第271話 再び現れる
朝の二時にミリエルらと交代し、オレはホームで休ませてもらった。
あれだけ眠ったのに、シャワーを浴びてビールを飲み、マットレスに横になったら九時まで眠ってしまった。
「ミリエルたちは駆除を開始したそうよ」
マットレスの上でやってしまった! と茫然としてたらミサロがそんなことを言った。ところで、なにしてんの?
「香辛料からカレーを作ろうと思って」
カレールーと言う神の調味料があるのに? てか、いきなり香辛料からは難易度高杉くんじゃないか?
「じゃあ、弾入れするか」
「職員にやらせてるわ。これと言った仕事がないみたいだから」
ちゃんと外に出て職員とコミュニケーションを取ってるんだな。
「それより台所をもうちょっと大きくして欲しいわ。コンロとオーブン、ピザ窯もあると助かる」
レストランでも開こうってのか? いや、ビジネスホテルの厨房を、とか考えてたけどさ。
「わかった。台所は大切だからな」
台所はミサロの城。望むがままに……とはいかないが、あるていど望みは叶えてやろう。裏方は大切にしないとならないからな。
「ただ、プライムデーまで待ってくれ。七十パーセントオフで増設できるから」
セフティーはつけたくないので外させてもらってます。
「構わないわ。本格的なのはまだ作れないからね」
今、本格的なカレーを作ろうとしてません? 作れるのかは知らんけど。
「外に出てくるわね。弾入れが終わっていると思うから」
香辛料混ぜを一旦中止して台所を出ていった。外の様子、わかるのか?
「──なわけないか。シャワー浴びてこよう」
弾薬は補充してあるだろうから急ぐこともないはず。アルズライズも今日は慎重に動くだろうからな。
シャワーをサッと浴び、簡単な装備をしてマガジンが消えていくのを見守った。
今日は416Dを使っているようで、アサルトライフルのマガジンが次々と消えていっている。416Dも十丁ばかり増やしておくといいかもな。
玄関も広くしてガレージ化させたいな。パイオニアも二台入るようにしたいし。
「稼いでも稼いでも我が暮らし楽にならず、だな」
今回ので一千万円は超えるだろうが、五百万円は軽く使いそうだ。明日はオレも出て稼ぐとするか。
まあ、今日の駆除数に依ってはゴブリンが瓦解しかねない。さすがに何日も狂乱化が続くとも思えない。いや、共食いをさせてしまってるか?
「それだと逃げなくなるか?」
ゴブリンを知ったようで知らないことばかり。まあ、だからってわかりたくもない存在だけど!
アサルトライフルのマガジンはパレットで買ったので、予備は五百個くらいあるし、マガジンローダーですぐに入れられる。そう急いで弾入れすることもないだろう。
「空マガジンお願いね!」
ミリエルが一瞬だけ入ってきて空マガジンを詰めたコンテナを置いていった。
416Dの棚を見たら五丁すべてが消えていた。
「MINIMIは掃除に出しているのか?」
二丁だけ残して棚から消えていた。
ミサロが一輪車を押して戻ってきた。たくさんのP90のマガジンを積み込んで。
「職員たち、がんばったようだな」
一輪車には百本近いマガジンが積んである。入れるの大変だったろうよ。つーか、棚に戻すのも一苦労だよ。
「──タカト」
もう少しで終わりそうな頃、ラダリオンがホームに入ってきた。どうした?
「職員たちと会った。四十番目のところ」
じゃあ、夜には合流できるな。
「皆、疲れてたか?」
「ううん。無理せずきたみたいだから疲れたのはいなかった」
「そうか。いいもの食わせてやってくれ」
今日は香辛料混ぜだったので、特上うな重を買って渡してやった。
「マガジン二百本が消えたわね。職員に入れさせるわ」
記憶力がいいのか、ミサロは弾薬の数を把握しているようで、バラバラに入っている空マガジンを整頓。弾を一輪車に載せて外に運んでいった。
「……さすが元魔王軍幹部。下を使うのに躊躇がない……」
オレも人を使うこと、人に任せることを学ばないとな~。
ミサロが戻ってきたらMP9装備にして外に出た。
職員たちがいつきてもいいように男湯も作り、水を溜めておく。
「旦那。戻ってきててよかった」
簡易砦の周辺を哨戒していたロズとライゴが戻ってきた。どうかしたのか?
「四足歩行の大きな足跡があった。数から二匹だ」
「熊か?」
冬眠しなかったものでもいたか?
「いや、熊じゃない。前足が大きくて後ろ足が一回り小さかった」
ん? それってもしかして山黒じゃね?
「新しかったか?」
「ああ。ついさっき歩いた感じだ」
すぐにホームに戻り、リンクスと予備のマガジンを持ってきた。
「二人は簡易砦にいろ。おそらく山黒の番だ」
そう言った瞬間、仕掛けた手榴弾が爆発した。もうそこまで近づかれているよ! ほんと、ゴブリン以外役立たずだな、オレ!
とは言え、今のオレにはチートタイムがある。武器がある。山黒がどんな魔物か経験できた。
「もう一匹近くにいる! 無理せず牽制しろ!」
現れたのは一匹。前のより二回り小さい。若い番なんだろう。なら、問題ない!
何度もの戦いで度胸がついたのか、山黒を前にしても恐怖で足がすくんだりはしない。まあ、怖いは怖いが、怒ってる中型犬を前にしているくらい。今なら中型犬でも勝てる自信があるぜ。サシでの勝負なら、だけど!
チートタイムスタート! で、山黒に迫り、顔に向けて一発。さらに一発。魔法で血を抜いてやった。
一瞬にして一メートルくらいの血の球が完成。これだけ血がなくなればさすがに生命活動はできないだろうし、仮にできたとしても虫の息。あとでゆっくり止めを刺せばいいだけだ。
「旦那!」
ロズの叫びに振り向けば、回り込んだ山黒がいた。
すぐに迫り、残り三発を眉間にぶち込んでやり、そこから魔法で血を抜いてやった。
今度は抜けるだけ抜いてやると、二メートルくらいの血の球が完成。遠くに投げ放った。
チートタイムを止め、グロックを抜いて首筋に向けて全弾ぶち込んでやった。念のためだ。
「ロズ、マッシュ、そっちのを止めを刺せ。あと、魔石も取ってくれ。オレは子がいないか探ってくる」
リンクスのマガジンを交換し、周辺を探りに出かけた。
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