第355話 流れ

 いろいろ話し合っていたら二十時を過ぎてしまった。


「じゃあ、各自安全第一でな。オレは外で寝るから」


 なにが起こるかわからない状況だ。のんびりホームで休んでられないよ。


「あ、タカト。夜食に持ってって。土鍋で炊いた米で握ったおにぎりよ」


 ずっしり重いバスケットを渡された。いや、どんだけ炊いたんだ? 軽く十キロはあるぞ。


「あ、ああ、ありがとな」


 総重量四十キロになったな、と踏ん張りながら外に出た。


 ベースキャンプにはゾラさんとラインサーさんがいて、焚き火の前で休んでいた。


「これ、差し入れです。腹が減ったときにでも食べてください」


 ずっしり重いバスケットをラインサーさんに渡した。


「それはありがたい。男だけだと簡単なもので済ませてしまうからな」


「さっそく食べさせてもらうよ」


 バスケットから重箱を出し、蓋を開けて食べ始めた。


「美味いな! 買ったおにぎりより美味い!」


 おにぎり買って食べてんだ。パンの世界でよく買ったものだ。


「ロンダリオさんたちは?」


「ロンダリオとミセングは洞窟の出口で監視。マリットは穴に罠を仕掛けているよ」


「アルズライズも監視か。湖の上だと冷えるだろうに」


 五百メートル先にアルズライズの気配を感じるが、石になってしまったかのように微動だにしないよ。


「あいつなら問題なかろう。狩りとなれば二日や三日、雪の中で獲物を待つなんてざらだからな」


 どこの伝説のスナイパーだろうか? 狩人、ハンパねーな。


「それと、57と同じ弾を使うP90を二丁、弾を千。フラッシュバン二十個。M32グレネードランチャー二丁に弾を六十発をロンダリオ隊に渡しておきます」


 あー重かった。いや、小分けにして持ってこいよ! とかは聞きません。


「これは、ロースラン対策です。あいつらは攻撃を見て防御しているっぽいので、銃ならそう難しくなく倒せますんで」


 それぞれの戦闘スタイルがあるだろうが、ロンダリオさんたちでもロースランを倒すのは大変だろう。ゴブリンが一万匹いるところで手間取ってはいられないのだからさっさと倒してもらいます。


「わかった。わたしとマリットが使う。で、フラッシュバンとこのなんとかグレネードランチャーはどう使うんだ?」


 魔法使いなのに銃器に興味津々なゾラさん。すべて自分が使うとばかりに使い方を学んでいた。


「使い方は理解した。だが、実際に撃ってみないと、どんなものかは理解できんな」


 もっともではあるが、さすがにここでは使えない。使えるときまでイメージトレーニングしててください。


「アルズライズ、戻ってくる気ないのか?」


 一応、オレもロースラン退治メンバーなんだけど。忘れられてる?


「元々一人で動いていたヤツだからな。集中すると一人でやってしまおうとするんだろう」


 確かに。魔物犇めく世界でソロで冒険者をやろうってのが間違っているよな。オレなんてラダリオンと出会わなければとっくに死んでたよ。


「まあ、一人でやらせておけ。下手に手を出すと自分の流れが狂う。情報を収集したら戻ってくるよ」


 弱いなら徒党を組むの精神でいるオレにはソロの気持ちはわからんが、同じ冒険者たるゾラさんが言っているなら任せておくとしよう。


「オレが見張るんで二人は休んでいいですよ」


「いや、わたしたちに気を使う必要はない。わたしらも長いこと五人でやってきた。わたしらにわたしらの流れがある。一旦狂うと死に一直線だ。タカトはタカトの流れで体調を万全にしておけ。いざと言うとき、頼りになるのはタカトなんだからな」


「……オレがですか?」


 オレのほうこそいざってときに頼りにしてんですけど。


「お前は自分のことを凡人と思っているようだが、周りから見たら英雄そのものだ。少しは自分のやってきたことを自覚しろ」


 オレが英雄? 元工場作業員のオレが? 確かに銃やチートタイムがあるから生き残れているが、英雄とは違うだろう? 人を集めているのだって弱いから群れるを実行しているだけだ。


 それだってオレが死なないための壁となってもらうため。すべて自己都合。利用しているだけだ。とても褒められた行動ではない。


「まっ、タカトはそのままでいい。下手に変わったらタカトのよいところを殺すだけだしな」


 なんと返していいのかわからんが、今さらこの性格が変わるとは思えない。この性格のまま生きていくしかないさ……。


「わかりました。こちらはこの流れでやっていきますよ」


 さすがにホームに帰って眠るわけにもいかないので、断熱マットを敷き、ヒートソードをトライポッド(三脚)に吊るして三百度にした。


 一度つけた装備を外し、対中級魔物として買ったタボール7を体に慣らすとする。


 タボール7はブルパップで、7.62㎜弾を使用するバトルライフルだ。


 今さらながらアサルトライフルとバトルライフルってなにが違うねん? とか言って申し訳ないが、オレの中では5.56㎜弾はアサルトライフル。7.62㎜弾はバトルライフルとしました。


 どうもオレは、SCARや416よりブルパップ式の銃が体にしっくりくる。P90やVHS−2を使っている理由がそれだ。


 ただ、左右利きなオレではあるが、力が出るのは左なので、アサルトライフルは右。バトルライフルとアンチマテリアルライフルは左と決めた。体に覚え込ませるためにな。


 四丁あるVHS−2も二丁は左手仕様にしてるが、主に使っているのは右手用のVHS−2。なので左撃ちはそれほど慣れてないので、ロースラン退治が始まる前に左撃ちに慣れておかなければならないのだ。


 まったく、銃の腕ばかり上がって剣の腕はさっぱりだよ。ここで稼いだら剣の修業もしないとな。

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