第160話 失敗できない仕事がある
「うん。稼げた稼げた」
予想どおり、十分もしないでミシニーが戻ってきた。
「何匹いた?」
「んーよくは数えてなかったが、五十匹以上はいたかな?」
まあ、ほとんど駆除した感じか。ここから三キロも離れてない場所で二千匹近く駆除したってのに、半月もしないでまたこれだけ集まるとはな。ここはゴブリンにしたら住みやすい地なのか?
「そうか。しばらくは酒に困らないな」
「ああ。ワインだけじゃなく芋焼酎も飲めるよ」
ウイスキーは好みじゃなかったが、芋焼酎は好みだったようで、割りもせずストレートで飲んでいたっけ。
昼飯を食い、少し休んでからギルド離所へと向かった。
離所まできたらパイオニア一号が停まっていたが、カインゼルさんの姿はなし。町中に気配があるから昼を食いにいったのかな?
しばらく待っていると、カインゼルさんとダインさんがやってきた。
「一緒でしたか」
「ああ。護衛も兼ねてな」
護衛? なんか厄介なことに巻き込まれてるのか?
「大手のルライズ商会と繋がりがあると、周りからのやっかみを受けますもので、カインゼル様に護衛をお願いしました」
「そう言うことがあるんですか。商人と言うのも大変なんですね」
異世界も世知辛いところである。オレも気をつけようっと。
「ええ、まあ。ですが、それも乗り越えなければ商人として失格。商人として成功したいのなら乗り越えろ、です」
野望に溢れて羨ましい。オレも生きる野望を強く持って生きていかなくちゃな。
「どこで打ち合わせしましょうか?」
行商人って移動販売業ってことだよな? それだと馬車が家であり店になるのか?
「住み家としている宿でしましょう。行商人が集まる宿なので商談部屋もあるんです」
へー。そういう宿があるんだ。いっせかーい。
パイオニアの武器はホームに戻し、P90をリュックサックに入れて宿に案内してもらった。
宿は町の西側にあり、住宅や工房が入り乱れる地区とのことだった。
行商人が集まる宿と言うだけに馬車が何台も停めてあり、なかなか牧場のような臭いに満ちていた。くっさ!
宿の商談部屋へ入ると、四人用のテーブルと背もたれのない椅子があるだけ。ここでなにを商談しようってんだろうな?
「狭いところですみません。行商人は店を持ちませんので」
「思っている以上に行商人とは大変な商売なんですね」
「なに、わたしはまだマシなほうですよ。領内を回るだけですから。領外へ出る行商は命懸けです」
「命を懸けるだけの儲けがあると?」
「はい。領内であるていど儲けたら領外に。さらに稼げたら町商人に。第二城壁街に店を出せたら商人として成功です」
なんとも茨の道を歩むこと。オレなら初期段階で挫けてるわ。いや、目指そうともしないな。第一進路、工場だったし。
「まずはタカトさんに相談もなくルライズ商会との合同になってしまったこと、謝罪します」
「気にしなくていいですよ。それはオレの失敗みたいなものですから。ダインさんは自分の儲けを優先してください。そのうちダインさんに仕事の依頼をすると思うので。お互い、儲けられる仲でいきましょうよ」
ゴブリン駆除ギルドの備品集めとかダインさんにお願いするかもしれない。このくらいで不要なしこりを残したくないよ。
「まずはライダンド伯爵領までの行程計画とルライズ商会との取り決めなんかを教えてください」
カインゼルさんから大体のことは聞いてるが、ダインさんからも聞いておく必要があるし、自分でも理解しておかなくちゃならないからな。
スケッチブックとノートを出して、ダインさんの言葉をメモしていく。
まあ、この時代では細かいスケジュールなんかはなく、何時出発の隊列はこう。キャンプ地で一泊したのちライダンド伯爵領の領都までいく、って感じである。
隊の代表はダインさん。護衛の代表はオレ。ルライズ商会との話はミシニーがする、ってことだ。
「じゃあ、隊例の先頭はパイオニア一号、カインゼルさんとラダリオン。最後尾はパイオニア二号で、オレ、ビシャ、メビでやります。ミシニーたちは隊列の中間を頼む」
スケッチブックに隊列を描き、それぞれの配置を決めた。
ミランド峠まではそんなに危険な魔物はいないそうなので各自に警戒する。なにかあれば大声で知らせることにした。
「昨日、峠までいってロースランが隠れていそうなところを確認してきました」
峠の概略図を見せ、西側の岩場に隠れているかもしれないないことを伝えた。
「襲撃してきたらオレたちが対応します。ダインさんたちは一ヶ所に集まって、終わるまで身を潜めてください。冒険者たちに護衛させますから」
ロースランが襲ってきた場合、襲ってこなかった場合、予想外のことが起こった場合、誰かが怪我した場合、雨が降った場合と、考えられる事態を語り、対処法を教えた。
「……随分と細かく考えましたね……」
「これでも雑なほうです。オレは護衛した経験がありませんからね。もっと経験豊富な方に不備がないか教えてもらいたいくらいですよ」
素人が考えた護衛計画。不備がないか考えても考えが尽きない。不安で仕方がないよ。
「なにか疑問があれば遠慮なく言ってください。無事、ライダンド伯爵領にいきたいので」
不備はできるだけ潰しておきたい。失敗できない仕事がここにあるのだからな。
「カインゼルさんもミシニーも遠慮なく言ってください」
二人にもお願いして不備を潰していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます