第356話 ミシニー合流

 朝、かどうかはわからないが、ウルトラマリンのエンジン音で目が覚めた。


 腕時計を見れば四時三十二分。結構がっつり眠っちゃったよ。


 焚き火に目を向けたら交代したようで、ミセングさんとマリットさんがいた。ロンダリオさんは戻ってこないのかな?


 尋ねるより早くアルズライズがウルトラマリンから降りたので、魔法瓶から温かいカフェオレをコップに注いで渡してやった。


「まずは腹に入れろ」


 なにか食ってはいただろうが、満腹になるほど食ってはいないはず。寝る前にホームから持ってきたピロシキ(なんで? とか訊かないで)を出した。


 バスケットいっぱいあるので、ミセングさんたちにもお裾分け。まだまだあるから遠慮なく。


「中身が違うんだな」


「八種類くらいあるらしい」


 よくそんなに種類があるのもだと感心するが、ミサロの様子ではまだ小手調べな段階。きっと何十種類と作り出すことだろうよ。カレーパンですら十種類あったからな。


 バスケットの底が見えるくらいピロシキを食って満足し、ワインをいっき飲みして落ち着いたようだ。


「今のところ十八の個体を確認した。その中で群れのボスらしき個体がいた。おれの気配もわかるようで、ずっとこちらを警戒していた」


 まあ、ウルトラマリンで何度も往復している。未知の音に警戒するのも当然だろうよ。


「わかった。警戒しているだけで泳いでこないのならやりようはある。ミリエルたちがきて、こちらに渡したら決行しよう。それまでは休んでろ。オレは一度、地上に戻るから」


 ミセングさんたちにも伝え、ウルトラマリンに乗り込んだ。


 ガソリンはまだ六割は残っている。ミリエルたちを送り届けてから給油すれば問題ないな。


 エンジンをかけ、仮足場に向かった。


 ロースランの気配はまったく感じんが、きっとこちらを睨んでいることだろうよ。


 まあ、感じないのだから今は気にしない。体が濡れないていどにアクセルを吹かして地底湖を横断した。


「LEDランタン、ぶらさげたままだったな」


 電池を交換してまた弱にして照らし、S字フックにかけ直した。


「この水もなんとかしなくちゃな~」


 かなりの水が上から流れてのおり、チートタイムをスタートさせないとオレでは登ることもできないよ。


「うーん。よし。溝を作るか」


 左右に溝を作り、流れを変えたら電ドラも使えるだろうよ。


 チートタイムをスタートさせ、両指からウォータージェットを放ちながら登っていった。


 第一、いや、地上から見たら第三の空間に到着。岩を削って流れを別の穴に移した。


 四十五秒なので、第三から第二の空間まで進み、また別の穴に流れを変えた。


 残り一分四十二秒。第一までいけそうだが、安全を考えて壁に穴を開けてアンカーを打ち込むとしよう。


 ホームに戻りタボール7装備から土方仕様にチェンジ。壁に穴を開けだらアンカーを打ち込み、アイボルトを取りつけていった。


 第二から第三を繋ぐだけで半日かかり、昼を挟んで第二から第一に取りかかった。


 アイボルトにロープを通し、チートタイムは使わず登り下りして強度を確かめていく。


「今日はこのくらいにしておくか」


 ドリルも研がないとならないし、バッテリーも使い切ってしまった。ハイ、今日はあがりまーす。


 ホームに入ろうとしたら請負員──ミシニーの気配がして振り返ったらすぐそこにいた。うおっ、びっくりしたー!


「ち、近づくなら物音立てろよ! 心臓止まるわ!」


 洞窟ではゴブリンだけじゃなく請負員の気配もわからなくなる。魔物じゃなくても驚くわ。


「悪い悪い。ついクセでな」


 それ、殺し屋の習性! まったく、この世界の冒険者はゴルゴさんの後ろを取れそうヤツばかりだよ!


「で、どうしたんだ? マイセンズにきたばかりだろう?」


 アシッカからマイセンズの砦までパイオニアを使えば一時間のもかからない距離だが、砦から南の洞窟、そして、第二空間までくるには半日以上。休む間もなくこなければ到着できないだろうよ。


「まず、わたしが先行して洞窟の様子を見にきた。印があるとは言え、自分の目で見ないと安心できないからな」


 こいつもこいつでソロみたいなもの。自分がやらないと生き残れなかったんだろうよ。


「ミリエルたちは?」


「まだマイセンズの砦だ。明日の朝に南の洞窟にきて、午後から入るそうだ」


 昨日のミーティングに変更なし、か。


「そうか。様子を見たら地上に戻るのか? オレはここからホームに戻って、明日の朝から下りやすいように作業をする」


「んー。わたしは、仲間の下から逃げ出した身でさ、あまり同胞と一緒にいたくないんだよな」

 

 だからコラウスに戻ったりエルフたちから避けてたのか。


「なら、ロンダリオさんたちのところに向かうか? 午後ならオレが地上に戻れると思うしな。ただ、野郎ばかりだぞ」


「構わないよ。ロンダリオたちとは何度か仕事をしたことがある。あいつらは冒険者の中でも最上な部類だ」


 それ以下の冒険者とはつるみたくないってことか。


「じゃあ、ロンダリオさんたちのところに送るよ。下は地底湖だからな」


 仮足場に連れていき、ウルトラマリンに乗せて向こう岸に送った。


 ベースキャンプにはちょうどよくロンダリオさんがいたので、明日、ミリエルたちを連れてくることを伝え、ミシニーをよろしくと頼んだ。

 

「じゃあ、また明日」


 そう告げ、仮足場に戻った。

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