第158話 窯

 夕飯を終えたらミーティング──とはならず、飲み会となってしまって流れてしまった。


「……飲みすぎた……」


 ミシニーは当然の如くアルズライズも飲むは飲む。それに乗せられてオレも結構飲んでしまい、角の瓶どころか芋焼酎にも手を出してしまって、途中から記憶がなくなってしまった。


 買い置きしている水を出していっき飲み。喉の乾きが落ち着いてくれた。


「カインゼルさんは帰ったか」


 あの人も結構飲兵衛だが、ちゃんと自分の適量を守るタイプ。途中でドロンしたのだろう。


 ミシニーはテーブルに突っ伏して眠っており、アルズライズは床(地面)に横になって眠っていた。


「……食費どころか酒代も稼がなくちゃならんな……」


 カセットコンロを出してコーヒーを淹れて飲んだ。


 しばらくぼんやりしてるとミシニーとアルズライズも起き出してコーヒーを淹れてやった。アルズライズには砂糖とミルクをたっぷり入れたけど。


「おはようございます」


 三人でぼんやりとしてたらミリエルが起きてきて、腕時計を見たら七時を過ぎていた。


 続いてラダリオンも出てきて、ビシャとメビもやってきた。


 まだぼんやりとしていたいが、そうもいかない。意を決して椅子から立ち上がり、ホームへと戻った。


 まずは熱いシャワーを浴びて意識を覚まし、水を五百ミリリットル飲んで体中に回った酒を中和させた。


 朝飯は面倒だからビジネスホテルの朝食ビュッフェ。床中に現れた料理を玄関へと運んで、ラダリオンとミリエルに外へと出してもらった。


 あれだけ飲んだのにミシニーもアルズライズも爆食いである。羨ましい胃をお持ちだよ……。


「カインゼルさん。申し訳ありませんが、ダインさんとの話し合い、午後からでいいですか?」


 午前中は無理です。許してください。

 

「わかった。あと、天候次第だが、三日後くらいには出発を予定してるそうだ」


「わかりました。では、明日中に用意して明後日にはミスリムの町に移りますか」


「だったら宿を予約しておく。パイオニアはルライズ商会の支店に置かしてもらえるそうだ」


 なんだかんだと話は纏っているようだな。


「ミシニーたち護衛もルライズ商会の支店に集まってるのか?」


「わたしたちはコレールの町で合流だ。ルライズ商会の倉庫があるんでな」


 オレたちに配慮した、ってことかな?


「午後からミスリムの町にいきます。離所のところで落ち合いましょうか。ビシャとメビはまたラザニア村周辺のゴブリン駆除を頼む。ラダリオンは少し足を延ばしてミヨンド村のほうをやってくれ」


「おれもラダリオンに付き合っていいか?」


 と、アルズライズ。今日は仕事ないのか?


「ラダリオンがいいなら構わんよ。どうだ?」


「構わない」


 と言うので二人でがんばってください。


 簡単なミーティングだったが、お互いのスケジュールを理解できたらそれでいい。では、今日も安全第一、ご安心に。


「……いつもあんなことしてるのか?」


 皆が出ていき、コーヒーをお代わりしたらミシニーがそんなことを訊いてきた。あんなことってミーティングのことか?


「まあ、そうだな。なにか変か?」


「いや、信頼された隊はやることもあるが、年齢も性別も種族さえ違うのによく纏まっていると思ってな。長年隊を組んでるようだった」


「纏まってるか。まあ、皆には助けられてるな」

 

 各自、目的はそれぞれだが、皆やる気は持っている。そのお陰で纏まっているんだろうよ。


「……タカトらしいな……」


 フフっと笑うミシニー。なんだい、いったい?


「少し席を外す。適当にやっててくれ。あ、案内してくれた報酬だが、そこの棚から適当に選んでくれ」


 カインゼルさん、食事のときはワインを飲むので棚を置いて、ワインを並べてあるのだ。値段は千円以下のものばっかりだけど。


「飲んで待ってるよ」


「……ほどほどにな」


 そう告げてホームに戻り、冷蔵庫の補充や生活用品の買い足しと、ミリエルに話を聞きながら買い物を済ませた。


「生活していくと荷物も増えていくな」


 中央ルームも二十畳近く広くしたが、物が増えすぎて歩くのも大変になってきた。もう十畳くらい増設しないと荷物で溢れ返るな。


「しょうがない。増設するか」


 今の貯蓄は五百万円ちょい。あると言えばあるし、今のところプラスにはなってるが、護衛の仕事をしたらマイナスになる。不安で増設は躊躇っていたが、さすがに物が増えすぎた。二百万円使って増設するか。


 ミリエル用の風呂場の横に二百万円使って増設。六、七畳くらいしかならないが、そこを倉庫としよう。


 タンスとか衣服類をそこに移し、まだスペースがあるのでビールとかジュースの箱物類も移動させた。


「ふー。動いたらすっかり酒も抜けたな」


 少し休憩してから外に出ると、巨人の奥様連中がきていて、ミシニーも混ざってお茶をしていた。


「タカト。布をたくさんありがとうね。皆喜んでいるよ」


「それはなにより。礼は館で返してくれたらいいさ。大工の親父さんはきてくれるのかい?」


 まだ大工道具は買ってないが、ガズの露店から買った斧やナイフを謝礼にするとは伝えてある。大工道具は成功報酬で構わないだろう。


「ああ。仲間を連れてきてくれるってさ。奥さん連中も連れてくるとか言ってたから秋の中頃には完成するかもしれないね」


 巨人大移動だな。


「悪いが食事とか出してやってくれ。また布とか買ってくるからさ」


「布は本当に助かるよ。巨人はなにかと量を使うからね」


 だろうな。人間の十倍はデカいんだしな。普通に買ったら銀貨十枚くらいはかかるんじゃないか? 毎日同じ服着てるしな。


「あと、パンを焼く窯とかも作ってくれるか? 巨人用で構わないからさ」


「窯かい?」


「ああ。人が増えたら買うのも大変だからな。なら作ろうと思ったんだよ。あと、巨人でパンを焼けるヤツいるかい? と言うか料理人になってくれるヤツがいると助かるんだが」


 巨人が作ってくれるなら人間が増えても手間ではないだろう。鍋一つ作れば何十人分となるんだからな。食費が浮くってものだ。


「それはいいね。村にも窯があるのは助かるし。布を渡せば作ってくれるよ」


 ダインさんと打ち合わせする前にミスリムの町で布を買っておくか。


「そこは任せる。報酬は弾むからいいものを作ってくれと伝えてくれ」


「ああ、任せておきな。立派なものを作らせるよ」


 と言うことで、前倒ししてミスリムの町へと向かうことにした。

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