第155話 流れ
「──おじさん!」
うおっ、びっくりしたー! 急に出てくんじゃないよ! オレの心臓はそこまで強くないんだからよ!
「またお前か」
もしかしてオレ、ストーカーされてんの? 怖いわ!
「お恵みをいただくのがわたしのお仕事だから」
たかりを仕事にしてんじゃないよ。大人、子供にどんな教育してんだ! もっと違う仕事を覚えさせろよ!
「ほらよ。神を罵りながらオレに感謝しろ」
銀貨一枚を出して箱に入れてやる。
「ありがとー、おじさん!」
神を罵れや。それだけの報酬を渡してんだからよ。
「タカトは毎回恵みなんて与えてるのか」
「無能な神を罵るためにな」
「変わった趣味を持ってるな」
「趣味ではないが、人を救えない無能な神を罵れるなら銀貨一枚くらい安いものだ」
なにか言いたそうなミシニーに構わず冒険者ギルドへ向かい、また女性職員に確保されてしまった。
……オレ、アホすぎる。なんで忘れてんだよ……!
なにも持ってきてないと言えないので、アポートポーチから徳用チョコを取り寄せてなんとか解放してもらった。
「なにも言うな。言いたいことはわかるから」
なにか言いたそうなミシニーを先に制す。オレのライフはレッドゾーンに突入してんだから止めを刺すようなことは言わないでください……。
「タカト、きたか。ん? どうした?」
「なんでもありません。気にしないでください。情報をください」
反省はあと。今はロースランって魔物の情報だ。そいつが現れる前提でライダンド伯爵領への行程を考えなくちゃならない。己のアホさ加減を恥じるのはあとだ。
「まあいい。ロースランだが、どうも知能が高いようで、討伐に向かった冒険者から逃げ回っているそうだ。なのに、隊商を襲うという厄介なことをしている」
「隊商を護衛する冒険者もいますよね? それでも襲ってくるんですか?」
「ああ。夜中に忍び寄って、暴れている隙に食料を奪っていくそうだ」
全滅させるわけではなく、奪うものを奪ったら逃げてしまうそうだ。
「数は確認できてるんですか?」
「四から五匹。体の大きさから家族で動いているようだ」
連携が取れた魔物ってことか。厄介だな。
「山の中で生きているだけに動きも速い。あと、棍棒を使うそうだ」
体長四メートルくらいあって棍棒を使い、集団で行動する。夜に襲うってことは夜目に優れてるってことか。夜行性ばっかりだな。
「ミランド峠は高い山なんですか?」
「そう高くはないが、谷が多い。登っては下ってが多い。大人だけならそう問題はないが、拐い鳥がいるから気をつけろ」
拐い鳥? 魔物か?
「主に小動物を狙う猛禽だ。羽根は高く売れるから狙う冒険者もいるな」
数百年後、絶滅危惧種になってそうだな。
他にもいろいろ訊いて、重要そうなのはメモしていく。
「峠までは約一日か。どうしてもその前でキャンプする必要があるか」
ギルドマスターの話からしてライダンド伯爵領まで約五十キロ。直線距離は二十キロくらいだが、谷があるせいで倍以上の距離になっているそうだ。
峠の前の山の中でキャンプして、昼間の間に峠を越える。
「谷があるせいで深追いもできないですか」
「デカい図体の割りに動きは速い。蔦を使って谷を越えた報告もある」
空でも飛べなきゃ討伐するのも大変そうだ。
「……狩るつもりか?」
メモ帳を見詰めながら考えてたらギルドマスターからそんなことを言われてしまった。
「狩ります」
「随分とはっきり言うんだな。お前なら無駄な戦いは避けると思ったんだがな」
「避けられる戦いなら避けますよ。けど、これは避けられない戦いでしょう。流れが戦いに向いている感じがしますから」
ダメ女神の呪いか我が身の不運か、ゴブリン以外の魔物に遭遇している率が高い。なら、今回も遭遇するとみていたほうが心に余裕が持てるってものだ。
「そうか。では、討伐依頼を受けておけ。倒せば一体につき銀貨十枚になる。魔石も取れればさらに金になるだろう」
「討伐失敗したときはどうなるんです?」
「違約金が発生するが、それは冒険者ギルドで出しておく。お前にはそれだけの借りがあるからな」
それなら受けておいたほうが得か。
「では、依頼を受けます」
「わかった。こちらで処理しておこう。討伐の証は耳。魔石はライダンド伯爵領で売っても構わないぞ」
「わかりました。情報、ありがとうございました」
アポートポーチからペットボトルのココア飲料を出してギルドマスターに渡した。
「休憩にどうぞ。甘くて美味しいですよ」
「ほぉう。甘いのか。楽しみだ」
と言いながらすぐに開けて飲み出すギルドマスター。堪え性なしか!
聞けることは聞いたので冒険者ギルドをあとにした。
「ミシニー。これから予定はあるか? できればミランド峠まで案内して欲しいんだが」
「馬を使っても一日かがりになるぞ」
「問題ない。少し待っててくれ」
冒険者ギルドの広場へ移動し、ホームへ戻ってパイオニアを外へ出した。
「これは?」
「ゴブリン駆除員が買える魔法の馬車だ」
何度も言うが馬どこよ? とかの突っ込みは受けつけませんのであしからず。
「さあ、乗ってくれ。礼はするから」
「ワイン五本な。三千円のやつ」
「ちゃっかりしやがって。わかった。それで手を打とう」
ミシニーを助手席に乗せ、案内してもらってミランド峠へ向かった。
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