第322話 ギルドマスター

「服屋?」


 冒険者ギルドを出て商業区に向かっていると、大量の服が店先に吊るされていた。


 気になって立ち止まり、店を見たら店先だけではなく、店の中も服で占められている。どんだけあんだよ! って突っ込みたくなるくらいだ。


「布を買うより服を買ったほうが早いか?」


 一から作るのも大変だろうし、今はそんな余裕もないはず。エルフも継ぎ接ぎだらけの服を着ていた。食料も大切だが、着るものも大切。衣食住知りて?足りて? なんかそんなことわざがあったはず。


 ま、まあ、どんな意味だったかは忘れたが、足りてりゃ不満は出ないはず。アシッカが落ち着いてくれるならオレの苦労も減る、はずだ。


 店先に吊るされた服を眺める。


 それは新品ではなく、中古服のようで、どれもくたびれたものだった。


 値札は貼られてはいない。要相談か? 均一セールか? なんだ?


「いらっしゃい。なにをお探しだい?」


 店先で首を傾げていたら中から四十歳くらいの女性が出てきた。店主かな?


「なに、と言うか、金貨一枚でどのくらいの数が買えますかね?」


 冷やかしと思われたら困るので金貨を出して店主(仮)さんに見せた。


「卸業者かい?」


「まあ、似たようなものです。結構な数が欲しいので」


 エルフだけでも二百人くらいいる。町のことまで考えたらこの店のを買い占めないとダメだろうよ。


「ま、まあ、物にはよるけど、大体百五十着かね? 本当に買うならオマケはするよ」


「じゃあ、買います」


 オレの即決買いにびっくりする店主(仮)さんだが、上客と判断したんだろう。満面の笑みを見せた。


「主に大人が着るものをお願いします。あ、ボロ布もあったらいただけますか? 剣を拭くのに使いたいので」


 金貨を店主(仮)さんに渡した。


「物はあたしが選んでいいのかい?」


「男のオレが選ぶよりはマシでしょう」


 なにがいいかなんてオレにはさっぱり。なら、本職に選んでもらったほうが確かだろうよ。


「どうやって運ぶんだい? 馬車かい?」


「いえ、魔法で運びます。人に見られると騒ぎになるので店の中で使わせてもらいます」


 はぁ? と言う顔の店主(仮)さん。まあまあと服を選んでもらい、オレとラダリオンでホームに運んだ。


 一時間ほどで金貨一枚分の服とボロ布を運び終えた。


 何着になったかわからんが、店の中がかなり広くなった。金貨一枚はこれだけの価値があるんだな~。


「……今日は店仕舞いだね……」


 店主(仮)さんも乾いた笑みを浮かべている。まあ、金貨一枚分買われたらそうなるわな。


 心のケアは自分でなんとかしてと、そそくさと店をあとにした。


「ラダリオン。人目のないところでホームに入るぞ」


 さすがにあれだけの数をミサロ一人に片付けさせるのは酷だ。


「タカトさん。これ、一度洗濯したほうがいいですね」


 昼になってミリエルもやってきて、手伝いをお願いしたらそんなこと言われた。


「もしかしてこれ、汚れてこの色なのか?」


「何度か洗っているみたいですが、汗の染みとか混じってますね。洗ったほうがよいかと思います」


 変な草のような臭いがするな~と思ったら臭い消しのためか? なんかそんなこと言われたら汚いものに見えてきたよ……。


「安い洗濯機買うか」


 一台は女風呂に移して、女子組で交代でやっている。


 オレもと思うが、ミリエルが恥ずかしいからと排除されました。まだ、一緒に洗わないで! とか言われないだけマシだろうよ。


「なら、館にも一台買って欲しい。女性陣から要望があるのよ」


「そうか。わかった。それなら発電機も買わないとダメだな」


 灯り取りように発電機を使っているが、洗濯機を動かすための発電機、あ、貯水タンクも買わないとダメか。となればポンプも必要だな。


 発電機と洗濯機はミサロが使える。ポンプもそう難しくない。貯水タンクは巨人に設置してもらえばいいか。


 スケッチブックに設置図を描き、ミサロに渡して職員らと相談してもらう。


 とりあえず洗濯機を二台買い、一台をガレージに設置。水道や電気を増設して排水は異空間へ。ほんと、どこに流れてんだろうな?


「ハァー。帰りにまたゴブリンを駆除しないとな」


 なんだかんだと八十万円が消えた。帰りにまた三百匹くらい駆除しないといかんな~。


「タカト。十五時になるよ」


 洗濯をしてたらラダリオンに声をかけられた。


「もうそんな時間か。あー市場にいけなかったな~」


 思いの外、洗濯に時間を取られたよ。


「何着洗えた?」


「今のところ四十着くらいかしらね。もうガレージに干せないわよ」


 こんなことなら乾燥機も買えばよかったよ。魔法で水分をスティールできるとやってたが、オレの魔力では二十着が精々だぜ。


「じゃあ、また夜にやるか」


 疲労と魔力回復のために一時間くらい休み、十六時になったら外に出た。


 冒険者ギルドに向かい、買取り所へ入ると、なにか空気がピリピリしている。なんだ? なんか凶悪な魔物でも出たか?


 買取りしたカウンターのところにいこうとしたら初老の男性が横からやってきた。


 よくわからないうちに腰のグロック19を抜いていた。な、なんだ?! オレはなにしてんだ??


「すまない。こちらに危害を加える気はない。武器を下げてくれ」


 コートの下でのことなのに、初老の男性はグロックを抜いたことに気づいている。何者だ、この人は?


「わたしは、マレフェルト。冒険者ギルドのマスターだ」


 咄嗟なことでわからなかったが、この人、魔力が凄まじすぎる。サイルスさんやミリエルなんて比べ物にならないくらいだ……。


 魔力は感じれてもそれほど脅威とは感じなかったのに、この人から感じる魔力は脅威でしかない。チートタイムを発動させないとまず勝てないぞ……。


「……なに用で……?」


 ギルドマスターとは言え、気を許せる存在ではない。警戒しながら尋ねた。


「さすが山黒を倒しただけはある。わたしの魔力がわかるか」


 わからないほうがどうかしているレベルだぞ。なんで周りは平然としていられるのかがわからんよ。


「もう一度言う。こちらは危害を加える気はない。山黒のことを聞きたいだけだ。山黒がいるとなるとミヤマランの危機だからな」


 あ、準災害級魔物でしたね。あまりのことに脳が拒否してたよ。


「わかりました」


 グロックをホルスターに戻し、ラダリオンにも布を巻いたベネリM4を下ろさせた。


「こちらに」


 頷き一つしてギルドマスターのあとに続いた。


 ───────────────


 タカトは毒。微弱で甘い毒。周りを、人を、ゆっくりと侵食していき、やがでタカトが生き残れる環境を作り出す。気がついたときにはもうタカトを排除することはできなくなっている。

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