第21話 優秀

 まず、ラダリオンに外に出てもらい、すぐに戻ってきてもらった。


 ちゃんと上着は着ており、体も服も出たときと同じサイズ。すっぽんぽんでなくてなによりだ。


 それがわかれば服選び。下着はよくわからんがSサイズを買っておけば問題なかろう。まだ幼児体型だし。


 メジャーを買い、体のサイズを計る。体型が人とはちょっと違う。サイズを考えて服を選ばなくちゃ動き難くなるだろう。


 登山用子供服からサイズのよさそうなものを選び出した。丸一日かかってな!


「こんなものか? どうだ、ラダリオン。キツくないか?」


 多少袖や裾は長いが、そこは捲れば問題はないはずだ。チョイスもいい感じだ。


「大丈夫。前着てたのより楽」


 それはなにより。なら、今まで着てたのは廃棄だな。臭いし。


「ラダリオンは武器、なにが使える?」


「石斧しか持ったことない」


 あの切れ味皆無の斧と言うよりハンマーに近いものな。それなら薪割り用の手斧と刃渡り三十センチくらいのマチェット、細かい作業ができるナイフでいっか。


 さすがにまだ銃とか渡すのは怖い。拳銃も巨大化したら戦車砲だ。近くに撃ち込まれたら挽肉必至だわ。


 タクティカルベルトを買い、マチェットとナイフを装備させてラダリオンにつけさせた。ちなみにラダリオンは右利きでした。


「一旦、外に出てみるか。出たらその場から動くなよ」


 潰されたら敵わんからな。


 出ようとしたら二人同時は無理のようで、まずはラダリオンを出させ、窓からラダリオンの位置を確認してから外に出た。


「出た位置はそれぞれが入った場所みたいだな」


 同時に出れないと言うなら同時にも入れないってことか。ちゃんと安全機能が搭載してるかわからないし、確かめるのも怖いから少しずらして入ることを心がけよう。金が貯まれば安全に出入りできるよう設定しようっと。


「ラダリオン。ゴブリンの気配はわかるか?」


「気配はわからないけど、臭いはする。あいつら独特の臭いがするから」


 まあ、確かに臭いヤツらだったが、一番近いところのゴブリンまで二百メートルは余裕で離れているぞ? それで臭いを嗅ぎ分けるとか犬かよ!


「他の臭いはするか?」


「鹿の臭いがする。あと、小さいのもいるみたいだけど、臭いが小さくてよくわかんない」


 あるていどの大きさがないとわからないってことか? まあ、鹿以上のがわかるなら狼とかもわかるはず。なら、笛を持たせて近づいたら教えてもらえるってことだ。


「ところで、オレの臭いもわかるんだよな?」


「わかる。タカトの臭い、独特だから」


 臭いとかじゃないよね? もうそう言う年頃なんだから言われたらショック死するよ。


「昼までまだ時間がある。腹が減るまでゴブリンを駆除してきてくれ。たくさん殺せば美味いものが腹一杯食えるんだからな」


「わかった! いっぱい殺してくる!」


 そう言うと、ドスンドスンと森の中へ消えていった。


「……巨人に滅亡されそうな世界じゃなくてよかった……」


 あんなもんと戦うとか頭おかしいとしか言わんだろう。どんな非難を受けようがオレなら即行逃げるわ。


「なんて、逃げられないのが現実なんだよな」


 ラダリオンにやらせて上前をいただく、なんてしてたらラダリオンからの信用はなくなり、気に入らないと踏み潰されるかもしれない。そんな未来ごめんである。


 信用され信頼されるにはラダリオンより多くのゴブリンを駆除するか、リーダーシップを示すしかない。誰も口ばっかりのヤツになんてついてきたくないんだからな。


「まずは印をつけ回らないといかんな」


 オレには帰巣本能はない。方向感覚も優れているわけでもない。こんなだだっ広い森の中をなんの手がかりもなくここに戻ってこれる自信はない。もちろん、磁石は働いてくれるので東西南北はわかる。


 だが、走りながらなんて方向確認はできない。万が一に備えて印はつけておくべきだろう。


「こう言うとき十五日縛りはキツいよな」


 もちろん、マチェットで木に傷をつけることもやるが、目立つほうがわかりやすいってもんでしょ。


 方位磁石を使いながら百メートルのところにピンクのビニール紐を括りつけ、所々絡ませながら紐いっぱい伸ばした。


 戻る際にマチェットで傷をつけて戻り、逆にビニール紐を伸ばしていった。


「お、さっそく報酬が入ったか」


 どう駆除したかまではわからないが、いっきに一万五千円が入ってきた。やるじゃないか、ラダリオンのヤツ。


 二百メートル先にいく途中でさらに四匹を駆除。またいっきに入ってきた。


「巣を潰してるのか?」


 その考えが正しいことを証明するかのように数匹分の報酬がいっきに入ってきた。


「この短時間で十四万円とか優秀すぎんだろう!」


 二十八匹って、オレが一日かけて駆除する数だぞ。オレ、この世界に連れられてきた意味ある?


 理不尽に負けそうになってると、ドスンドスンと地響きが伝わってきた。敵だったら大洪水起こす音だよな。


「タカト! お腹空いた!」


 オレが腕を回したくらいの木を途中から折るラダリオン。怪力ですこと。


「あ、ああ。じゃあ、昼にするか」


「うん。早く帰ろう!」


 その場でセフティーホームに入った。

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