第154話 あ、忘れてた

 ダインさんの用意が整うまでラザニア村周辺のゴブリンを駆除していると、ミシニーが現れた。


「あ、忘れてた、って顔だな」


 あ、ハイ。完全無欠に忘れてました……。


「……申し訳ないです……」


 誠心誠意謝罪させていただきます。


「まあ、いいさ。わたしもいろいろ忙しかったからな。お陰でゴブリン狩りができなかったよ」


「銀印の冒険者は大変だな。一人で動いてるのか?」


 仲間らしき者の姿は見て取れない。一人できた感じだ。


「大きな仕事のときは組んだりはするが、基本、一人だな。わたしは協調性がないもんで」


 まあ、ミシニーの実力なら並みの者ではついてこれないだろうよ。チームはバランス。飛び抜けた者が入ってると和も乱れるものだからな。


「それだけの実力があるなら一人のほうが楽でいいだろうさ」


 実力があるならわざわざチームを組む必要もない。自由気ままにやればいい、だ。


「それはそうなんだが、たまには人恋しくなるものさ。一人は寂しいからな」


 確かに一人は辛いわな。オレもラダリオンと出会わなければ心が病んでいたことだろうよ。


「寂しくなったら酒でも飲みにきたらいいさ。酒飲み仲間は多いほうが楽しいからな」


 カインゼルさんとはたまに飲み交わしてはいるが、野郎同士で飲むのもつまらない。美形のミシニーがいてくれるなら場は華やむってもんだ。あ、別に不埒なことは考えてないんだからね! 純粋に酒を飲み交わすだけだからね!


「まったく、タカトは変わらずだな」


 はん? なんのことだ? 言ってはなんだが、数ヶ月前に一日二日の間柄でなにを変わらぬと言えるんだ? そこまで深い関わりを持ったわけでもないのに。


「それで、仕事のついでに寄ったのか?」


 まさか暇だからきましたってわけでもあるまいて。


「いや、顔合わせだな。タカトたち、ライダンド伯爵領にいくんだろう?」


「え? あ、ああ。そうだが、なんでミシニーが?」


 ダインさんの拠点はミスリムの町でミシニーはコレールの町だ。噂が届くものなのか?


「わたしもルライズ商会の護衛としてライダンド伯爵領にいくからさ」


 ん? どーゆーこと? 意味がわからんのだが?


「ルライズ商会が行商人のダインとライダンド伯爵領にいくこととなったんだよ」


 ゴブリン駆除を止め、カインゼルさんのところに向かった。


「いや、そんな話は聞いてないぞ」


 カインゼルさんに話したらそんな答えが返ってきた。


「おそらく便乗したのだろう。ルライズ商会と言えばコラウス辺境伯領でも大手だ。そんなところから頼まれたらダインに断る術はない。やんわりと飲ませられたんだろうな」


 しょうがないと言えばしょうがないことだが、随分とナメたことしてくれる。こちらの意見は無視かよ。


「そう不快になるな。ルライズ商会のやり方は褒められたことではないが、こちらも損はない。ルライズ商会はライダンド伯爵領にも支店を出している。こんなことしたんだから後ろ盾になってくれるだろう」


「ルライズ商会の当主もそう言っていたよ」


 ハァー。外堀りは埋められてる感じか。なら、反発するだけ無駄だな。だったら思う存分後ろ盾になってもらおうじゃないか。


「カインゼルさん。ダインさんに話を聞きにいってもらえますか? オレはギルドマスターのところにいってきますんで」


 早目に打ち合わせをしておく必要があるし、ルライズ商会が加わると言うなら用意も変わってくる。まったく、予定通りにいかないものである。


「悪いな、ミシニー。これから街にいくんでまたな」


 ラダリオンたちもゴブリン駆除をやってるが、個々で駆使しており、各自の判断に任せている。五時になったら勝手に終了して帰ってくれるさ。


「わたしもいくよ」


 と、ミシニーがついてきた。


「暇なのか?」


「久しぶりに会ったのにつれないな~」


「恋人同士でもあるまいに。つれるもつれまいもないだろう」


 なに彼女みたいなこと言ってるんだか。お互い時間が合うときに会えばいいだろうに。


 パイオニアを使う距離でもないし、装備を換えるのも面倒なので駆除スタイルのまま街へと向かった。


「聞いたぞ。ゴブリン王をまた倒したようだな」


「倒したのはギルドマスターでオレじゃないよ。って、その話、広まっているのか?」


「広まらないわけはないだろう。ゴブリン王だぞ。街の存続が危ぶまれる。情報を集めるのは当然だ」


「……もしかして、オレのこと広まってたりする?」


「どれだけの人が関わっていると思う? 城でのこと、ゴブリン王との戦い、人の数だけ口はあるものさ」


 なんだよ、人の口に戸は立てられないみたいなのは? 


「まさか、第二城壁街にも?」


「第二城壁街だからこそ、城での出来事を隠すなんて不可能だ。知らない者を捜すほうが大変だろうよ」


 だからか。だからあの店主はオレを歓迎して、試すようなことしてたのか。


「ルライズ商会って、布を扱っている商会か?」


「ああ。コラウス辺境伯領で一手に扱っている店だな。ちなみに商人ギルドの重役でもある」


 怖っ! 商人怖っ! あのときに今回のことを考えて、僅か数日で整えたのかよ! 優秀すぎんだろう!


「そちらの護衛は何人だ?」


 恐れていても仕方がない。現状を把握して不利にならないように動けだ。 


「わたしと鉄印の冒険者が八人。護衛経験のある冒険者だ」


「それは、多いのか? 少ないのか?」


「馬車は八から九台だから、まあ、少ないな」


「その少ない分を埋めるのがミシニーか」


 短時間でゴブリンを百匹近く狩る銀印の冒険者。穴埋めして山盛りになるくらいの存在だろうよ。


「おそらく、タカトも数に入ってると思うぞ。ゴブリン殺し」


 こうやって実力以上の仕事をさせられて、五年もしないで死んでいくんだろうな。ハァー。


 これは、なにか対策を考えんといかんな~。

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