第270話 金テコバール

 狂乱化の臭いが二キロ離れていても鼻に突き刺さった。


「あいつら、挑発させすぎだな」


 二キロ先がゴブリンの気配でごった返っしている。どうやらミリエルたちは囲まれているようだ。


「まあ、なんとかなるか」


 チートを使わず森の中を駆け抜け、ゴブリンの気配とミリエルたちの気配の位置を確認。作戦のイメージを高めたらチートタイムスタート。周辺から水を集めて二メートルの水球を作り上げた。


 圧縮して一点から発射。ミリエルたちに当たらないよう薙ぎ払った。


 すぐにチートタイム停止。VHS−2を構えて装備している五つのマガジンを使い切るまで撃ち続けた。


 焼け石に水ほどの数しかゴブリンを駆除できなかったが、ミリエルたちを逃すために一角を崩したまで。ホームに入りマガジンを詰め換えたら金テコバール(一・八メートル)を買った。


 これならチートタイムに耐えられるはずだし、多少曲がっても問題ない。鈍器として使うわけだからな。


 外に出てチートタイムスタート。金テコバールを振り回してゴブリンの命を刈り取っていった。


 さすがメイド・イン・ジャパン。百匹倒してもダイジョーV。すこしも歪みやしないぜ。


 一分で二百匹を駆除したところでストップ。返り血で酷いことになった。傍目から見たら完全にバーサーカーだよ。


 魔法で装備についた血を集めてポイ。水属性で本当によかったよ。


「下がるぞ!」


 ミリエルたちに叫び、この場を撤退して簡易砦に向かった。その際、処理肉をばら撒くのは忘れない。まだ半分も減ってない感じだからな。


 簡易砦まで三キロくらいあるが、安全のためにいっきに駆け抜ける。


 到着したら四人の装備を解かせて休ませ、ホームから新しい武器を出して使った武器は整備のために戻した。


「ビシャとメビは風呂に入れ。ミリエルはホームで入ってこい。アルズライズはビールにするか?」


「ああ、頼む。久しぶりに全力を出して喉がカラカラだ」


 外に出していたクーラーボックスから冷えたビールを出してやった。


「動いたあとのビール。クセになるな」


 相変わらずよく飲む。これで酔わないんだから凄いもんだよ。


「オレは夕方まで寝るから頼むな」


 チートタイムになると体力気力が全回復して、終わってもその状態が続いて眠気もなくなるのだ。とは言え、さすがに休まないと体に悪い気がする。七時間くらいは横になろう。


 眠れるかな? と思ったけど、横になったら意識がなくなり、目覚めたら暗くなっていた。


「……十七時か……」


 アポートウォッチをミリエルに貸してたが、時間は大切なので代わりの腕時計はちゃんとしています。


「すまない。寝過ぎた」


 焚き火が焚かれ、串肉を焼いているアルズライズ。たこ焼きから串肉に変わったのかな?


「構わん。なにもなかったからな。ミリエルたちは先に休ませた」


 見ればビシャとメビがくっついて眠っていた。起きてるときはよくケンカするのに、眠ってるときは仲いいのな。


「世話をかけたな」


「気にしなくていい。素直なヤツらだったからな」


 和らいだ表情を見せるアルズライズ。まるで父親の顔だな。


「もしかして、子供がいるのか?」


「昔な。竜に食い殺された」


 だから竜に挑むとか言っていたのか。


「悪い。変なことを訊いた」


「構わん。竜に対抗できる武器を手に入れられ、こうして美味い酒と美味いものが食える。それに、こうして普通に接してくれるヤツがいるからな」


 ん? オレのことか?


「おれはこんな見た目だ。普通に敬遠される。口下手でもあるから隊も組めない。こうして仲間として受け入れてくれるタカトには感謝している」


「普通に話していたと思うし、そう凶悪には見えんけどな」


 まあ、最初は確かに怖くてビビったが、慣れたらアーノルドなシュワさんに見えるし、必要最低限なことは話していた。律儀だし、無駄に威圧することもない。付き合えば気のいいヤツってわかる。


「お前は誰に対しても壁を作らないからな」


 権力者や面倒なヤツには壁を作るぞ。


「まあ、しばらくお前のところにいさせてくれ」


「好きにしたらいいさ。別に迷惑でもないしな」


 どちらかと言えば助かっている。金印がいてくれたら他の魔物が出ても安心していられるからな。


「あとはオレが見張るから休んでいいぞ。明日も朝からたくさんのゴブリンを駆除しないといかんからな」


「そうだな。今日は調子に乗ってゴブリンを引き寄せすぎた。明日は上手く分散させながら狩るとしよう。そうだ。お前が使っていた鉄の棒を貸してくれるか? 持ってきた剣が折れてしまったのだ」


「オレにはちょっと使い難いかったからやるよ」


 ただただ無駄に返り血を浴びるだけの鈍器だった。これならまだマチェットのほうが綺麗に殺せるよ。


「いいのか? あの動きに耐えられるものだろう?」


「一万円もしないで買えるものだよ。もし、先を尖らせたいなら削ってやるから遠慮なく言ってくれ」


 サンダーで削るだけだし。


「気になるならバールで調べてみるといい。いろんな長さのがあるから」


「わかった。調べてみる」


 まだ眠る気がないようで、熱燗を飲みながら請負員カードでバールを調べ始めた。


「ロズたちも酒を飲んで休んでいいぞ。朝までオレが見張るから」


 交代して休んだだろうが、酒は飲めなかったはず。明日のために鋭気を養って酒を飲むといいさ。


「じゃあ、ありがたく休ませてもらいます」


 パイオニアに置いたメガネをかけ、簡易砦から出て哨戒に当たった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る