第159話 将来への保険

 十一時前に出発し、二十分もしないでミスリムの町へと到着できた。が、オレ、ミスリムの町のこと、大して知らねーや。


「ミシニーはミスリムの町に詳しいか?」


「そこまでは詳しくないが、大きな店なら東通りだな」


 と言うのでミシニーの案内で東通りとやらに向かった。


 確かに大きな店が並んでおり、道幅も五メートルくらいある。王都へと続く道なだけに倉庫も結構あった。


 前にきたときは庶民が住むほうだったからわからなかったが、ミスリムの町って結構デカかったんだな。しかも、店が多い。コラウス辺境伯領ってそんなに商売することがあるのか?


「あれだ。ルライズ商会の支店は」


 倉庫があるだけのところじゃなく、ちゃんと品を売る店もあり、人の往来もあった。


 店の前に停車させると、オレと認識したような四十くらいの男性が店から出てきた。


「タカト様でしょうか?」


「え、あ、はい。タカトです」


「ようこそいらっしゃいました。ミスリムの支店を任せられているロイズと申します。この度はご迷惑かけて申し訳ありませんと主が謝罪しておりました」


 支店長さんってことか。一流どころは報連相がしっかりしてる。


「いえ。お気になさらずとお伝えください。今日は布を買いにきただけですから」


「そうでしたか。それはありがとうございます。どうぞ中へ」


 と誘われて店内へ。第二城壁街の店より広く、種類もたくさんあった。


 なにやらサロン的なところに通されて紅茶を出してくれた。相変わらず美味い紅茶だよ。


「肌着に使えそうな布を銀貨五枚くらいで。あと、糸があったらそれもお願いできますか?」


「はい。すぐに用意致しますね」


 従業員の女性に指示を出し、注文の品を集め始めてくれた。


「ロイズさん。ここでは革製品も扱ってますか?」


「専門ではありませんが、多少は扱ってます。革製品をお求めで?」


「ええ。最近、ゴブリン駆除ギルドを立ち上げまして、その衣服や革ベルトなどを買い揃えようと考えたのですが、衣服や革製品のことはさっぱり。あったらどんなものかと思いまして」


 若い冒険者を請負員として上前をはねる、ってこともあるが、万が一、オレがゴブリン駆除をできなくなったときの保険として、この地にオレの代わりに稼いでくれる者を用意しておく。そのための準備を今からしておきたいのだ。


「タカト様が今着ているようなものですか?」


「え? ああ、そうですね。こんなのがあると助かります」


 見せて欲しいと言うので今着ている服を見せた──ら、針子みたいな女性やマイスターな感じの初老の男性が出てきて丸裸、とまではいかないまでもほとんど脱がされて服を調べ始めた。


「申し訳ありません。タカト様の着ている服があまりにも見事な製糸技術なので気になっていたようです」


 まあ、二十一世紀のもの。ここの人からオーパーツ的に珍しいだろうよ。


「ここまでの高品質を求めてはいませんので、一般的に着られているもので構いませんからね」


 高品質にしたらいくらかかるかわかったもんじゃない。一般人が着る一般的なものにしてくれ、だ。


「急ぎではないのでまずは靴下と下着の試作を作ってもらえませんか? 下着は大中小、腕のあるもの、腕がないもの、下は膝まであるもの、太ももまでのものをお願いします」


 靴下と下着は何枚あっても困らない。ボロになったら銃の掃除にも使える。まあ、パンツを使うのは嫌だけどよ。


「あと、女性用もあるといいかな? ちょっと見本を持ってきますんで」


 席を立ってホームに戻り、ラダリオン用に買い置きしてある新品の下着を持ってきた。ついでにオレ用のも。


「見本として渡しておきます。これには消滅魔法がかけられてるので十五日で消えますが、気にしないでください」


 試作にかかる資金として金貨一枚を出した。


「いえ、お金はいりません。試作を作るくらい大した費用ではありませんから」


 受け取ろうとしないのでロイズさんの言葉に甘えることにした。


「まあ、急ぎと言うわけではありませんので、ゆっくり進めてください」


 請負員を集めるのは冬くらいだろうし、下着なら上下で二百円もかからない。一冬くらいならそう金はかからんさ。


「はい。お任せください。よいものを作らせていただきます」


「よろしくお願いします」


 脱がされた服を着直し、用意してくれた布や糸をホームへと運んだ。


「では、またきます」


 ロイズさんたちに挨拶を済ませ、パイオニアに乗り込んで王都へ続く道を下った。


「どこにいくんだ?」


「ゴブリンの気配を感じたからちょっと小遣い稼ぎだな」


 一キロくらいか? そこに六十匹くらいが固まっている。オレとミシニーなら三十分とかからないだろうよ。


「それはいいな。もちろん、わたしにやらせてくれるんだろう?」


「わかったよ」


 まあ、なにもしなくてもオレに十万円近く入るのだから嫌とは言えない。オレの小遣いのためにがんばってください。


 近くまでいき、パイオニアを停めてミシニーにゴブリンがいる方向を教える。


「オレはここで昼の用意をしておくよ」


「ああ。ちょっと稼いでくる」


 森の中にスッと入っていき、三分もしないでゴブリンの気配が消えていった。


「……恐ろしいヤツだよ……」


 秒単位でゴブリンの気配が消えていってるよ。


 これじゃ十分もしないて駆除してしまいそうなので、さっさと昼飯の用意に取りかかった。

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