第156話 キャンプ地
「凄いな、この馬車は!?」
パイオニアの速さに驚くミシニー。子供のようにはしゃいでいる。
「ゴブリン五百匹分に匹敵するものだからな」
思いの外、ミランド峠へ続く道は硬く踏み固められており、とても走りやすく、四十分くらいでキャンプ地となる場所に到着できた。
「水は川から汲んでくるのか?」
エンジンを止めると微かに川の流れが聞こえてきた。
「ああ。そこから川に下りる。いってみるか?」
「そうだな。少し周辺を見てみるか」
荷台のボックスから据え置きの416Dを取り出し、スタングレネードを二個、チェストリグに取り付けた。
リュックサックを背負ったらミシニーの案内で川に下りてみた。
「ゴブリンがいるな」
オレたちに気がついて隠れたようで、軽い警戒の気配がした。
「お、それはいいな。少し狩るか。どににいる?」
「あそことあそこに六匹。あそこには二匹だな」
「八匹か。今日の酒代にはなるな」
お前は一日二万円分相当の酒を飲むのか? どんだけ丈夫な肝臓を持ってるんだよ? 羨ましいぞ。
音もなく飛び出すと、手のひらに火の玉を作り出して隠れている草むらに放った。
……魔物もエルフも山火事になったらどうしようとか思わないんだろうか……?
ゴブリンを瞬殺できるだけの熱量を放てるとか、魔法っておっかねーな。銃とかが可愛く見えるぜ。
あっと言う間に八匹のゴブリンが駆除されてしまった。ミシニーの強さはわかっていたが、こうして目の前で見せられると仲良くしていこうと強く思わされるよ。
「お見事。もう金印でいいんじゃないか?」
これで銀印とか、金印はどんだけバケモノだって話だよな。そして、勇者はどんだけチートを持たされてんだろうな?
「エルフが金印になったら面倒なだけさ」
なにやら種族問題でもありそうだ。これは流しておいたほうがいいな。炎上案件はゴメンだ。
「今のでゴブリンは逃げてしまったな」
オレらだと逃げたりせず隠れたままなんだが、ゴブリンは魔力を感知できる能力があるんだろうか?
「それは残念だ。もうコレールの町の周辺のは狩り尽くしてしまったからな」
定期的に報酬が入ってきてたが、狩り尽くすほどやってたんかい。ジェノサイドミシニーと呼んでやろうか?
「それは羨ましいな。ラザニア村周辺は駆除しても駆除しても現れるよ」
オレ、なんかゴブリンを引き寄せる臭いでも出してんのかな? それともゴブリンの怨念に取り憑かれてんのか?
「それこそ羨ましいよ。わたしも王との戦いに参加したかった」
ほんと、なんでオレが呼ばれたかわからなくなるよな。現地人をもっと上手に導けばゴブリン駆除できただろうに。ダメ女神に創られたこの世界が不憫でしょうがないよ。一番不憫なのはオレだけど!
「少し周辺を見て回るよ」
ゴブリンの駆除にきたわけじゃない。キャンプ地の下見にきたのだ。明るいうちに回ってしまおう。
キャンプ地に戻り、周辺を探る。
まあ、オレに獣の足跡とか見つけられるわけじゃないが、罠を仕掛けることはできる。
極細ワイヤーを木に絡めていき、キャンプ地の北側(コラウス辺境伯領側)、五メートルほど入ったとこの木に蛍光塗料スプレーをたっぷり噴きかけていった。
「なにをしてるんだ?」
「ロースランへの宣戦布告だな」
まあ、ロースランに伝わるかはわからんが、伝わらないのなら伝わらないで構わない。人間とロースランとの知恵比べだ。
最後に処理肉を五十キロくらいキャンプ地にばら撒いた。
「なんの肉だ?」
「豚や牛を解体したときの肉だな。これだけ撒いてもゴブリン一匹分だ」
コスパ最高である。
「なにをやったのか説明なしか?」
「成功するかわからんしな。内緒だ」
石を集めて作った竈があったので、枯れ枝を集めて火を起こし、処理肉を少し放り込んでやった。
肉が焼ける臭いがしてくる。
「ゴブリンが集まってきたな」
しばらくしてゴブリンがこちらへと向かってくるのがわかった。
「狩るのか?」
「いや、集めるだけだ」
オレには魔物の気配などわからない。だが、ゴブリンだけはわかる。
スケッチブックを出してきて周辺の概略図を描き、五百メートルくらいまで近づいたらペンで点をつけていった。
「……ゴブリンは、ここを避けて向かってるな」
西側、三百メートルくらいのところだ。
そちらを見ると岩場みたいになっていて、ちょうどこちらを見下ろせる位置にあった。
「あそこにいるのか?」
「わからない。だが、あちらからやってくるゴブリンはあそこを避けるようにやってきてるな」
なにかゴブリンが恐れるなにかがいるのは確かだが、ロースランかはわからんし、目撃された数がそこにいるかもわからない。
コラウス辺境伯領は北。川は東。岩場は西。ライダンド伯爵領は西だ。隊商がキャンプ地に入ったら逃げ場は西側だけ。塞がれたら逃げ場なし、だな。
「ゴブリンが増えてきた。戻ろう」
ミシニーが強いとは言え、さすがに二人で相手するのはキツい。ゴブリン駆除はまた今度だ。
パイオニアに乗り込み、コラウス辺境伯領へ戻った。
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