第157話 食費のために

 コレールの町の手前でミシニーを降ろそうとしたら、ラザニア村へ向かいたいとのことだった。なんで?


「わたしはルライズ商会から依頼を受けているが、護衛は合同になる。話し合いをしておくべきだろう。タカトがなにをしているかさっぱりなんだし」


「オレとしてはミシニーが仕切ってくれると助かるんだがな」


 それならこんな苦労をする必要もない。責任を負うこともない。ミシニーの指示に従ってこき使われるほうが何倍も楽だぜ。


「タカトたちの戦いを理解してないわたしにできるわけないだろう。ルライズ商会からもタカト主体の護衛になると言われてるからな」


「オレのいないところで決められるのかよ」


 上なんて下の事情などお構いなし。つべこべ言わず従え、だもんな~。まあ、跳ね返すことができないのなら素直に従っておくしかないんだけどな。ハァー。


「まあ、破格な報酬を出してくれるそうだし、がんばれ」


 そんな慰め欲しくないよ。オレが求めてるのは安らぎだわ。


 うちに帰る頃には十七時前になっており、カインゼルさんもミスリムの町から帰っていた。


「お疲れ様です。ダインさんと話ができましたか?」


「ああ。ルライズ商会に無理を言われたと肩を落としていたよ。あと、謝罪もしていた」


「仕方がありません。大手には勝てませんしね。カインゼルさん。あとでミーティングしましょう。ミシニー。サウナでも浴びながら待っててくれ。ビシャ、メビ。ミシニーの世話を頼むな」


「「わかった」」


 獣人姉妹も帰っていたのでミシニーを任せ、汚れたパイオニア二号を軽く洗い、ホームへと入れた。


「ただいま、ミリエル。ラダリオンは帰ってるか?」


「お帰りなさい。まだ帰ってませんよ」


 よく働く食いしん坊だ。


 ラダリオンが帰ってくる前にシャワーを浴び、今日を生き延びたご褒美にビールを一缶。ぷはー! 明日もがんばろうと思える美味さである。


 満足したら夕飯を買う。今日は居酒屋から選ぶとするか。


 とある居酒屋チェーン店のメニューを片っ端から買っていき、ハイボール用に角な瓶を三本、炭酸水、氷は冷凍庫からクーラーボックスに移して外に運んだ。


 最近は外の家、ラダリオンの部屋を食堂にしてここで食べるようになってしまった。


 まったく、タブレットも外で使えるようにして欲しいぜ。運ぶのが面倒臭いわ。


「ただいま~」


 ラダリオンが帰ってきた。アルズライズと一緒に。


 請負員としてから何度かくるようになった豪鬼さん。この男、甘いもの好きってより食べることが好きだってことがわかった。


 拠点にしてるのはリハルの町なのに、わざわざ十キロもの道のりをやってくるんだからグルメな鬼である。


「世話になる」


 そう言って銀貨一枚を差し出した。


 自分で買えばいいじゃんと思うが、毎日ゴブリン駆除をできるわけもなく、稼いだ金は菓子の購入に消えるので、節約(?)するためにうちに食いにくるのだ。銀貨一枚払ってな。


「はいよ。酒は飲むかい?」


 受け取りながら尋ねる。


「飲む」


 甘党ではあるが酒も飲むアルズライズ。ワイン、ハイボール、ビールとなんでも飲んだよ。


「まずは体を洗ってきな。ラダリオン。お湯を出してやってくれ」


 うちで飯を食うなら体を綺麗にしてからが決まりだ。冒険者ってのは体を洗うってなかなかしないから臭いんだよ。ミシニーもちょっと臭ってたし。


「わかった」


 アルズライズのことはラダリオンに任せて料理を運んでくる。大食いが多いから外に運ぶだけで一苦労である。


 ミリエルもシャワーを浴びて、料理の運び出しを手伝ってもらい、買ったものをテーブルと予備テーブルに並べ終えた。


「おー! なんだいこれは? 豪華じゃないか!」


 サウナを浴びてきたミシニーがテーブルに並べられた料理に驚いている。


「適当な席に座りな。酒はどうする?」


「飲む」


 愚問だったと、よく冷えたスパークリングワインを持ってきて出してやった。


「先にやってていいぞ」


 皆一斉にいただきますではない。各自勝手に食えがうちのスタイルだ。


「毎日こんな豪華なものを食べてるのか?」


「今のところゴブリン駆除ができてるからな」


 毎日の食費十万円。下手したら十五万円を突破する日もある。毎日食えてるのは皆が努力してくれてるお陰です。


「なあ、タカト。今回のことが終わったらゴブリン狩りに付き合ってくれ。わたしではゴブリンを探すのに時間がかかって上手く狩れないんだよ。タカトがいればすぐ見つけられる。頼まれてくれないか?」


「構わんよ。秋に山に入ってゴブリン駆除をしようと思ってたからな」


 ゴブリン王と言うアクシデントは起きたが、秋の大駆除は計画通りやる。銀印の冒険者がいてくれるなら大歓迎だ。また王が立ったら嫌だしな。


「おれもいいか?」


 と、アルズライズ。もう体を洗ってきたのか?


「こちらは構わないが、金印だと忙しいんじゃないか?」


 金印の冒険者がどんな仕事してるかわからんけど。


「問題ない。リハルの町にはもう一人金印の冒険者がいる」


 そう言えば、金印の冒険者、二人いるんだっけ? アルズライズみたいなバケモノがもう一人いるんだから怖い世界だよ。


「じゃあ、今回の仕事が終われば話し合おう」


 二人からの了承を得られたので、話はそのくらいにして夕飯を始めることにした。

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