第323話 地図

 人生二度目のギルドマスターの執務室。儲かっているようでコラウスの冒険者ギルドより豪華であった。


 席を勧められ、座るとすぐ秘書さんらしき女性がお茶を出してくれた。この辺もコラウスより上である。オレもゴブリンギルドに来客があったらお茶と菓子を出すよう言っておこうっと。


「さっそくだが、山黒を倒したのは本当か?」


「頭を鉄の弾で撃ち抜き、そこから血を吸い出して倒しました」


 倒しましたと言っても納得できないだろうから、倒し方を教えた。


「……先ほど手にした武器でか……?」


「これは護身用。山黒を倒したのは十倍の威力のあるものです」


 ラダリオンが持つベネリM4に目を向けた。


「それはゴブリン用です。オレたちはコラウス辺境伯の冒険者ではありますが、それは便宜上で、本職はゴブリン駆除。ゴブリンを駆除して金を稼いでいます」


「……ゴ、ゴブリンを……?」


「ゴブリンに身内を殺された大魔法使いが結成させた組織。オレはこの国の代表。まあ、ギルドマスターです」


 と言っても理解されないだろうが、ギルドマスターは必死に頭を回転さているよ。


「まあ、理解できないのも当然。コラウスでも理解されるまで時間がかかりましたからね。ゴブリンを狩って金になるのか? とね」


「……正直、理解しかねる。だが、タカト殿がウソを言っているとも思えない。まずは信じよう」


「話が通じる人で助かります。こちらも長々と説明している時間が惜しいのでね」


「それはこちらも同じだ。こちらも時間が惜しい」


 出されたお茶に手を伸ばした。一旦、冷静になるためにな。


「本題に入るが、山黒をどこで倒した? 他にいたか?」


「オレたちはアシッカ方面からきて、雪が残るところで襲われました。おそらくですが、街道沿いだとは思います。数は一匹。他はわかりません」


「アシッカ? あちらからきたのか?」


「はい。今、アシッカ伯爵のご協力を得て、近くの森に巣食うゴブリンを駆除しようと動いています。ですが、数千ものゴブリンに襲われ食料に貧しています。それを解決するべくオレたちが」


「ゴブリンが数千? いったいアシッカはどうなっているのだ?」


「アシッカを囲んでいたゴブリンは殲滅。今は復興に力を注いでいます。気になるようでしたら雪が解けてからいってみてください」


「そうだな。まずは山黒だ。地図を」


 秘書にそう言うと、テーブルいっぱいの地図を出してきた。なかなか精巧な地図やんけ。ちょっとカメラに収めさせてくんないかな?


「オレに見せたりしてよいので?」


「見せてよいものだ」


 つまり、見せてはダメなものもあるわけか。


「アシッカがここ。間にエントラント山脈。ミヤマラン公爵領はここ。街道はこの道だ」


 方位は書いてないが、アシッカは北。ミヤマランは南だ。東に海があることからしてここからでも海にはいけるわけだ。


 尺度があっているかはわからないが、アシッカの距離と海の距離は同じくらい。四、五十キロ、って感じだな。


「山黒は山脈を越えてから。半日ほど下ったところ。おそらくこの辺りだと思います。ちなみに、ここら辺でゴブリン三百匹を駆除しました」


「三百もいるのか」


「ゴブリン一匹見たら十匹はいると思ってください」


 Gのような繁殖力としぶとさ。この星に有益な命ならまだ救いようがあるんだがな。


「……そうか……」


 なにか懸念があるようだ。やはり、番となっている恐れがあるのか、な?


「案内を頼んでも?」


「申し訳ありません。オレにはオレの仕事があるので案内はできません。ミヤマランにいるのも三日か四日くらいなので」


 いきなり予定がズレている。山黒調査になんか付き合えないよ。


「そうか。それは残念だ」


 人材は揃っているのか、あっさりと断念する。ミヤマランにも金印の冒険者がいるってことか?


「これは魔石の代金だ」


 と、秘書さんから革袋を受け取り、オレに渡してくれた。


 中身を確認すると金貨が入っていた。


「山黒の魔石、こんなに高額だったんですね」


 そう言えばまだ二個あったっけ。あれも買い取ってくれるかな?


「紫の魔石は国が、正しくは軍が買い取ってくれる。山黒は脅威ではあるが、出たのなら冒険者を集めて狩っても損はない」


 じゃあ、コラウスに現れた山黒の魔石も軍に流れたってことか? まあ、命が惜しいしな。そういう闇には触れないでおこう。


「金貨三十五枚。申し訳ないが、ギルドで出せる限界だ」


「そうですか。では、これで了承します」


 承諾のサインを求められ、羊皮紙に名前を書いた。


「これで終わりですか?」


「ああ。協力に感謝する」


 席を立ち、一礼して執務室をあとにした。


 秘書さんに見送られて冒険者ギルドを出たらすっかり暗くなっていた。


「魔法の灯りか?」


 昼間は気がつかなかったが、街灯のようなものが立っており、柔らかい光を放っていた。


「都会なんだな」


 コラウスにはなかったから、ミヤマランは発展しているってことだろうよ。


「今日もヘテアの宿にするか」


 今から他の宿を探すのも面倒だし、一度泊まったところのほうがいきやすいしな。


「今日の夕飯はなにかな?」


「スイートポテト」


「それはデザートだろう。てか、昼の甘い匂いはそれか」


 なんか甘い匂いするな~とは思ってたが、一緒に洗濯してたのによく作ってたな。ミサロ、分身でもできるのか?


「じゃがバターでビールといきたいな~」 


「あたしはじゃがマヨ明太子がいい。そこにちょっとの醤油は最高」


「いつの間にそんな食い方を発明してんだよ」


 てか、ホームの食卓でじゃがいもを蒸したの出たっけか?


「館で一大ブーム」


 オレがいない間に蒸しじゃがいもが流行っているようだ……。

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