第321話 買取り所
少し遅めにヘテアの宿を発った。
時刻は九時になりそうだが、冒険者が結構見て取れた。
朝早くから仕事しないといけないイメージだったが、ミヤマランでは違うんだろうか? てか、仕事があるんだろうか? コラウスは冬になると出稼ぎに出るのに。
「冒険者ギルドの場所はわかるの?」
「ああ。昨日の夜にサーチアイで探しておいた」
ちょうど道側の部屋で戸が明けられたので、ホットワインを飲みながら探索したのだ。そしたらヘテアの宿から二百メートルも離れてなかったよ。
ゆっくり歩いてもすぐに冒険者ギルドに到着。武装していない若い冒険者が建物に出入りしていた。
大きい都だから中での仕事が多いのかな?
建物はコラウスより大きく、四階建てで右側には倉庫のようなものがあり、左側は広場となっていた。
中に入ると、繁盛しているようで役所のような賑わいだ。いや、役所いったのそんなにないけどさ。
字が読めないので適当にカウンターの列に並んだ。
「コラウス辺境伯領の冒険者、タカトです。報告と買取りをお願いします」
鉄札と銀符をカウンターに置いた。
「銀印の冒険者タカト様ですね。こちらに名前をお書きください」
違う土地の冒険者ギルドにいったら署名するというので、こちらの文字で名前を書けるようにはしました。タカト、ラダリオンっと。
「はい。ミヤマランでの活躍を願っております。買取り所は隣の建物になります」
なんともお役所仕事っぽいが、下手に絡まれるよりはマシと、隣の建物に向かった。
「倉庫かと思ったら買取り所だったんだな」
ちょうど荷車に猪を何匹か積んだ冒険者チームが買取り所に入っていくところだった。
そのあとに続き、チームリーダーらしき男が仲間と別れて建物に入ったので、ストーカーのようについていった。
こちらはそれほど混んでないが、獣を解体したときのような臭いがする。そりゃ、分けるはずだ。
「隣で買取りはこちらと聞いてきたのですが、魔石もこちらでいいんですか?」
初老の男性のところが空いてたので、そこで尋ねてみた。
「ああ、ここでいいよ。他からきた冒険者かい?」
「はい。コラウス辺境伯領からきました」
鉄札と銀印を見せた。
「また遠くからきたものだ」
「コラウス辺境伯領からくる冒険者はいるんですか?」
「たまにいるよ。あちらは冬になると魔物が出ないようだな」
「そうですね。特に今年は雪が積もって仕事もありません」
魔王軍が攻めてきたとは言わない。面倒なことになりそうなんでな。
「そうみたいだな。山も凄い雪でどの道も通行止めさ。で、どんな魔石だい?」
これですと、山黒から取り出した魔石をカウンターに置いた。
「……こ、これは、山黒の魔石か……!?」
あれ? これはもしかしてこんな場所にこんなものがいるわけない系か?
「はい。山脈を越えたら襲ってきたので倒しました。こちらにも山黒っているんですね」
「……倒したって、山黒は準災害級の魔物だぞ……」
準災害って初耳なんですけど! オレ、よく死ななかったな! 生き残れた奇跡に感謝だよ!
「まあ、そこは奥の手を使いました。なにかは教えられませんがね」
チートタイムはオレの奥の手。間違ったことは言ってないし、教えられないのも事実。なに一つ間違ったことは言ってない。
「そうか。少し待ってくれ。物が物だけにすぐには判断できん」
なにやら羊皮紙二枚になにかを書くと、二枚に名前を署名しろとのこと。サラサラサっと。
「これはなくすな。魔石を預かった証明になるから。夕方にまたきてくれ。金は用意しておく」
そう言うとカウンターの下から厳重そうな箱を出し、その中に魔石を入れたらどこかへいってしまった。
「……予定通りにとはいかんな……」
金をもらったら伯爵が世話になった商人のところへいこうと思ってたのに。できなかったときのプランなど考えてなかったよ。
「どうしようか?」
「市場で買い物したら? これだけ大きいならいろいろ売ってるじゃない?」
お、それはナイスな提案。冬とは言え、穀物類や根菜類は売っているはず。少量でもアシッカには貴重だろうよ。
「ラダリオン。金、いくら持ってる?」
念のためこちらの金は持っておけとは言ってあるが、いくらとは指定してない。ちなみにオレは金貨一枚、銀貨五枚、銅貨は……わからん。
「金貨一枚」
あーラダリオンのことだからたくさんは邪魔だから金貨一枚にしたんだろうな~。
「ここで両替できないか訊いてみるか」
さすがに市場で金貨を出されても嫌がらせでしかない。せめて銀貨にしないと使えんだろう。
あ、すみませ~ん。両替できます? って訊いたら無理だった。それは両替商の領分だってさ。
「あ、そうだ。食料だけじゃなく布も頼まれてたんだったな」
食料ばかりに頭がいっていて、布も欲しいとか言われてたんだったよ。
「大きい店なら金貨でも買い物できるな」
冒険者が入れるかはわからんが、そんときはそんとき。試してゴー! だ。
ラダリオンには銀貨五枚を渡し、金貨をもらった。
「ラダリオンはなにか欲しいものあるか?」
「焼き芋」
「うん。それはオヤツに買ってやるよ」
ラダリオンに訊いたオレが間違っていました。ごめんなさい。
とりあえず、買取り所を出て商業区に向かった。
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