第357話 なにかした?

 第二から第一を繋ぎ、地上に出たらミリエルたちがいた。


「待たせたな」


「いえ、そんなに待ってませんよ」


 なんかデートの待ち合わせみたいなやり取りだが、これから硝煙と血が舞う戦場にいくのだ。考えただけで胃が痛くなるよ……。


「よし。では、いくか」


 もう少し地上の空気を吸いたいところだが、一面の銀世界では肺が痛いだけ。まだ地下のほうが……マシでもないな。まったく、オレはなんて地獄にいるんだろうな?


「うっ。臭い」


 洞窟に入ると、ミリエルが手で鼻を塞いだ。マスクをしているのに。


「タカトさん、よく堪えられますね?」


「もう鼻がバカになっているよ」


 臭いのは臭いが、臭い中で過ごしていたら堪えられるくらいには慣れてしまった。人間の順応性は恐ろしいものだよ。


「酷いようなら防毒マスクをしろ。アリサ、お前たちもだ」


 結局、アリサも同行することになり、総勢十二人を連れていくことになった。なかなかの大人数になってしまったが、ベースキャンプを守ったりとしなくちゃならんのだから、このくらいは必要だろうよ。


「ゴブリンはいるんですか?」


「たぶん、いないと思う。東の洞窟に流れているんじゃないかな?」


 電ドラとかハンマーで音を立てている。それに警戒して逃げ出したんだろうよ。


 大空間で十五分ほど休憩したらいっきに仮足場まで下った。


「地下に湖があるって不思議ですね」


「そうだな。明るければさぞかし神秘的だろうよ」


 数百年後には観光地になって、たくさんの人が訪れているかもな。まったく、そんな時代に連れてきて欲しかったよ。


「よし。まずはミリエルと護衛隊を運ぶ。荷物はホームに運ぶから装備は腰回りだけにしろ」


 奴隷傭兵を改め、護衛士(隊)と名を変えた。


 これは、元モリスの民のプライドと誇りを持たせるためであり、ミリエルを命懸けで守らせるためでもある。奴隷根性は百害あって一理なし、だからな。


 ……やっていることはダメ女神と同じだな、とか言わないでね。オレはちゃんと自主性を重んじているんだからさ……。


 六人乗り用のゴムボートをホームから引っ張り出してきて、ウルトラマリンとロープで繋いだ。


「アリサ。往復で三十分はかかる。コーヒーでも飲みながらゆっくり休んでいろ」


「はい。湖に危険な魔物はいないんですよね?」


「ああ。小魚もいないよ。ただ、ロースランはいる。壁を伝わってくるとは思えないが、灯りを絶やさなければ問題ないさ」


 油断しろとは言わないが、そうピリピリする必要もない。コーヒーでも飲みながら周囲を見渡しているくらいで充分だろうよ。


 ウルトラマリンに跨がり、後ろにはミリエルを乗せる。護衛隊も恐る恐るではあるが、ゴムボートに乗り込んだ。


「揺れると思うが、ゆっくり進む。慌ててゴムボートから落ちるなよ」


 そう注意をしてウルトラマリンを発進させた。


 時速十五キロくらいだから渡るのに時間はかかってしまったが、転覆させることもなく無事ベースキャンプに到着。気を使いすぎて疲れたよ。


「ミリエル。あとは任せる。ゆっくり休んでいろ」


 缶コーヒーを飲んで気持ちを落ち着かせたら仮足場に戻った。


「稼いだらジェットスキーをもう一台買おうっと」


 さすがに漁船とか買う気にはなれないが、ジェットスキーならもう一台あったほうがいい。人を運ぶだけで一苦労だわ。


 やっとこさ全員をベースキャンプに運んだら、悪いがオレはホームに戻って休ませてもらった。さすがにもう限界だわ。


 シャワーを浴びてビールを飲んでと、体と心を休ませた。


 気持ちよく目覚めたら体も心も軽くなっており、本気、元気、勇気、根気、そしてやる気の五つ気に満ちていた。オレ、眠っている間にレベルアップでもしたか?


「おはよう。よく眠れた?」


「ああ。おはようさん。これまでにないくらいぐっすり眠れたよ」


 てかオレ、それほどまでに疲れが溜まっていたのか? そんな状態で続けていたら危なかったかもしれんな。


「そう。よかった」


 なにか色っぽい笑みを浮かべるミサロ。お前、なんかした?


 体になにかされた感じはしないし、昨日寝たままだ。もしかして、昨日の食事になにか変なものでも入れたのか?


「さあ、シャワーでも浴びて目を覚ましてきなさい」


 お前はママか。とか心の中で突っ込みながらシャワーを浴びにユニットバスに向かった。 


 熱いお湯で体を完全に目覚めさせ、ミサロが用意してくれた朝飯をしっかりといただいた。


 食べる間、ずっとオレを見ているミサロ。まさか、この料理にもなにか入れているのか!?


 毒ではないだろうが、マムシの粉とかスッポンエキスとか止めてくれよ。オレはこれからロースラン退治をしなくちゃならないんだ。敵に血を流させるのに、こちらが鼻血を吹いたら洒落にならんぞ。


 手を止めることも、疑いを口にすることもできないので、出されたものは残らずいただきました。ゲフ。


 少し食休みしたらタボール7装備に着替えた。


 地上で試し撃ちしてくるのを忘れたが、まあ、アルズライズと二人で挑むのだから銃身が赤くなるまで撃つこともあるまい。


「よし。いってくるよ」


「いってらっしゃい」


 ミサロに見送られて外に出た。


 ─────────────────────


 きっと三人が集まってなにかしたんだよ。

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