第314話 練習

 男爵夫人にマンドラゴラ村のことを話した。


「……そうですか。怪我だけで済んでよかった」


 魔物に襲われるのは日常なようで、男爵夫人は取り乱すことはなく、オレの説明を素直に受け入れた。


「その怪我もミリエルが治すでしょうから無事帰ってきますよ」


「ありがとうございます。タカト様には助けられてばかりです」


「お気になさらず。こちらも利益のために動いているだけですから。まあ、男爵様とは仲良くしていきたいので五体満足のまま連れてきますよ」


 男爵の子供が大きくなるまでは生きててもらいたいし、伯爵を支持してもらいたい。売れる恩は売っておかないとな。


 ……恩を感じないクズなら切り捨てるけどな……。


 なんて考えられるようになるとか、オレもスレたもんだ。厳しい世界で生きると性格まで変わっちゃうものなのかね?


「わたしはこれで失礼します。マンドラゴラ村もまだ落ち着いていませんので」


「はい。お気をつけて」


 てか、男爵夫人、やけに品があるよな? こう言っては失礼だが、こんな田舎に不似合いな人だ。どこかいい家の出なのかな? 貴族社会は謎ばかりだ。


 男爵夫人や子供たちに見送られ、借りている家のに向かった。


「メビ。アリサ。オレはマンドラゴラ村にいく。気をつけて帰れよ」


「タカトも気をつけてよ。すぐ無茶するんだから」


「ああ。無茶はしないよ」


 心配そうにするメビの頭を撫でてやり、マンドラゴラ村に向かった。


 一人での移動だが、エビル男爵領からの支援なのか、荷物を運ぶ者がちらほらといた。


 あ、もしかして親戚か? 他領ではあるが、婚姻関係が多いと言うしな。


 トラブルもなくマンドラゴラ村に到着。ロースランの被害などいつもの事とばかりに村人たちが活動していた。


「あの巨体がなくなっているよ」


 四メートルもあったのに、今は大地に染みた血が黒くなっているだけ。ここのヤツらは骨まで食らい尽くすのか?


「──タカト」


 ここのヤツらこえぇ~! とか戦いていたらアルズライズがやってきた。


「お疲れさん。ミリエルは?」


「怪我人を治している。おれは見回りだ」


 じゃあ、ビシャが護衛してるんだな。


「そうだ。ロースランがゴブリンと共生してるって話、聞いたことあるか?」


 ちょっと気になったので金印の冒険者に訊いてみた。


「いや、ない。だが、ロースランの側によくゴブリンがいたと言う話なら聞いた記憶がある」


 てことなら共生しているのは確定とみていいだろうな。


「なにか気になることがあるのか?」


「いや、共生しているのならロースランの情報を得ればゴブリンの情報を得たも同じ。探す手間が省けると言うものだ」


 どんな共生しているかは興味はない。どうでもいいことだ。オレが知りたいのは共生している事実だけ。それが事実なら冒険者ギルドで情報収集できるってことだからな。


「ゴブリンはどこにでもいるが、どうせなら一網打尽にしたほうが人を送れるからな」


 オレとしては山に入って地道に駆除していくほうが儲かるが、請負員が増えたら定期的にゴブリンを駆除させないと失効してしまう。ゴブリン駆除ギルドを存続させるためにも請負員にゴブリンを提供(?)しなくちゃならない。ロースランとゴブリンが共生しているって情報は今後のためになる。


「なるほど。ロースランがいなくなればゴブリンもいなくなるか」


「違う魔物が集まってくる恐れもあるがな」


 ダメ女神のせいでこの世界は命に溢れ返っている。ロースランとゴブリンがいなくなれば違う魔物がやってくるはずだ。いや、ゴブリンが戻ってくるほうが早いか?


「なにか魔物の気配とかは感じるか?」


「いや、ない。静かなものだ」


 金印がそう言うなら信用に値するな。


「じゃあ、ちょっと付き合ってくれ。アルズライズに覚えていて欲しい武器がある。それなら竜でも撃ち落とせるはずだ」


 あの日見たレッドなドラゴンに通じるかはわからないが、対抗手段がそれしかないのなら使いこなしておくべきだ。


「わかった。覚えよう」


 エビル男爵に村を離れることを伝え、ミリエルたちにも声をかけてからロースランの群れが隠れていた洞窟に向かった。


「凄まじいな。それこそ竜が炎を吐いたようだ」


 万が一、ロースランが住み着いてないかを確認するために洞窟に向かうと、その惨状に呆れるアルズライズ。確かにあのレッドなドラコンのブレスだって言ったほうが納得されそうだ。


「そんなものに挑もうとするアルズライズが凄まじいよ」


 オレは見ただけで大洪水を起こした。戦うと考えただけで膀胱に亀裂が入る思いだよ。


「ふふ。そうだな。それで、どんな武器なんだ?」


 RPG−7の発射器だけまず取り寄せた。


 構造とか歴史的背景などオレは知らんので、使い方だけを説明した。


 アルズライズも銃を使っているので、大まかなことは一回の説明で理解し、次はロケット弾を取り寄せた。


 RPG−7のロケット弾は爆発するのと飛ばすのとで分かれており、その二つをセットして発射器に入れる。


 もう一セット取り寄せてアルズライズにもやらせ、納得できたら塗装スプレーを取り寄せて壁にドラゴンの絵を描いた。まあ、的だな。


 前に発射した場所へ移動し、まずはオレが撃ってみせた。


「…………」


 さすがのアルズライズもRPG−7の威力に絶句していた。


「そこそこのRPG−7は十万円くらいで買える。ロケット弾も五万円のものを買えばハズレはないはずだ。オレがいれば出すが、一人のときのために最低でも百万円は常に入れておけよ。どんな竜でも十発も食らわせたら倒せるだろうからな」


 それで倒せないのならうん十億稼いで戦車でも買え。説明書があるなら読んでやるからよ。


「もう一度、最初から説明をする。頭に刻み込め」


「ああ、わかった」


 ロケット弾を取り寄せた。

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