第324話 ノーマン・コラトラ
今日はどこにも寄らずまっすぐ商業区へ向かった。
大きな街の朝など知らなかったが、なかなか賑わっており、道には屋台が出ており、通勤(?)する人々が朝食として食べたり包んでもらったりしていた。
「まあまあの匂いがする」
ラダリオンが匂い嗅いでは屋台の評価をしていく。
暴食が治ったら治ったでいっぱい食べれないと嘆くラダリオン。食いしん坊とは業が深いもんだ。
商業区はミヤマランの東側。オレたちが最初に入ったところは北門で、農業区と分類されているそうで、下町扱いされているそうだ。
ここにも階級があり、農業区に住む者は三級市民。冒険者も三級市民が多いので農業区にあるそうだ。ってことをヘテアの宿に泊まった鉄印の冒険者チームに酒を奢って聞き出しました。
ミヤマランが大きくても大通りを歩けば商業区まで約二十分。二キロはない感じだな。
城から続く大きな通りを曲がり、東門を目指す。
伯爵が世話になった商人は、この大通り沿いに店を構え、アシッカから農産物を運んで大きくなった中規模ていどの商会だそうだ。
去年はゴブリンの襲撃がなかったから運び込めたが、今年は無理だろうな~。代替え商品や買取り先はあるんだろうか?
なんてことを考えてたら目的のコラトラ商会に到着した。
店先でなにか農産物を売っている様子はないが、店構えは立派だ。店の奥に倉庫が見え、馬車を止める場所もあった。
……冬は閑散期になるのかな……?
「一応、店はやっているみたいだな」
さすがに暖簾がかかっているわけではないが、店の扉は開いており、中に人が見えた。
「失礼。ここはコラトラ商会でしょうか?」
扉から中にいた若い男に声をかけた。
「はい。コラトラ商会です。ご用でしょうか?」
「アシッカ伯爵の使いとしてやって参りました。これをノーマン・コラトラ様にお渡し願います」
伯爵に書いてもらった手紙を若い男に渡した。
「はい。すぐに。こちらでお待ちください」
店に入れてもらい、椅子を勧められて座って待つことにした。
十分くらい待つと、奥から五十手前くらいの小太りの男性が出てきた。
「お初にお目にかかります。コラトラ商会の主、ノーマンと申します」
なんとも丁寧な人だこと。手紙になんて書いてあったんだ?
「こちらこそお初にお目にかかります。わたしは、一ノ瀬孝人。ゴブリン駆除ギルドのマスターをしております。横にいるのはラダリオンです」
丁寧に挨拶されたので、こちらも丁寧に挨拶を返した。
「どうぞ奥へ。詳しいお話をお聞かせください」
これまた丁寧に奥へ通され、来客用の部屋に入り、紅茶を出してくれた。
「伯爵様の手紙にはなんと?」
「秋の終わりにゴブリンの大群に襲われ、タカト殿に救われたと。食料不足のため助けて欲しいとのことです」
他にも書いてあっただろうが、重要なことだけを抜粋したか。できる商人って感じだな。
山黒の魔石の代金と伯爵から預かった金貨二十枚をテーブルに置いた。
「これで買える食料を売っていただきたい」
失礼しますと、革袋を開いて中を確認するノーマンさん。
「……かなりの量になりますが……」
「そこは問題ありません。魔法で運びますので。あとで実践してみせます」
商会の裏でやれば騒ぎにはならんだろう。いや、驚かれはするだろうけど。
「わ、わかりました。アシッカの状況を教えていただけませんか?」
と言うので、ゴブリンに襲われたときから今の状況を語った。
かいつまんでの説明だったが、あれこれと問われて昼近くまでかかってしまった。
「ラダリオン。ホームにいってていいぞ」
お腹の虫が抗議をあげてきたのでラダリオンをホームに帰した。
「い、今のは?」
「詳しい説明はできませんが、わたしたちゴブリン駆除員だけが使える魔法です。この魔法を使ってアシッカに食料を運びます」
「……とんでもない魔法ですな……」
「その代償として一生ゴブリン駆除をしなければいけませんがね」
と言うか、見返りなんてなにもねーな。ただ、生き残れるってだけだわ。
「それで、食料は用意していただけますか?」
「はい。倉庫に芋と豆、にんにく、種籾があります。あと、同業の者に声をかけて貯蔵用の大麦を仕入れます」
「それは助かります。午後から始めてもよろしいでしょうか? 昼の間に仲間と打ち合わせしてきますので」
「わかりました。こちらも用意を進めておきます」
「では、またここに現れます──」
来客室からホームに入った。
「ミサロ。話は纏まった。午後から運び込むからパイオニア四号を出しておいてくれ」
一旦、ガレージに保管して、少しずつアシッカやマイセンズの砦に出していこう。
「了解。先にお昼を食べちゃって」
ミサロの指示に従い、用意してあったミートボール入りスパゲッティーをいただいた。付け合わせのガーリックトーストが美味い。
「タカトさん。伯爵様がコラトラ商会の手紙を受け取りました」
「あいよ。午後から食料を運び込むからミリエルもアシッカに運んでくれ。リヤカーに積むから」
「わかりました。それと、シエイラさんから銅貨を仕入れられないかと相談を受けました。他からきた人が持ち帰って銅貨が不足しているそうです」
「もう足りなくなってきたか」
食事を止めて部屋の端に置いてた手提げ金庫を開ける。
金貨が二十枚。銀貨が五十六枚。大銅貨、銅貨、小銅貨は……いっぱいだ。
これの他にもカインゼルさんの小屋にも分けてあるが、とてもじゃないが足りないな。
「魔石はどのくらい残ってた?」
「これだけです」
と、段ボールに入れた魔石をミリエルが持ってきてくれた。
入れ物! とか言わないで。ちょうどいいのがなかったんだよ。
「結構あるな。魔石、売ってないのか?」
「あまり売りすぎると値崩れするから必要なときに売るといいと、シエイラが言ってたわ」
まあ、確かにそうか。去年はたくさん魔物を狩ったしな。
「ロースランの魔石を売って両替屋で細かくしてもらうか」
まったく。やることいっぱいだよ……。
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