第134話 鈍感系

 今からすぐ、ってわけにはいかないので、ギルドマスターの仕事が一段落するまでビシャをカインゼルさんのところへと連れていくことにした。


 さすがに領主代理の前にビシャを連れていくわけにはいかない。もしかすると泊まっていけとか言われそうだしな。今のうちにビシャを連れていこうってわけだ。


 冒険者ギルドの横の広場にパイオニアを出し、カインゼルさんたちのところへと向かった。


 気配はかなり遠くてうっすらとだが、メビの気配もあるので方向を見失うことはない。近づけば近づくほど気配は強くなるから迷うことはない。まあ、何度か道は間違えたけど。


 十五時前にはカインゼルさんたちと無線が届く距離までこれ、連絡を取り合いながら合流してギルドマスターとの話をかいつまんで説明し、ビシャを任せた。


「領主代理か。ミシャード様はギルドマスターよりやり手な方だから注意しろ。言質を取られるようなことはするな」


 ハァー。そんなこと言われたら会いたくなくなるじゃん。止めてよ~。


「まあ、わしらはタカトが決めたことなら従うし、どこまでもついていくよ」


「うん。タカトについていく」


「あたしも! ついてくよ!」


「あたしもついてく!」


 その信頼が重い。だが、ありがたくもある。やれることはやるしかないか。ハァー。


 戻る頃には四時半となっており、近場で仕事をしていただろう軽装の冒険者たちがちらほらと見て取れた。


 広場にパイオニアを停めて冒険者ギルドに入ると、ルスルさんがいた。


 マルスの町のギルド支部の副支部長であり、。真面目が服を着たような人でもあった。


「お久しぶりです」


「ええ。久しぶりです。ご活躍の様でなによりです。マルセ地区のことは聞いていますよ」


 バズ村からオレのことが伝わるならマルセ地区からも同じく伝わるはずだが、この人ならそんなこと関係なく情報収集してるタイプだろうよ。


「そうですか。バズ村はまだゴブリンが出てますか?」


「少しずつ増えているとは聞いていますが、被害は出てないそうです」


「やはりゴブリンは定期的に駆除しないといけないようですね。またそちらにお邪魔させていただきます」


「そうしていただけると助かります。ロンダリオたちが受けてくれるようになりましたが、数が数なので全域を回ることはできませんので。では、失礼します」


 と、そこでルスルさんと別れた。あの人も忙しそうだ。


 職員に戻ってきたことを告げると、シエイラさんがやってきた。なにやら怖い笑みを浮かべながら。咄嗟に右向け右。ダッシュで逃げ──られなかった。


「タカトさん。ギルドマスターの用意が整うまで別室でお話しましょうか」


「あ、いや、オレ──」


「言い訳は別室で聞きますよ」


 と別室へと連行され、支部にはどうしてドーナツを差し入れして本部には出さないのかを問いつめられた。


 そんな勝手な女の言い分断れよ! なんて指摘する君、顔は笑顔だけど目が笑ってない女の前でも同じこと言えんの? 完全に敵になるわ! 一生爪弾きにされるわ! 断れねーよ!


「ドーナツ、高いので一人一個ですよ」


 それでもナメられるわけにはいかないので、言うべきことは言ってやる。時間ができたらパンツ交換しないと。


「はい。ありがとうございます」


 ラダリオンが帰る前に補充しておかないとなと、買い置きのドーナツをホーム(セフティーと呼びたくなくなった)からドーナツを持ってきた。


「これは買えるものなんですか?」


「オレは好きでもない女のために命を懸けてまでゴブリン駆除をがんばる男ではありませんよ」


 暗にゴブリンを駆除した金で買っていると告げてやる。


 美人だからと女の色仕掛けに嵌まるほど女を知らない童貞ではない。色の裏にある欲ぐらい見抜けるわ。


「硬派なんですね、タカトさんは」


「それなりに経験してきたまでですよ。あなたのようにね」


 完全無欠に偏見であるが、この歳でここまでエロいのだからそれなりには経験してきたはずだ。これで処女だったら逆に怖いよ。触れちゃいけないサンクチュアリだよ。


「フフ。幼い顔して中身は大人なんですね」


「臆病で弱い、情けない男ですよ」


 レッドなドラゴンを見て大洪水を起こすようなチキン野郎だ。カッコつけるのも恥ずかしいわ。


「謙虚すぎるのも嫌みですよ」


「嫌みで結構。大言壮語で死地に向かわされたらたまったもんじゃありませんからね」


 オレはオレの命が大事であり、ラダリオンたちを率いれた責任がある。女の色仕掛けごときで命懸けてらんねーんだよ!


「責任感が強いんですね」


 この人はかなりの経験を積んでると見た。見透かされてる!?


「──タカト。ここか?」


 と、ギルドマスターが入ってきた。ホッ。ナイスタイミングです。


「シエイラ、またか? お前の悪い癖だぞ」


 なにやら呆れた感じのギルドマスター。この人はいつもこんなことしてんのか?


「はい、すみません」


 妖艶な笑みを浮かべ、ドーナツの箱を抱えて部屋を出ていった。


「すまんな。あれは見所のある男はすぐ試す癖があるんだよ」


「構いませんよ。試されたところでオレの今後が変わることはありませんしね」


 別にシエイラさんとどうこうなりたいわけじゃない。嫌われないていどの関係ならそれで充分さ。


「それであの笑いか。お前、シエイラに気に入られたぞ」


 気に入られた? そんな要素どこかにあった? 嫌われる要素ならそこかしこにあったと思うんだがな?


「ハァー。お前もお前で難儀なヤツだよ」


 はぁ? どう言うこと? オレはシエイラさんのように人を試したりしないですよ? 

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