量のゴブリンに襲われて仲間とははぐれてしまった」


 五人か。先ほどが二、三人の遺体だからもう一人は逃げ切れたのかな?


「先ほど、二、三人がゴブリンに食われているのを見ましたよ」


「……おそらく、仲間だ。タズ、ロイズ、シガ……」


 改めてご冥福をお祈りします。


「一応、土をかけておきました。ほとんど食われて判別もつかなかったので」


「そうか。気遣い、感謝する」


「構いませんよ。ただ土をかけただけですから。それより、場所を変えましょう。またゴブリンが集まってきましたから」


 逃げていったのとは違うゴブリンの群れがこちらに向かってきている。仲間の血を嗅ぎつけたんだろう。


「わ、わかった」


 すぐにマチェットをつかみ、オレのあとに続いてきた。


「ミシニーさんは冒険者歴長いんですか?」


 見た目は二十歳くらいだが、エルフなら百歳とか言われても不思議じゃない。


「ミシニーでいいよ。それに、言葉使いも雑でいいさ。そんな畏まられたら体が痒くなるからな」


 見た目は綺麗でも中身は冒険野郎なんだな。


「じゃあ、そうさせてもらうよ」


 郷に入れば郷に従え。それで関係がスムーズになるなら合わせるまでだ。


「タカトは一人で行動してるのか?」


「今は一人だが、相棒は今ゴブリンを埋めているよ。大量に駆除して死体処理してるのさ」


「しかし、凄い武器を使ってるな。あっと言う間にゴブリンを殺すのだから」


 情報収集かな? 核心をズバリと訊いてくるよ。


「ゴブリン相手ではな。大きいのには力不足だ。それに、弓と同じで礫を放つ。その礫がまた高い。持てる量も限られているから奇襲するか数の少ないのを狙うしかない。正直、剣が使えたら剣で駆除したいよ」


 これは正直な気持ちだ。一日三匹も駆除できたら余裕で暮らしていけるわ。


「オレ単独ではゴブリン一匹を相手にするのが精々だからな、儲けの半分が飛んでもこの武器に頼らないといけないわけさ」


 ミシニーを止め、体を低くさせる。


「ゴブリンの群れがくる。あっちから八匹。そっちからは六匹。背後から十数匹だ」


 確実にオレらに気づいて追ってくる。なんでわかるんだ?


「ミシニー。なんかゴブリンに気づかれるようなもの持っているか? こちらの位置を勘づいてる感じだ」


 オレは持ってない。となればミシニーが持っているってことになる。


「おそらくわたしの血の臭いによってくるんだろう。ゴブリンはエルフの血を好むからな」


 それでいてよくゴブリンが溢れたところにくるな。食ってくださいと言ってるようなもんだろう。


「魔力さえあればゴブリンの百や二百、問題ではないが、運の悪いことにオーグの番に襲われてな、なんとか倒したものの魔力を回復する暇なくゴブリンの群れに襲われた。もう魔矢を撃つことすらできないよ」


 ゴブリン百や二百、問題ないんだ。それでいてオーグとやらを倒すには苦戦するのかよ。怖すぎんだろう。


「だが、剣は振るえるくらいの力はあるから安心してくれ。あ、水をもらえるか?」


 なんか男前。と思いながらペットボトルの蓋を外してミシニーに渡した。


「ふー。生き返る」


「ミシニーはそっちを頼む。オレは背後のを蹴散らしたらあっちのをやる。無理と判断したらまた木に登ってくれて構わない。あと、いきなり前に現れないでくれ。咄嗟に判断できるほど戦い慣れてないんでな」


「わかった。ちゃんと声をかけて近寄るよ」


 そう言って、音を立てずに六匹のほうへと駆けていった。


 さすが冒険者なエルフ。気づかれる前に殺されそうだ。


 まあ、心配してもしょうがない。今はゴブリンの駆除に集中しよう。ベネリM4を構えて背後にいたゴブリンへ向かった。

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