第133話 女神の鉄砲玉(セフティーブレット)
「そうだ。ギルド名はどうする?」
ギルド名?
「名なしでは不便だろう。支部に伝えるにもタカトとその仲間たちでは格好がつかんだろう」
確かにそんな名前で呼ばれるのも恥ずかしいな。なににしよう?
──ピローン!
と、また電子音が頭の中で響いた。はぁ?
──ギルド名、セフティーブレットに決定しました。たくさんゴブリンを撃ち殺す意味を込めて名づけました。異議は認められません。あ、わたしが送り込んだ鉄砲玉って意味ではありませんのであしからず。
ん? ん? ん? 情報量が多すぎてどこから突っ込んでいいかわからない。え? どーゆーこと? どう理解したらいいの? 誰か説明して!
「い、今の声はなんだ? どこからした?」
はぁ? ギルドマスターにも伝えたのか? 請負員にしたからって部外者だぞ? ダメ女神の存在を教えてもいいのか?
「オレにゴブリンを駆除しろと命令した女神です。今の感じからしてセフティーって名前かも」
安全って意味かと思ったらダメ女神の名前だったのかよ! ややこしいな! じゃあ、セフティーホームって女神の部屋ってことなのか?
「タカトは勇者なのか!?」
この世界ではそれが当たり前の事実なのか?
「オレは勇者ではありません。ゴブリンを駆除しろと別の世界から連れてこられた一般人です。与えられた力もゴブリンの気配がわかることと、ゴブリンを殺しても罪悪感がでないことです」
セフティーホームもだろうが、直接ゴブリン駆除に関係はないので除外させていただきます。
「……なるほど。タカトから感じる違和感はこれだったか。主よ、地上に光を与えてくださり感謝します……」
無神論者かと思ったら、ガッツリ信仰心の強い人だった。床に両膝をつけて手を組ませて祈ってるよ。
「祈っているところ申し訳ありませんが、この世界に広まる神とは別ですよ。謂わば、この世界を創った神、創造神ですね」
ポンコツなのは黙っておこう。
「それなら尚さら尊い存在ではないか! あぁ、創世のセフティー様、この地に光を導いてくださりありがとうございます」
光? ってオレのこと? ちょっ、いや、マジで勘弁して! そんな大袈裟な存在にしないで! こっちは普通オブ普通として連れてこられた一般ピープルなんだからさ!
なんの祈りをしてたか知らんが、やっとのことギルドマスターが祈りを止めてくれた。
「先に言っておきますが、オレに過大な期待はしないでください。女神に使い捨てとして送り込まれただけの男なんですから」
ダメ女神は鉄砲玉じゃないと言ったが、完全に鉄砲玉だよ! ダメ女神の弾丸なんてつけてんだからよ! 弾丸は飛んでいったら戻ってこねーんだよ! クソがっ!!
「ああ、わかっている。創造神と言っても光神会は納得すまい。これは神に触れた者にしかわからないことだからな」
なにに触れたんだろう? オレは嫌がらせを受けたとしか感じないのに。
「不本意ではありますが、ゴブリン駆除ギルドの名前はセフティーブレットでお願いします」
ダメ女神からの強制か、セフティーブレット以外の言葉がまったく出てこない。だが、セフティーブレットと読んで鉄砲玉と書く、的なことまでは規制されていない。
鉄砲玉は鉄砲玉でも弾数無限の鉄砲玉だ。ゴブリンを駆逐するまで弾が尽きねーからな、こん畜生が!
「ああ。タカトが女神の使いと知っている者はどのくらいいるんだ?」
「駆除員として仲間にした者には教えています」
「そうか。それ以上は伝えるなよ。特に光神会にはだ。あそこは勇者信奉者でまとまっている。タカトが女神の使いとわかったら取り込もうと動くだろうからな」
それは絶対に知られたくないことだな。神兵として最前線に立たされそうだ。
「口が裂けても言いません」
「それがいい。ただ、妻にはしゃべらせてもらうぞ。さすがに秘密にしたら夫婦間にヒビが入るからな」
「確か、領主の妹さんとか?」
「ああ。領主代理としておれより仕事をしているよ」
「ギルドマスターと同じく人に任せるってことを知らなそうですね」
なんでもできる人ほど他に任せる才能がないよな。
「耳が痛いが、確かにそのとおりだな。あいつも自分で抱え込もうとする」
だろうな。領主の目が下まで向いてないし。
「せめて行政と司法は別の人に任せて、領主は領内に目を向ける時間を確保するべきでしょうね。領を支えてるのは領民なんですから」
民の暮らしがよくなれば税収も増える。なんて普通なことを普通にするのが難しいんだけどな。まあ、一般ピープルの愚痴だ。
「いや、事情を知らない部外者が生意気を言ってすみません。忘れてください」
「構わんさ。上になると進言してくれる者が少なくなり、相談できる者もいなくなる。毅然とした態度を取らなくてはとうちに閉じ籠る。タカトのような部外者だからこそ言ってくれて助かるよ」
この人はどこまで優秀なんだろうな? 部外者や下からの言葉を受け入れるなんてなかなかできないぞ。
「タカト。これから時間はあるか?」
あれ? なにか悪いほうに流れてるっぽいぞ。
「フフ。勘は鋭そうだが、それを顔に出したら意味はないぞ」
「凡人なので、優秀な真似はできないんですよ」
いつからオレを優秀だと勘違いしてるか知らないが、オレは凡人中の凡人でラインリーダーが精々。過度な期待をもたれてもプレッシャーで胃を痛めるか頭髪が抜けるかのアラサー男だぞ。
「お前はどこまでも謙虚だな」
「できないことはできないと正直に言っているだけです」
オレはできることを見極められる男なんだよ。
「そして、できないのなら別の方法を探すのだろう? 一人では無理なら数を揃える。揃えたら組織化する。後ろ盾を得るために冒険者ギルドにきた。なら、領主代理にも顔を覚えてもらっていたほうがいいぞ」
こうやってしがらみが増えていって、雁字搦めになるんだろうな~。
だが、個人で動くには限界がある。遅かれ早かれ権力者とは繋がる必要はあるのだ、まだ信用できる人の紹介で会っておくのがベストだろうよ。
「わかりました。領主代理と会わせていただきます」
あとは野となれ山となれだ。クソが!
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